議会局「軍師」論のススメ
議員研修の法適合性はどう担保すべきか?|議会局「軍師」論のススメ 第106回
地方自治
2025.08.14

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出典書籍:『月刊ガバナンス』2025年1月号
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本記事は、『月刊ガバナンス』2025年1月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
議会改革の議論では、議員研修の必要性について語られることも多い。だが、機関としての議会が議員研修を行うには課題もあり、今号では法的観点から考えてみたい。
◆議員研修の法の立て付け
そもそも地方議会議員は特別職の地方公務員であるが、特別職が研修を受けることなど法的に予定されていない。一般職の地方公務員には、地方公務員法(以下「地公法」)第39条で、研修を受ける権利が規定されている。だが、地公法が適用されない特別職は、職責を果たす能力を有するものが任命される職と位置づけられている。法の立て付けとしては、議員になれた者が研修を必要とする事態など、論理的に想定されていないのである。
現実には新人議員にノーレクチャーという議会はないであろうし、ベテラン議員であっても政策立案の局面では必須となろうが、法の立て付けによる課題は、研修費用の公費支出の妥当性という形で顕在化する。
◆研修費用の支出手法
研修内容別に考えると、当該議会独自のものについては外部講師が入る余地はなく、議会内部での研修とならざるを得ない。具体的には新人議員研修で行われる、先例、申し合わせ、議会内での常識など、いわば内部ルールやお作法に関するものについては、会派でのOJTや議会(事務)局によるOFF-JTになるが、議論になる課題もほとんどないと思われる。
一方で、議会の政策立案に資する研修では、外部講師の招聘、先進地視察など、何らかの費用が発生することが一般的である。委員会活動に含まれるものは公費支出が当然であるが、議論になるのは本会議や委員会活動などの法定された公務とは言えない、議会として行う全体研修であろう。
一般職の研修費用と同様に、問題意識なく議会費に議員研修費用を計上している例も散見されるが、公費を支出するには法的根拠が必要である。前述のとおり、法的に特別職には研修受講の権利もなく、自治体に研修を受けさせる義務も課されていないことから、議員互助会的組織で費用を賄っている議会も多い。
会派や議員個人に支給される政務活動費を研修に支出することは問題ないが、議会として支出するには、研修ごとに議員全員の合意形成が前提となることや、局職員が関与できない金銭であるがゆえに誰が取りまとめるのか、などの課題はある。だが、これを解決できるならば一つの解決策となり得るだろう。
◆条例を根拠とする支出の是非
しかし、機関として行う研修であれば、やはり議会費から支出して執行する形態が自然である。
筆者は法に直接の根拠がなくとも、議会基本条例等に議員研修の必要性を位置づけ、支出根拠とすれば一般職と同様の運用も可能だと考えている。
だが、『逐条地方自治法』の著者である松本英昭氏との、議会の専門的知見の活用に関する議論(注)のなかで、地方自治法100条の2に根拠を置かない公費支出について疑念を示されたことがある。筆者は条例に根拠を求めれば公費支出可能ではないかと主張したが、松本氏は執行機関であれば可能だが、議事機関では法に根拠があるか、その都度の議決が必要だという。故人となられた今となってはその真意を確認することもかなわないが、異論があったことは記しておきたい。
注 詳細は2016年12月号『「逐条解説」はバイブルなのか?』、2017年1月号『議会の「常識」は誰が決めるのか?』を参照。
第107回 「自治体議会」は「地方議会」のままでいいのか? は2025年9月11日(木)公開予定です。
著者プロフィール
早稲田大学デモクラシー創造研究所招聘研究員
元大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。
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