地域の助け合いが自分と家族の命を守る第一歩!~「地区防災計画」の作り方~

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地域の助け合いが自分と家族の命を守る第一歩!~「地区防災計画」の作り方~ 第10回 住民主体で作る地区防災計画~高円寺アパートメントの取組~

地方自治

2023.10.23

東日本大震災・原子力災害 伝承館 常任研究員・株式会社 いのちとぶんか社 取締役
葛西 優香

 

1.「住民主体」とは言うものの・・・

 地区防災計画は住民が主体となって作成するものであり、今回のタイトルは地区防災計画の内容を表現するうえで相応しくないであろう。しかし、「住民主体」と口で言うのは簡単だが、なかなか一歩踏み出せず、住民だけで作成を始める地域は多くない。
 今回は、住民間の日常会話のなかで、「災害時のことを具体的に考えた方が良いよね」という発言から生まれた計画作成の流れ、そして作成した後の活動についてまとめたいと思う。

 

2.コロナ禍によって生じた災害時の状況に対する疑問や不安

 高円寺駅から徒歩7分ほど歩けば、1階部分が店舗となったアパートメントが存在する。「高円寺アパートメント」だ。この空間では、女将と呼ばれるコミュニティマネージャーが1人常駐し、住民同士の交流を深めるためにイベント企画などを行う。しかし、定期的に行っていたマルシェなどのイベントは、コロナ禍で軒並み中止になり、近くにいるはずの住民ともオンラインでの会議で顔を合わすだけの状態となっていた。そのようなタイミングで、震度4レベルの地震などが発生するようになり、住民から防災に関する声が挙がるようになった。

 

3.高円寺アパートメントのマニュアル作成の軌跡

(1)偶然の出逢いからスタート
 2.で挙げたようにポツポツと災害時の状況に対する疑問、不安が出てきた。そのような会話の中に入っていたA氏がたまたま勤めている企業で防災セミナーを受講することになる。手前味噌ではないが、そこで話をさせていただいていたのが私だったのだ。A氏から「住んでいるマンションでも防災のことを考えたいと話が挙がっている。一度打ち合わせをさせてほしい。」と開催直後に一通のメッセージが届いたのである。そこから一度二度、会議を行い、高円寺アパートメントでの4回のワークショップを通じたマンション防災マニュアル作成会議が始まった。

(2)臨機応変、様々な形で議論
 発災前に準備しておくべき内容、発災直後の動き、発災数日後の動きを時系列に分けて住民の行動について具体的に話し合った。コロナ禍でもあり、感染状況に合わせてオンラインと対面を織りまぜ、臨機応変に対応した。

子どもの見守りもしながら開催した対面でのワークショップ

 

オンラインを活用した会議の様子、なかには家族揃って会議に参加する世帯も!

(3)住民それぞれの強みを活かしたマニュアル作成
 私は、このマニュアル作成会議を主導した訳でもなく、内容をすべて作った訳でもない。たまたまA氏と出逢い、住民の皆さんの話し合いの中に参加し、計画の内容と会議の進め方の流れを一緒に考えただけである。最初から最後まで住民の方が主体であった。例えば、1回目の会議で「ここに参加していない人の意見も聞きたいね」となれば、2回目までにアンケートを住民自ら作成し、住民に投げかけて、集計し、計画の中に反映していく。計画内の文章を書く際には、ライターを職業とする住民から「文章は書けるよ!」、イラストレーターである住民から「イラストを描いて防災マニュアルも可愛く見やすくしよう!」と声かけがあり、それぞれの職能を活かしながら作成が進められ、制作にも関わることでマニュアルに愛着が沸き、住民の魂が込められた計画が完成したのである。

イラストなども交え、住民が自らデザインし創り上げたマニュアル

 

4.完成後、マニュアルはどのように活用されているか

 完成してから半年。日常の活動にどのように活かされているのか住民に話を聞いたところ、発災を想定して、安否確認を表明するタオルをドアノブにかける行動の確認、マニュアルの読み直し、防災リュックの中身チェック、さらには、避難所である小学校までのまちあるきの企画、実施などがなされていた。
 マニュアルの見直しについては、「定期的に見直さないと中身も1年経てば忘れてしまうんだな、とわかった」との声が、防災リュックのチェックについては、「持ってるけど開けてない人、持っていない人がいた。家の備蓄の確認など家族同士でも確認するいい機会になった」などの気づきが得られた。
 そして、住民同士の「次は、リュックの中の非常食を食べてみよう!」という会話から、次に実施する対策や企画のアイデアが生まれてきた。
 また、新たな発見として、日頃イベントなどには仕事の関係で来られない住民の参加が見られた。ドアノブに安否表明のタオルをかける訓練で、実際の訓練時には仕事の都合で在宅していなかったが、マニュアルで安否確認の方法が決められていることを認識しており、行動に移していた。主に作成に関わっている住民も計画の内容が作成に関わっていない住民にも「伝わっている」と実感できる瞬間であった。

 さらに、ドアにチョークで安否情報を書き込むことは計画には落とし込まれていなかったが、怪我をし、病院に向かう状況を想定し、この住民は独自でドアに書いて伝える方法を生み出したのである。このように防災訓練の実施において、参加のパターンも様々であった。安否確認→マニュアルの読み合わせ→避難所までのまちあるき→防災リュックのチェックという流れで企画を実施したが、安否確認のみ参加の住民もいれば、まちあるきの前に帰宅する住民もいた。すべての参加を強制するのではなく、できる範囲で参加し、それぞれ準備をしておくことが重要なのである。
 「定期的に顔を合わせて確認をし合うという行動がいつかの助け合いにつながる」と住民は取り組みを続けている。「参加したいけど参加しづらくなっている人が出て来られるきっかけにも防災の活動がなればいいなと考えている」と住民は話す。

 これからの計画は年に一度3月にマニュアルの見直しを行い、防災に関する活動を実施する予定で、子どもが主体となって参加できる内容も検討しているという。次のステップとして、マンション内だけでなく周辺地域との連携も視野に入れて活動を行うようだ。

工夫して作成した防災訓練のお知らせ

 

5.“住民主体”の計画作成のポイント

 ここまで述べきた住民主体の計画作成の流れにおけるポイントをまとめる。

Point1 日常の会話で出てきた防災への不安などちょっとした住民の一言を大切にして、行動につなげる。 Point2 一歩を踏み出す際にきっかけとして防災を専門とする人を呼ぶ。あくまでもきっかけにすぎない。 Point3 それぞれの職能を活かし、住民の手で計画を作成し、色づける。 Point4 作成して終わりではなく、その後の活動も住民同士で話し合いながら必要だと思ったことを実行する。 Point5 住民一人ひとりの生活に合わせた参加スタイルを受け入れ、強要はしないが、参加したい人が参加しやすい雰囲気づくりを意識し続けながら取り組みを行う。

 上記5つのポイントを重視ながら行動に移している高円寺アパートメントの住民の方々は日常の会話で出る一言一言を大切にし、暮らしを自分たちで創り上げている。住民主体の取組みを進めるために必要なことは、「人の話に耳を傾け、互いの状況を鑑みながら、自分自身のスタイルも貫く」という行為の積み重ねなのかもしれない。現に、この取組みに参加している住民は、誰かに言われたからではなく、自分たちの生活で必要と感じ動き出し、無理して活動を行うのではなく、自身のできる範囲で活動を継続している。そして、自身のスタイルを貫くために、周りの意見を聞かないのではなく、周りの考えも尊重しながら対話を繰り返しているのである。
 次回は、民間企業が主体となって動き出すきっかけをつくっている事例を取り上げていきたい。

 

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