【特別企画:自治体財務DX最前線】職員不足時代を生き抜く自治体財務事務の「次の一手」 生成AI・AIエージェントの活用と抜本的BPRが拓くこれからの行政経営(月刊 地方財務 2026年8月号)

NEW地方自治

2026.08.03

★この記事は、月刊「地方財務」2026年8月号に掲載されています。本誌はこちらからチェック!

月刊 地方財務 2026年8月号

月刊 地方財務 2026年8月号
別冊付録:事業別地方債実務ハンドブック 令和8年度版
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:3,960 円(税込み)
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 人口減少・少子高齢化に伴う税収構造の変化に加え、職員数の減少も進むなか、地方自治体が抱える業務負担は年々深刻化している。なかでも、予算編成・執行から決算、評価に至る「財務事務」は、定型的な処理が全庁に広く発生するため、職員が政策立案や計画策定といった本来注力すべきコア業務に十分な時間を割けないという構造的な課題を抱えている。

 本企画では、「財務事務の抜本的なBPR(業務再構築)」と、生成AIやAIエージェント等の最先端テクノロジーを組み合わせた「自治体向け財務DX伴走支援サービス」(財務DX)の全体像について、大阪府泉佐野市における共同研究の成果を交えながら、実務的な解決策を探る。

1 自治体の現状と財務DXの必要性

 財務会計事務は全部署に関わるため、システム入力、添付書類確認、転記や集計など、一つひとつは小さく見えても全庁で積み上がれば膨大な手作業となり、ミスも避けられない。

 こうした定型業務に追われる結果、地域の実情に合わせた高度な行政サービスや計画策定に十分な時間を割けない現場のリアルな課題が浮き彫りとなっている。数多くの現場を支援する有限責任監査法人トーマツの淺沼由希子マネジャーは次のように警鐘を鳴らす。「財務事務の現場で本当に重いのは作業の難しさではなく、定型処理が日々多く発生し全庁で積み上がっていること自体です。この構造のまま職員数が減れば、システム入力や決裁、審査にかける時間が圧迫され、ミスや手戻りが増える悪循環に陥ります」。

 一方で、テクノロジーの側も大きな転換点を迎えている。「対話型」のAIから、複数の作業を自律的に進める「エージェント型」のAIへと進化しつつある。帳票の作成、形式的な審査、決算分析といった財務実務の周辺にも、AIが自律的に下支えする活用の余地が広がり始めており、淺沼さんは技術活用の本質を強調する。

 「AIエージェントは帳票作成や形式チェック、決算分析を下支えできる段階にあります。ただし、それは人の判断を置き換えるためではなく、人が判断に集中できるよう、その手前の作業を肩代わりするものと捉えることが重要です」。

淺沼由希子さんの写真
有限責任監査法人トーマツ
マネジャー 公認会計士 淺沼由希子さん。


2 トーマツが提唱する「会計事務の抜本的なBPR」

 財務DXで最初に問うべきはツールの導入ではなく、ツール導入の効果を最大化するための「BPR(業務再構築)」という。

 紙の伝票や押印を単にデジタルに置き換えただけでは、確認項目の多さや重複、担当者ごとの差戻し基準のブレといった本質的な負担は変わらず、かえって業務の複雑さを固定化してしまう。そのため、現状の業務フローを「見える化」し、決裁者の削減やプロセスの統合、重複書類の整理、不備抑制のためのチェックリスト整備、決裁者の削減やプロセスの統合などを、順を追って検討する必要がある。

 国の方針においても、デジタル化はBPRと一体で進めるものと位置づけられている。淺沼さんは、「ツールを導入するだけでは、アナログな規制や従来の習慣はそのまま残ります。だからこそ、私たちは現場に入り込み、どの確認が何のために行われているのか、どの書類が本当に必要なのかを一つずつ棚卸しすることを重視しています。単なるツール導入にとどまらず、現場に寄り添うBPRを組み合わせる――この伴走の思想が欠かせなのは、業務の前提を整えないままツールに載せると、かえって複雑さを固定化してしまうからです。難易度の高い領域には専門家が伴走し、定型的な領域は最適な仕組みに載せる、その切り分けが重要になります」と説明する。

3 小さく始め、段階的に広げる――泉佐野市の財務事務DX

大阪府泉佐野市

人口約9万9,700人(令和8年6月時点)。大阪府の南西部に位置し、大阪市中心部から約40㎞。市の面積は56.51㎢。関西国際空港の対岸(一部敷地を含む)に位置し、世界への玄関口として「りんくうタウン」を中心に発展を続けている。地場産業としては日本のタオル産業発祥の地である「泉州タオル」が有名で、泉州キャベツや玉ねぎなどの農業、漁港での熱気あふれる競りなど、豊かな自然の恵みもあわせ持つ。

