月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2023年2月号 特集:地域包括ケア・共生社会を紡ぎ直す

地方自治

2023.01.30

●特集:地域包括ケア・共生社会を紡ぎ直す

超高齢社会を迎え、介護保険制度が創設されて以降、地域では高齢者を支えるさまざまな取り組みが進められてきた。その核となるのが、要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援などが一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築だ。さらに近年では、その理念を普遍化し、障害がある人や子どもなども含めて、地域を丸ごと支える「地域共生社会」づくりが進められてきた。だが、そこにコロナ禍が襲来。ケアや支援にとって重要な、人と人、人と社会とのつながりが大きく妨げられた。地域には今、それをどう紡ぎ直していくかが問われている。コロナ禍の影響も含めて考えてみたい。

■アフターコロナ・ウィズコロナの時代の地域包括ケア

高橋 紘士 元高齢者住宅財団理事長
地域包括ケアの構成要素は、地域での医療から生活支援に至る制度におけるサービスと、地域における日常生活及び要介護状態を予防するための、インフォーマル(非制度的)な支援である。これらが地域単位で確保される仕組みができると、地域包括ケアは一つのシステムとなる。

■地域共生社会への課題/野澤和弘

介護サービスをどれだけ充実させても、孤立や疎外による生きがいの喪失、不安というものは解消できない。地域共生社会が本当に必要なのはこういうところにある。一方で子どもや若者は「家族」というベールに隠れ、家族が養育できないと認められない限りは福祉の対象として見られてこなかった。自らSOSを発することが少なく、行政や民生委員など地域の福祉資源もなじみが深かったとはいえない。高齢者福祉を偏重する価値観を変えなければならない。

■地域ケアの現場で何が起きていたのか/池田昌弘

人と人がつながることから気になる存在が生まれ、それが気にかけ合う仲となって、ちょっと困ったことがあれば支え合う関係へと発展する。友人や仲間、親しい近所の人との間で、こうしたおたがいさまの関係を育み、制度による個別支援サービスも上手に活用しながら、支え合って暮らす。そんな地域ケアの現場で、住民同士がつながるきっかけともなるサロン等の通いの場や訪問活動は、コロナ禍で自粛を余儀なくされた。しかし、そうしたなかでも、住民や関係者の創意工夫による気にかけ合いは全国各地で広がっていることも同時にわかった。ここではその一端を紹介する。

■フレイル対策をどう進めるか──高齢者の生活不活発を基盤とする健康二次被害(コロナ・フレイル)/飯島勝矢

コロナ問題は全ての世代に大きな影響を及ぼしたが、なかでも高齢者に大きな負の足跡を残した。多くの方々を重症化させ、命までも奪ったケースは少なくないが、もう一つ忘れてはいけないのが「コロナフレイル」である。自粛生活長期化による健康二次被害(フレイル化)が明確な実測値とともに見えてきた。過剰な恐怖も感じながら、結果的に自粛生活長期化による生活不活発に陥り、心身機能の低下が顕著になってきたのである。

■求められる市町村の創意工夫、「制度頭」の脱却を──地域の実情に応じた高齢者支援の方向性/三原 岳

介護保険制度の運営では、認知症ケアや生活支援などについて、市町村が専門職と連携しつつ、地域の実情に応じて体制を整備することが求められており、市町村の創意工夫が一層、求められている。その際には、介護保険財源を転用する形で、高齢者福祉に充当できる「地域支援事業」の有効活用が重要になる。

■介護保険財政の根本問題と地域におけるケア・ニーズの充足/高端正幸

筆者は以前から、介護ケアという誰もが一定年齢に達すれば必要とする普遍的ニーズへの対応を、地域保険という枠に押し込んでいることの問題を指摘してきた。その後さらに、市町村またはその連合単位で運営する地域保険という枠組みに執着しつつ、保険料格差の拡大を抑えるために税財源の投入と給付の抑制が場当たり的に進められてきた今日、問題はますます鮮明となっている。

■介護人材不足への対応と処方箋/結城康博

介護人材不足を背景とした供給不足が深刻化していけば介護事業者側が利用者を選択してしまう状況を招き、「制度あっても介護サービスなし」といった介護崩壊を招きかねない。超高齢化社会において、介護サービスを安定化させることは「介護離職」に歯止めをかけ、社会全体の労働力を維持していくことにもつながる。介護を「負担」ではなく「社会投資」と見る発想に転換していくべきである。

