議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

続・「妥協」することは敗北なのか?|議会局「軍師」論のススメ 第105回

NEW地方自治

2025.07.10

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本記事は、『月刊ガバナンス』2024年12月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 「続」と言っても前稿(注1)6年も前のものであるので、まずは要約を記したい。その主旨は大森彌・東京大学名誉教授を大津市議会に招聘した際、「議員には議会の『合意形成』のために建設的『妥協』が求められる」という教示をいただいた経緯を書き連ねたものである。

(注1)『ガバナンス』2018年7月号

■求められる「合意形成」への努力

 続稿執筆の直接の動機は、議員研修で「自分は議会改革進展のため孤軍奮闘しているが、議会は変わらない。どうすればよいのか」との質問が増えたことにある。

 多くの場合、自説は少数意見であっても普遍的正解であり、賛同しない多数派のほうが間違っている、とのニュアンスが含まれる。だが、議会は多数決で意思決定する機関であり、極論すればいくら正論を述べても、過半数の議員を説得できなければ実現不可能となる。その観点からは、「合意形成」を実現しようとする努力がなされているのかとの疑問が生ずるのである。

 特に議会改革や政策立案のように、絶対的な正解などない範疇では反対のための反対はどのようにでも言えるため、むしろ表舞台での議論の場よりも、たとえ手練手管と言われようとも、事前の根回し次第で決着する現実も否めない。

 逆に言えば、少数派が多数派工作や条件闘争を仕掛けないということは、自己主張だけが目的で実現する気など毛頭なかったのではないか、と言われても仕方ないだろう。

 各々の議員は権限のない合議制機関の構成員であり、個人の考えが100%実現することなど、むしろレアケースである。機関としての意思に自己主張が反映されるためには、時として折れて曲がる覚悟が求められる。それは、多様な意見を反映させるための議論を経て意思決定されることが合議制機関の特色であるが、同時に最終的には多数決で意思決定する議会制民主主義において、一切の「妥協」を拒否すれば、少数意見など全く反映されないのも議会の現実だからだ。

■議会を無能化する「妥協」拒否

 行政監視機能の観点からは、議会は二元的代表制の一翼を担う機関であり、特に最近報じられる執行機関の暴走抑止が求められる局面では、議会内部で「合意形成」できなければ、その権能を十分に発揮することは難しいだろう。

 機関としての考えを統一して意見できない議会は、執行機関に対して無力であり、その存在意義さえ市民から問われることになりかねない。皆が最後まで「妥協」を拒否し、具体策を何も実現できず機能不全に陥る合議制機関の実例としては、拒否権等の前提条件の違いはあるものの、国際連合安全保障理事会が誰もが知っているものであろう。

■すべては市民のために

 政策立案機能の観点からは、もとより政治は結果がすべてであり、「政治とは妥協の産物であり、可能性の芸術である」(注2)とも言われる。

(注2)オットー・フォン・ビスマルクの名言

 自治体議会も執行機関の批判に終始するのではなく、できる範囲で議会からの政策の実現に取り組むことが必要である。それは、批判一辺倒では市民からの本当の信頼を得るのは難しく、自ら立案した政策の成果を市民に還元することによって、はじめて市民の意識に議会の存在意義が根付くとも思うからだ。

 そのためにも、議会には機関としての「合意形成」が必要条件であり、市民の代表機関の構成員には建設的「妥協」が求められるだろう。

 

第106回 議員研修の法適合性はどう担保すべきか? は2025年8月14日(木)公開予定です。

著者プロフィール

早稲田大学デモクラシー創造研究所招聘研究員
元大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし


1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。


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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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