 トーマツが提供する「自治体向け財務DX伴走支援サービス」の共同研究に取り組んだのが、大阪府泉佐野市(人口約10万人)だ。同市とトーマツには、これまでの公会計支援を通じて培った強固な信頼関係があり、共同研究の開始時、市はちょうど財務会計システムの更新時期を迎えており、システム調達に向けた仕様の整理等が課題になっていた。共同研究では、職員が手作業で担い続ける定型的・標準的な処理をどう減らすかを実務に即して確認した。こうした作業は、一つひとつは小さく見えても、全庁で積み上がると大きな負担となる。財務DXは、特定の大規模団体だけでなく、多くの自治体に共通する身近な実務課題の見直しから始められる。

 本取組は、まず首長部局等の予算執行業務での実務フローを確認し課題に対する改善策及び業務時間削減効果を検討した。つぎに、外部のアウトソーシング先がAIを活用したツールを使用し会計伝票入力を行い、自治体側が内容を確認する流れが実務として機能するかも検証した。

 数か月間の業務フローの見直しであっても、一定の業務時間削減効果が見込まれ、アウトソーシングによりさらに効果を高められる可能性が示された。しかし、実際の導入や本格展開にあたっては、その効果を冷静に見極める必要がある。泉佐野市で行財政管理・政策推進を総括する河野陽一・市長公室長は、「新たな仕組みを導入するには相応のコストがかかるため、費用対効果を踏まえて判断する姿勢が欠かせない」と言う。また、自動化が先行すると業務の空洞化や職員のスキル低下を招くリスクもあるという。河野さんは「業務を適切にコントロールし、そこから得られたデータを次の政策立案につなげるには職員側の深い『理解や習熟』が不可欠であり、だからこそ段階的な進め方が重要」と指摘する。

 また、自動化・外部化を実務に定着させるには、入力ルールや審査観点の標準化・明確化が前提になる。これらが曖昧なままでは、ツールを入れても担当者が確認し直すことになりかねない。

 全庁を巻き込む変革では、小さく始めて、効果を数字で示す進め方が現実的だ。財務会計の実務は全庁に関わるため、一度に変えようとすると現場の負担も大きい。まずは対象業務を絞って試行し、処理時間や差戻し件数、決裁日数などを確認する。効果が数字で見えれば、関係課の理解を得やすくなる。

 淺沼さんもこの泉佐野市での実践を踏まえ、「見えてきたのは、財務DXでは、団体ごとの課題や業務特性に応じて、対象業務と進め方を見極める必要があるということです。全庁・全業務を一度に変えようとすると現場の負担も大きくなります。まずは件数が多く、一定の型がある業務に範囲を絞って試し、運用上の課題を確認しながら広げていく進め方が、現実的な選択肢になります。もう一つの要点は、検証で得られた結果を、次の業務設計にきちんと戻していくことです。時間削減の効果だけでなく、職員側に残る確認負担や、判断・習熟が必要な領域を見極めながら、運用ルールや体制を整えていく必要があります。費用対効果を冷静に見極める姿勢と、職員の習熟。この二つを、私たちは伴走しながら一緒に組み立てていきます」と語る。

4 テクノロジーの活用と安全な運用体制(AIガバナンス)

 業務の見直し(BPR)という土台があってこそ、テクノロジーはその効果を最大限に発揮するという。生成AIやAIエージェントの導入で、特に定型的・標準的な作業が多い場面において、煩雑な入力やチェック作業から解放される。財務事務においても、予算執行における伝票起票のみならず、決算における前年度比較や異常値の抽出、予算編成における財政収支シミュレーションや予算要求資料の素案作成など、高度な業務支援も視野に入る。ここで重要なのは、職員が確認すべき「個別の判断が必要な領域」と「定型的な処理」の明確な役割分担となる。自治体実務には公金を扱う責任や個人情報保護、住民への説明責任など独自の制約があるため、AIガバナンスの構築が不可欠という。安全な運用ルール設計と、専門家が関与する安心のサポート体制が運用の大前提となる。

 淺沼さんは、「AIガバナンスと業務標準化は、別々の話ではありません。確認観点をチェックリスト化し、差戻し理由を標準化し、誰が見ても同じ判断に近づくよう整えること自体が、AIを安全に、かつ効果的に使うための土台になります。『異動しても、繁忙期でも、一定の品質で回る仕組み』にするための􄼴 は、まさにこの審査や確認の標準化にあります。

 自治体特有のリスクや環境に配慮しながらAIを実務に定着させるには、『使ってみて終わり』にしないことが肝心です。導入後も結果を確認し、運用ルールを見直し続ける、そのルーチンがあってはじめてテクノロジーは現場に根づくのです」と、その制度設計のあり方を強調する。

