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ガバナンス編集部

【自治体DXのために何をする?】“挑戦”の先進事例を学ぶ/イベントレポート

NEW地方自治

2024.12.27

(『月刊ガバナンス』2024年12月号)

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【ガバナンス・トピックス】
県内外の自治体の”挑戦”から学ぶ ――神奈川県・市町村DX推進フォーラム

自治体のデジタル化、が叫ばれる中、「そもそも何のためにやるのか」「DX人材とは何なのか」、「どこから始めればいいのだろう」――これらの疑問に、先進事例から学ぶことでヒントを得ようと神奈川県は県内の行政職員を対象とした「神奈川県・市町村DX推進フォーラム」(神奈川県主催)を開催した。行政が変わっていくため、DXを進めるために何をすべきか議論が交わされた。

行政に求められるDXとは ――3名による講演挨拶

 人口減少が深刻化し職員数も減り、2040年には高齢者人口がピークを迎えることを見据え、DX推進による自治体運営の〝大変革〞が急がれている。本フォーラムは、「変われない」「変えられない」と言われてきた行政が変わるために、デジタル化、DX化のヒントを探ろうと、神奈川県内の行政職員を参加対象に開催された。

 フォーラムのサブタイトルは、「カウントダウン2040〜みんなで未来を見に行こう」。パネルディスカッションには県外のDX先行自治体の職員らも参加し、学びの機会となった。

リーダーシップと積極的な参画が必要 ――神奈川県 黒岩知事

 開催に先立ち、黒岩祐治・神奈川県知事が開会挨拶(ビデオメッセージ)をし、以下のようなメッセージを寄せた。

「2024年3月に策定した『新かながわグランドデザイン』では、『県民目線のデジタル行政でやさしい社会の実現』を掲げ、DXを強力に推進しようとしている。DX推進に向けた取り組みを加速していくためには、DX責任者によるリーダーシップDXの主役である現場職員の積極的な参画が必要だ。現場の後押しとなるよう、フォーラムでは県外先進事例からの学びと県と市町村の横のつながりをこれからの業務に生かせるような有意義な時間としてほしい。」

 

荒波で助け合うキックオフの場に ――葉山町 山梨町長

 続いて、神奈川県町村情報システム共同事業組合管理者でもある、山梨崇仁・葉山町長が「行政に求められるDXの取組み」と題し、挨拶をした。

  山梨町長は、「常日頃、システムの変更や国からの通知などに対応できているのは現場の実務者のみなさんのおかげだ」と参加者に謝意を述べ、以下のように呼びかけた。

「行政サービスという崇高な仕事に現場で向き合っている職員の力を結集して、これからどう変化をしていくかわからないDXの荒波に、参加者らがつながり、共に助け合いながら、それぞれの自治体のカラーに合ったサービスを提供できるようになるためのキックオフの場にしてほしい。」

フォーラムでの講演の様子
フォーラムはDX推進のための自治体間の横のつながりをつくるべく開催された。

「改革への危機感、既成概念を崩した2年間」――西垣淳子氏による基調講演

 次に、西垣淳子・経済産業省大臣官房政策統括調整官が、「改革への危機感、既成概念を崩した2年間」と題して、基調講演を行った。

 西垣さんは、2022年7月から2024年6月まで石川県副知事/CDOを務め、県内のDXを推進。在職時には能登半島地震での防災DXも担った。県庁内や県内の市町との関係などの経験を交えて講演。西垣さん自身が「行政のDX」や「デジタル化」として何をやってきたのか、その際に何を感じていたのかを紹介した。

「行政DXと聞くひとそれぞれ思い浮かべるものが違う」と指摘。
「申請手続きのデジタル化/マイナンバーカード発給」「個人データ連携による、サービスの向上」「行政庁内のデジタル化」「政策立案におけるデータ活用」の四つに大別できると紹介し、「デジタル化について皆が共通理解することが重要だ」と述べた。

 そして、自治体のデジタル化に向けて、以下4点が重要だと説明した。

■既存のやり方(価値)にとらわれず、新しいやり方にチャレンジする文化(失敗を許容する文化)
■デジタル部門だけデジタル化してみて横展開するのではなく、組織の方針として全体で取り組むこと(リーダーの覚悟)
■デジタル活用をベースとする組織内文化の形成
■外部人材や中途採用拡大など組織内に多様な価値観を取り入れるDE&I(多様性、衡平性、包摂性)

 

県内外の実践事例に学ぶ

 フォーラムでは「デジタル共創プラットフォーム」「デジタル人材」、「生成AⅠ」「窓口業務改革」など七つのテーマに関するパネルディスカッションのほか、ワークショップや事例紹介など多彩なプログラムが組まれた。
 パネルディスカッションでは、神奈川県内だけでなく、全国各地で行政DXやデジタル人材育成に取り組む自治体職員らがパネリストとして登壇。各地の実践例を紹介した。

「リアル版・デジデジ日記〜みんなで未来を見に行こう」 ――パネルディスカッション

■登壇者
・多田功さん(TIS㈱ソーシャルイノベーション事業部デジタル社会サービス企画部エキスパート)
・千葉大右さん(特定非営利活動法人DigitalGovernment Labs 代表理事)
・山形巧哉さん(合同会社山形巧哉デザイン事務所代表)

■モデレーター
・今村寛さん(福岡地区水道企業団総務部長)

「デジデジ日記」とは?

 2021年10月から2023年3月まで㈱ぎょうせいのオウンドメディア「ぎょうせいオンライン」で4人の自治体職員(多田さん、千葉さん、山形さんは当時)がリレー形式で連載をしたWeb版交換日記「東西南北デジデジ日記のこと。(アーカイブはこちら
 2021年9月にデジタル庁が発足し、行政DXの機運が高まったことを受け、「DXをどう進めよう?どう考えていこう?」というテーマで始まった。


 今回は、初のリアル版として書き手らが登壇し、「ⅤUCAな時代でできること」「変わらない、変われない」「どうすれば『変革』を起こすことができるのでしょう」「越境は大切だ」「ドリームチーム」 というテーマで日記を書いた当時を思い出しつつ、変化したこと、していないことなど、行政DXを前向きに進めるヒントや組織のあり方を語り合った。

 多田さんは、「組織はトップダウン、ボトムアップどちらか片方だけではダメ。両輪でフラットな環境を作っていくことが重要だ」と自治体職員時代の経験を交えて述べた。 

 山形さんは、「自治体職員も住民も同じ空間の仲間だ。イーブンな関係性でまちを良くしていくためにはどうすればいいのか考えていくことが大切だ」と力を込めた。

 千葉さんは「自治体職員は特に財務と例規が大切だが、今はそれと同じくらいデジタルも重要。それをしっかり評価をしていくことが、職員、ひいては組織のモチベーションにもつながる」と述べた。

 最後は、今村さんが「3人の話に通底しているのはコミュニケーションの大切さだ」とまとめ、対話の重要性を会場と共有した。

パネルディスカッション「リアル版・デジデジ日記」の様子
パネルディスカッション「リアル版・デジデジ日記」には、連載読者らも多く参加した。




 今回のフォーラムでは、パネルディスカッションの後に参加者同士でのグループディスカッションの時間を設けるなど、参加者同士の意見交換が積極的に行われた。
 また、参加者もDX担当だけでなく、窓口や人事・財政、行革などさまざま。自治体は違えど、同じ自治体職員として似たような経験や悩みを語り合いながら、参加者それぞれが「未来を見に行く」時間を共にした。

(本誌/浦谷 收)

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