寺本英仁の地域の“逸材”を探して

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寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第14回|亡き店主の意思を継ぎ、紡がれる四季の味【広島県北広島町】

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2026.05.01

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出典書籍:月刊『ガバナンス』2026年5月号  【WEB限定連載】

◆地元の食材を生かしたこだわりの日本料理

 僕の住む島根県邑南町の隣町の広島県北広島町は、僕が役場を退職してから初めてアドバイザーに就任した自治体で、今年で5年目を迎える。邑南町職員時代に立ち上げた「A級グルメ構想」では、小ロットの農産物を都会に売り出すのではなく、その農産物を地域内の飲食店で活用し「ここでしか味わえない食や体験」を感じるメニューでお客様を呼び込むことで、飲食店や入込客数の増加につなげること、地域内で農産物を循環し、六次産業化を進めることを唱えていた。

 その理念は、僕の中では当時と一つも変わっていない。北広島町でも、町内の飲食店に地元の食材を使ってもらうことを一番に取り組んでいきたいと考えていた。

 そんな中、北広島町内でも、地元食材にこだわり質の高い日本料理を提供する「四季乃家『彩蔵(あやくら)』」という店に出会った。

 店主の山本聖介さんは和歌山県出身で、日本料理の名店で修行した後、奥さんの実家である北広島町でこの店を開いた。「邑南町のイタリアンレストラン『AJIKURA(あじくら)』と名前が似ているから、広島市内からのお客様がよく間違える」と、冗談まじりに話す山本さんと、すぐさま意気投合した。

 見た目は強面だが、話すとユーモアたっぷりで愛嬌がある彼の魅力に、僕は一気に取り憑かれてしまった。年齢も同じと聞き、その距離感は一気に縮まった。もちろん、料理の腕前はいうまでもなく、僕は彼に「ミシュランを狙おう」とアドバイスをしていた。

 職人気質のところがあり、派手にPRすることには抵抗があったと思う。しかし、自分の店を全国に広めたいという強い気持ちから、得意なSNSを生かして積極的にPRし、3年くらい経過したときには、相当のフォロワー数を獲得していた。

 日本料理を極めていて、刺身など食材の見極めも絶妙であった。けれど、伝統的な日本料理のカテゴリーにとらわれることなく、米粉を活用したシチューを創作するなど、ジャンルにこだわらない一面も彼の魅力の一つであった。僕は「この店は近い将来、広島県内でも星を獲る名店になる」と思っていたし、関係者もそう疑っていなかった。北広島町でブランド化に成功した特産品「芸北サーモン」も、山本さんの惜しみない協力がなければ、実現しなかったといっても過言ではない。

◆意思を引き継いで

 そんな山本さんが、2025年の3月、突然この世を去るという信じられない出来事が起こった。僕は彼の料理を楽しみに、東京からの客人を迎えに行っている途中で、その悲報を聞くことになった。

 もう二度と彼の繊細な料理を口にできないという悔しさと悲しみ。これまで協力してくれた彼の突然の死に、一時は気持ちが沈む毎日を過ごしていた。山本さんは妻の裕美さんと二人三脚で、ここまでの「彩蔵」を築いてきた。裕美さんの気持ちを考えると、どう声をかけてよいかもわからず、複雑な気持ちで過ごしていた。

 すると25年の11月、裕美さんから「彩蔵」を「彩聖(さいせい)」に変更してお店をオープンすることを聞いた。店名の「聖」の一文字は聖介さんの名前から取ったものだ。裕美さんが聖介さんの意思を引き継いだ店だと確信した。

山本裕美さんの写真
北広島町で「彩聖」を営む山本裕美さん。

「彩聖」外観の写真

「彩聖」内装の写真
外観、内装ともに和を基調とする、美しい佇まいのお店だ。


 オープン後、会社のスタッフを連れてお店に行ってみた。料理の提供の仕方は変化していたが、聖介さんの料理を思い出す米粉のシチューや釜飯など、僕にとってはとても印象的だった。「天国で聖介さん、喜んでいるな」と、一皿一皿を食するたびに感じた。ここに漕ぎつけるまで、裕美さんにはものすごい葛藤と勇気が必要だったろうと思う。

 彩蔵の味を忘れられないお客様はたくさんいるが、一番忘れることができない裕美さんが、聖介さんの意思を引き継いでくれたことが尊いのではないかと僕は思う。

 これからたくさんの試練もあると思うけど、聖介さんは天国から裕美さんを見守っていてくれると思う。

彩ランチの写真
その日出会えた彩ランチ。地元食材がふんだんに使われている。

グラタンの写真
聖介さんを思い出す、米粉のシチュー。

店内に飾られるかわいらしい小物の写真

店内に飾られるかわいらしい小物の写真
店内に飾られるかわいらしい小物が、訪れた人の目を楽しませてくれる。

●「彩聖」
住所:広島県山県郡北広島町蔵迫258-1
TEL:0826-72-6361
定休日:水・土・日・祝(不定休)
Instagramアカウント:
「彩聖」公式InstagramへのQRコード

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著者プロフィール 寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役

1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。

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㈱Local Governance代表取締役/ちよだ地方連携ネットワーク地方連携特命官。1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。

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