月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2023年3月号 特集:災害多発時代の復旧・復興への課題
地方自治
2023.02.27
目次
●特集:災害多発時代の復旧・復興への課題
阪神・淡路大震災、中越地震、そして東日本大震災を経て、近年、日本列島では熊本地震をはじめ地震活動が活発化。昨年3月にも福島県沖でM7クラスの地震が起きた。今年9月で大正12(1923)年の関東大震災から100年を迎える中で、今後発生が予想される南海トラフ地震や首都直下地震などへの警戒感は年々強まっている。一方、地球規模の気候変動の影響などにより、日本でも毎年のように豪雨などの気象災害が全国各地で発生している。こうして災害が多発化・激甚化する中で、被災地の復旧・復興は果たしてどれくらい進んでいるのか。そして、これからの大規模災害にどう備えればいいのか。その課題と展望を考えてみたい。
■災害復興について再考するための三つのフレーズ――「No more 復興」・「No more 立て直し」・「No more ビルドバックベター&事前復興」
矢守克也 京都大学防災研究所教授
「ビルドバックベター」や創造的復興が意味をなすのは、「元通りにしようと思えばできる」場合に限られるのではないか。ところが、今、起こっているのは、「元通り」にする力そのものが失われているという由々しき事態である。
■災害多発時代の地域の減災と復興をどう進めるか/室﨑益輝
災害が多様化し、頻発化、連鎖化、巨大化、複合化する時代を迎えている。災害の破壊力が進化しているといってよい。こうした災害の質的な変化は、災害対応の質的な変化を求めている。こうしたリスクの変化には、個別対応、公衆衛生、レジリエンス、総合減災、連携協働、危機管理といったキーワードに示される、防災対応の大転換が求められる。
■これからの災害対応ガバナンスと自治体の役割──「餅は餅屋」の災害対応で被災者支援の混乱を止める/菅野 拓
私は本論で、日本の被災者支援が混乱し続ける理由を、現在の「災害対応ガバナンス」つまり「被災者の利益のために、国・都道府県・市町村・営利企業・サードセクターの組織といった災害対応を実施する様々なアクターを規律付けるメカニズム」が現代の日本社会の現実に即していないことに求める。そして、混乱を止めるために災害対応ガバナンスをどのように変更し、またその際、地方自治体はどのような役割を帯びるのかを明示する。
なお、本論の内容についてより詳しく議論を展開したものとして、拙著『災害対応ガバナンス―被災者支援の混乱を止める―』を参照いただきたい。
■市町村への災害復旧支援をどう進めるか/木下誠也
近年、気候変動によって水害や土砂災害が激化し、南海トラフ地震や首都直下地震などの巨大地震の発生も近い将来予想されている。そのような災害に対し、第一義的に住民の生命、身体、財産を保護する責務を有している市町村は、災害への備えから災害対応、復旧・復興まで膨大な業務を担い、災害の規模が大きくなれば、大変厳しい状況となる。ここでは、市町村における災害復旧事業執行のための支援について、最近の取り組みを紹介し、今後の課題を示したい。
■災害復興、防災型土地利用計画と自治体政策/増田 聡
気候変動の影響もあり、近年の豪雨・台風等による水災害の頻発・激甚化が懸念され、より体系的な流域治水を求める声が強まっている。また東日本大震災後の復興検証にあわせて、津波対策・地震防災と土地利用計画との連動強化のあり方が模索されてきた。これら二つの流れが合流しながら、災害リスクが高い地域での土地利用の計画・規制や、情報提供や市場を通じた比較的リスクの低い区域への立地誘導、高リスク区域からの転出等を促そうとする試みが試されつつある。本稿では、以上のような流れを整理するとともに、今後の課題を指摘しておきたい。
■災害情報とリスク・コミュニケーション/関谷直也
避難行動を実施する人間がそれら情報を理解して、「避難」につながり、人命救助につながって災害時の情報は初めて意味を持つ。自然災害のリスク・コミュニケーションにおいては、単にアウトリーチを目的とした地震・火山・気象の現象への理解や専門知の情報提供に留まることは許されない。防災を目的として人の命を守るためのコミュニケーションを目指すという本質を忘れないことが重要なのである。
■原発事故被災地から見た長期的避難・復興の課題/高木竜輔
福島第一原発事故から12年が経過しようとしている。被災地に設定された避難指示も徐々に解除され、現在では放射線量が高い帰還困難区域の一部においても除染などを行った上で避難指示解除が行われてきた。避難指示が解除された地域のインフラ整備も終了しつつある。しかし被災地への住民帰還は進んでおらず、移住者を含めた町内居住者の不在が地域再生を難しくしている。なぜ原発事故被災地の復興政策はうまくいかなかったのか。