5 展望:ルーチンはAIに、職員は地域の未来を考える仕事へ

 財務DXの真の意義は、日々の伝票処理や審査を単に省力化することにとどまらないという。会計情報が作成され、確認され、蓄積される過程を丁寧にほどいて整えることで、決算、評価、次年度予算の検討へとシームレスにつながる、これからの「行政経営の基盤」をつくり直すことにある。業務フロー、判断基準、確認項目、データの持ち方を徹底して標準化すれば、これまでの、担当者の経験等に依存しがちだった処理を、組織として再現性のある安定した業務へと変革していくことができる。

 基盤が整えば、職員は手入力や形式的な確認、度重なる差戻し対応に追われる時間を大幅に減らすことができる。そして、生み出された時間と余力を、予算の有効な使い方、事業の抜本的な改善、住民や庁内への丁寧な説明、高度な政策立案といった「地域の未来を考える仕事」へと振り向けることが可能になる。

 「ルーチンはAIに、職員は地域の未来を考える仕事へ」――この転換は、単なる効率化の枠を超え、限られた人員のなかで自治体の体力を維持し、持続可能な行政サービスを支えるための、行政経営上の選択となるかもしれない。

 最後に淺沼さんは、全国の自治体職員へ向けて次のようなメッセージを送る。「行財政改革を模索している全国の自治体職員、とりわけ財政課・会計課の皆さまにお伝えしたいのは、財務DXは決して遠い未来の話でも、特別な団体だけの話でもない、ということです。伝票、審査、決裁の流れを一つずつ見直し、手作業と手戻りを減らすことから、どの団体でも今すぐ始められます。地域の未来をともに創るための変革への第一歩として、ぜひセミナーで具体的な進め方に触れていただければと思います」。

【表】財務事務における「職員の判断」と「自動化・外部化」の切り分け基準

領域 具体的な処理内容
(AI・システム・外部リソースの対象)
職員が責任を持って担うべきコア業務
(庁内に残すべき領域)
期中業務
(伝票・審査)
・請求書情報の読み取りとデータ化 ・伝票データのドラフト(素案)作成 ・添付書類の有無や金額・日付の整合性チェック ・差戻し理由の類型化と自動通知 ・支出内容が妥当であるかの精査 ・予算の趣旨や事業目的との整合性の確認 ・例外的な処理やグレーゾーンの最終判断 ・原課や利害関係者との高度な調整・説明対応
決算・予算
・評価業務
・決算集計および前年度比較の自動化 ・データの異常値抽出、説明文のたたき台作成 ・予算要求資料の素案作成 ・財政収支シミュレーションの自動計算 ・出力された数値や分析結果の正しい読み取りと検証 ・決算統計等の内容確認と必要に応じた調整 ・次年度予算の配分検討や事業改善の方針決定 ・EBPMに基づく政策評価の意思決定

 

セミナーのご案内

有限責任監査法人トーマツでは、自治体財務DXをテーマとした全3回のオンラインセミナーを2026年8月から開催する予定です。


 有限責任監査法人トーマツでは、自治体財務DXをテーマとした全3回のオンライン セミナーを2026年8月から開催する予定です。

 財務事務の現状課題、AI-OCR・生成AI・AIエージェントの実務活用、先進自治体の取組、事業評価・計画策定(EBPM・ロジックモデル)への展開などを取り上げ、実務に即した改革の進め方を紹介します。行財政改革に取り組む自治体・関係者の皆さまの参加をお待ちしています。

第1回 2026年8月5日(水) 14:00~15:30
自治体財務の現状課題と財務DX推進のアプローチ
財務事務に生じている構造的な業務負荷を整理し、見直すべき定型業務と財務DX推進のアプローチを解説します
第2回 2026年8月28日(金) 14:00~15:30
AI活用による業務の効率化・標準化とガバナンスの整備
AI-OCRによる証票電子化、生成AIを活用した起票・支出審査、決算分析、予算要求資料案の自動生成などを紹介します
第3回 2026年9月16日(水) 14:00~15:30
事業評価・計画策定フェーズの改革と「次の一手」
EBPMとロジックモデルを軸に、評価・政策立案・予算編成をつなぎ、改革の進め方と将来像を具体的に解説します


申込無料・申込はこちら詳細はwebで
申込URL https://deloi.tt/4xwzvpY

セミナー申し込みページへの QRコード


【企画提供】
有限責任監査法人トーマツ/Deloitte Touche Tohmatsu LLC
〒100-8360
東京都千代田区丸の内三丁目2番3号
丸の内二重橋ビルディング


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