議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第104回 本会議場が国会の模倣でいいのか?

NEW地方自治

2025.06.12

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本記事は、月刊『ガバナンス』2024年11月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 先日テレビニュースで、兵庫県議会の本会議の模様を見た。視覚的に印象に残ったのは、本会議の開催場所が、いわゆる議場のしつらいではなく、普通の会議室だったことである。理由を調べたところ議会棟の耐震性能不足が判明したため、県庁舎の大会議室を議場に転用しているとのことであった。

■議場のしつらいの意義

 そこで議論されている内容と比べれば些細なことではあるが、議場のしつらいも大事なことだと思ったのである。理由の一つは、会議室の構造がフラットで明るく、一般市民には敷居が高い印象の議場が多い中で、随分と親しみやすい雰囲気になると感じたことである。

 設計年次が古い議場には、荘厳な雰囲気を醸し出すため、あえて権威的とも思えるしつらいが多い傾向にある。よく言えば議場は神聖な場との意識を具現化したものとも言えるが、議会は玄人である議員と執行部だけのものであり、素人である市民などは議場に寄せ付けないためではないかとさえ思えてしまう。

 だが、司法の世界でも司法制度改革の中で、国民の司法参加を進める裁判員制度を導入し、市民感覚と乖離しない判決を意識している。それにもかかわらず、議会は重要任務の議案審議で、市民意見も聴取せずに議決していて良いのだろうか。

 議会報告会などのアウトリーチ活動も大いに意義はあるだろうが、まずは議場に市民を集め、公式会議録に市民の声を残す議事運営を実現することが、議事機関としては第一義ではないか。そのような議会への市民参画の観点から、あえて格式張らない一般的な会議室で本会議を行う意義を感じたのである。

 2点目は、せっかく議席の配置が自由になる会議室で議会を開くのであれば、二元的代表制の趣旨に合致する配置にすべきではないかと思ったのである。旧来の自治体議会の議場の形式は、ひな壇に陣取る執行部の中央に議長が座り、議員と正対する形が一般的である。これは議院内閣制である国会の形式を単純に模したものとされるが、自治体は議会と首長が独立・対等の関係にある二元的代表制である。この二元的代表制の趣旨を前提に考えれば、議員と執行部が正対し、議長は法廷における裁判官と同様に両者の間に座り、その対面に傍聴席を配置するという形が自然ではないか。事実、甲府市議会(山梨県)や宮古市議会(岩手県)のように前述の配置を採用する議会も現れているが、まだまだ少数派である。

 また、議員同士の顔が見えるようにと、円形やU字形、正方形に議席を配置する議会もあり、本会議における議員間討議の重要性を意識したものと言えよう。これも議事機関の本質にこだわった設計と言えるが、本会議で議員間討議する議事運営が大前提となるだろう。

■議場形式から見える課題の本質

 素人目にも、議会の主役は議員なのに、傍聴者から顔が見えるのは執行部で議員は後姿だけ、また、質問議員が答弁者である執行部に背を向け、議員に向かって質問している姿は、いかにも変である。

 このようなことが普通になっているのは、自治体議会議員に国会準拠の意識が根付いているからであり、まずはその固定観念から脱却することが必要であろう。ニュースを見て、二元的代表制の本質を再認識する必要性を、あらためて感じさせられた次第である。


第105回 続・「妥協」することは敗北なのか? は2025年7月10日(木)公開予定です。

著者プロフィール

早稲田大学デモクラシー創造研究所招聘研究員
元大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし


1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

 

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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