■ポストコロナ(新型コロナ時代)の避難所運営・生活支援/榛沢和彦
避難所におけるTKB(トイレ・キッチン・ベッド)を48時間以内に整備する体制がポストコロナ、新型コロナ時代の避難所には必須である。以前に増してポストコロナ、新型コロナ時代の避難所運営にはコストと人手が必要になる。しかし、そのための予算措置、人員を確保するための災害専門省庁は未だに実現していない。
■自治体職員に求められる防災リテラシー/太田敏一
災害に対峙するための基本的な力が防災リテラシーである。それは災害を乗り越えるために必要な、①災害を理解する力②必要な備えをする力③その時に適切な行動をとれる力――であり、災害が起こる前から努力して高めておかなければならない。
【キャリアサポート面】
●キャリサポ特集
はじめて部下を持つことになったら
年度末を迎え、あと1か月で新年度。異動や昇格など、組織の中でのポジションが変わる季節です。めでたく昇格し、部下を率いなければならない立場になる人は、新年度に向けてやる気と不安が入り混じる時期かもしれません。今号では、はじめて部下を持つことになった人がこれからの時代に身につけておきたい視点について考えます。
■はじめて部下を持つ人が知っておきたい「上司力」/前川孝雄
上司にとって自分が動くことが仕事ではない。人を動かし、組織を動かすこと、すなわち上司の働きかけでチームメンバー全員が活躍し、連携することでチームが一丸となり、個人の力だけでは成し得ない大きな成果を生み出すこと。これが上司の仕事の神髄である。
■育児中の部下を持つリーダーのためのマネジメント/山口理栄
はじめて持った部下の中には育児をしている人がいるかもしれない。男性の育休取得率が高まるなか、育児中の部下がいる組織のリーダーに必要なことは何か、育児中の職員を部下に持つ管理職研修で豊富な経験のある、育休後コンサルタントの山口理栄氏に聞いた。
■上司になったら気をつけたいパワハラ/金子雅臣
「自分が嫌だと思うことは他人にしない」というハラスメント対策の格言がある。まさに部下から上司への立場の異動したての時期は、これまで部下の立場で上司に感じていた不満を、自分が部下にしないということを考える絶好の機会であるともいえる。
●連載
■管理職って面白い! ハロー効果/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
首長の立場になったら取り組んでみたい人事制度とはなにか。/後藤好邦 ■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/上村真木 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人 ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫 ■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介 ■次世代職員から見た自治の世界/三宅将太郎 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/大城良紀 ■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/津軽石昭彦(関東学院大学地域創生実践研究所) ■にっぽんの田舎を元気に!「食」と「人」で支える地域づくり/寺本英仁
●巻頭グラビア
自治・地域のミライ
富田能成・埼玉県横瀬町長
「日本一チャレンジする」小さな町が、未来をつくる
官民連携プラットフォーム「よこらぼ」など一歩先をゆく取り組みで全国から注目を集める埼玉県横瀬町。「日本一チャレンジできる町」を掲げる富田能成町長は、「小さな町の特徴を生かして、未来をつくっていきたい」と力を込める。
富田能成・埼玉県横瀬町長(57)。新たな交流拠点「エリア898」で。この日は「ITよろず相談」が行われていたが、保育園の子どもたちも散歩で訪れた。「利用が進むと多世代交流も生まれてくる」と話す。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
弥右衛門が持ってきた厄介事──源頼朝たち転生者(四)
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
福島県沖地震、遅々とした復旧に追い打ちをかける【汚染処理水放流⑵相馬市の四重苦】
原発事故、続く模索㊱
昨年3月16日深夜に発生した福島県沖地震は、最大震度6強を記録した。最も被害が酷かった福島県相馬市では、発災から1年が経つというのに、復旧への足どりが遅い。震災以降、度重なる被災に疲弊して、今もまだ営業を再開できていない旅館などがあるのだ。コロナ禍や物価高だけでも深刻なのに、地震被害がのしかかる。そのうえ原発の汚染処理水まで放流されようとしている。この四重苦とでもいうような窮状に活路は見出せるのか。
□現場発!自治体の「政策開発」
女性職員の昇進意欲が高まる働きやすい組織変革を推進──庁内の女性活躍推進施策(神奈川県小田原市)
神奈川県小田原市は、女性活躍推進に関する行動計画に基づき、庁内の女性職員の昇任希望率向上と男性職員の育児参加の促進、年次休暇取得日数の向上に取り組んでいる。女性活躍を推進することで、庁内の“働きやすさ” に関する様々な課題を解決できる組織文化の醸成に注力。外部から女性活躍推進プロデューサーを登用し、民間のダイバーシティ推進の知見を活かして、誰もが働きやすい職場づくりを進めている。
●Governance Focus
□デジタル田園都市、「番外地」から届かぬ声──山口県岩国市柱島、離島をさらに取り残すな/葉上太郎
政府のデジタル田園都市国家構想が本格始動する。地方に仕事を作り、人の流れを生むのが目的の一つとされ、「誰一人取り残されない社会の実現」が標語だ。しかし、現実にはどうなのか。光ファイバー網が整備される見込みはなく、携帯電話さえ十分つながらない地区もある。そうした状況は特に離島で深刻だ。「デジタル化や通信網の整備は遠隔地の課題解決にこそ有効なのに、置いていかれるのか」。住民の嘆きが聞こえる。
●Governance Topics
□大規模災害に向けた対策の制度設計などについて幅広く議論──震災・災害シンポジウム2022
近年、災害が頻発するとともに、南海トラフ地震や首都直下地震などへの危機感が高まる中、大規模災害への対策について考える「震災・災害シンポジウム2022││第9回新潟県中越大震災シンポジウム〜災害支援と市民社会保護」が2月11日、オンラインで開催された。当日は米国やイタリアともつなぎながら、大規模災害における市民生活の保護・支援などについて幅広く議論した。
□これからの自治体法務の担い手を考える──第25回都市政策研究交流会
(公財)日本都市センターは1月25日に「令和時代の自治体法務とその担い手〜法務人材の役割と確保・育成について考える〜」と題し、都市政策研究交流会を開催した。自治体法務を取り巻く環境が変化するなか、自治体法務への向き合い方や法務人材の役割や育成について、実際に現場で活躍する組織内弁護士も交えて議論が交わされた。
□新たな地域経営と自治体議会の役割とは──大正大学地域構想研究所「地域政策ネットワーク」フォーラム
大正大学地域構想研究所は1月27日に「『地域政策ネットワーク』フォーラム〜地域の課題と自治体議会の役割〜」を開催した。これからの地域経営の視点や動向、そして重要な役割を担う自治体議会のあり方について、議論が交わされた。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □対話する議会・議員/佐藤 淳 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える 『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』/綿井健陽 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『パワハラ上司を科学する』津野香奈美]
●カラーグラビア
□技・匠/大西暢夫
日本最古の土鈴を家族でつくり続ける──「英彦山がらがら」鈴類窯元(福岡県添田町) □わがまちの魅どころ・魅せどころ
やんばるの森に抱かれ輝く「花と水とパインの村」/沖縄県東村 □山・海・暮・人/芥川 仁
伝統の食文化「鮭の新切り」を守る──山形県最上郡鮭川村 □人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ
きんめにゃん(高知県奈半利町) □生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
草資源を活用した阿蘇の循環型農業──阿蘇の草原の維持と持続的農業(熊本県阿蘇地域)
■DATA・BANK2023 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
【特別企画】
□DXによって自治体改革をどう進めるか?⑦
〝産学官金〟一体となって地域のDXを推進
──長野県松本市
※「もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。