■深刻化する孤独・孤立にどう向き合うか/石田光規

政府が孤独・孤立を「問題」と見なすのは、孤独・孤立が自殺や孤立死、精神疾患、虐待などのさまざまな「問題」を誘発しやすいと捉えているからだ。しかしながら、支援につながらず「放っておいてくれ」という人にアプローチをするのは難しい。一方で、その人たちを放っておけば、何らかの「問題」は防げないかもしれない。孤独・孤立を政策課題としてあげた瞬間から、行政は個々人の自由の保障と介入とのジレンマに悩まされてしまうのである。

〈取材リポート〉
一人ひとりの高齢者に寄り添う介護予防・日常生活支援総合事業
──奈良県生駒市
要介護認定率が全国平均を大きく下回るなど、介護予防の先進自治体として知られる奈良県生駒市。その秘訣は、豊富な介護予防・日常生活支援総合事業のメニューと、それらの成果や課題を共有するとともに次の施策へつなげる四つの地域ケア会議にある。事業を支える市民ボランティアの存在も見逃せない。市内全域への事業の拡大に向けては、同市が推進する複合型コミュニティづくりとの連携も鍵になる。

 

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
異動・担当替えをプラスに変える!
「引継ぎ」の極意

年度の変わり目、異動シーズンが間近にせまっています。異動に加えて、退職・入庁による人員構成の変更や、同じ部署内での担当替えも、この時期の公務職場にはつきものです。――「こんな短期間での引継ぎなんてムリ!」「引継書、つくるのが大変」「前任者が『あとはよろしく』だけで、ちゃんと資料を残してくれていない……」。とかくマイナスに捉えられがちな引継ぎですが、スムーズにバトンの受け渡しをするにはどうすればよいでしょうか。今回は、業務改善につなげることができる、前任・後任ともに次の業務に生き生きと当たれる、そんなプラス思考の引継ぎの進め方について考えます。

■未来を引き継ぎ、組織にイノベーションを起こそう!/定野 司

今年もまた異動の季節がやってくる。そして後任者への引継ぎ、前任者からの引継ぎ、日常業務が重なる三重苦が始まる。しかし、それは同時に、未来を語り、組織にイノベーションを起こすチャンスだ。アイデアを駆使して目標を少しでも超えたら、仕事にやりがいを感じ自分の成長に気付くことができる。こうした職員の成長の積み重ねが組織にイノベーションを起こすのだ。

■Win‒Winを実現する引継ぎテクニック/安部浩成

引継ぎの課題は、各自の良心に委ねられ、標準化されていない傾向があることだ。限られた期間内に引継ぎを行うことと、引継ぎを受けた職員が明日から一人前の仕事を行えるレベルの引継書を作成することには、高度な技術が要求される。知識・技術の継承に組織的に取り組み、計画的な準備により、現任者、後任者、組織、住民、四方良しのWin–Winを実現しよう。

■引継ぎの心理学/金井利英子

異動前後、多くの職場では内示の予想に始まり、様々な噂話で持ち切りとなる。数年ごとに異動してきた人は、いよいよ異動か?と、気もそぞろになりがちだ。そんなタイミングこそ、引継ぎ準備の始め時だ。なぜなら、引継ぎはその重要性にもかかわらず、引き継ぐ人(前任)任せでばらつきが大きく、〝継ぎ目〞が組織や個人の大きなリスクとなるからだ。

 

●連載

■管理職って面白い! 計画のグレシャムの法則/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
若い子育て世代に選ばれる街・流山市の秘密/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/小嶋栄子 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人 ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫 ■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介 ■次世代職員から見た自治の世界/菅 花穗 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/片山奈桜子 ■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/出石 稔(関東学院大学地域創生実践研究所) ■にっぽんの田舎を元気に!「食」と「人」で支える地域づくり/寺本英仁

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
箕野博司・広島県北広島町長
「協働のまちづくり」を土台に新しい時代に挑戦する

町への思いから、JAから転身し、北広島町長に就任した箕野博司氏。10 年かけて培ってきた「協働のまちづくり」を土台に、失敗を恐れず、新たなまちづくりに挑戦していきたいという。

箕野博司・広島県北広島町長(67)。10年かけて「協働のまちづくり」を進めてきたが、コロナ禍で「人と人とのつながりが希薄化しているのが心配」と話す。特にそれが現れているのが葬儀だという。

 

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
一斎先生の相談──源頼朝たち転生者(三)

 

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
「復興」に風評被害が襲いかかる【汚染処理水放流⑴宮城県の不安】
原発事故、続く模索㉟

冷し続けなければ暴走する東京電力福島第1原子力発電所。その冷却に使われた放射能汚染水が今年、「処理」されて海洋放出される。風評被害が起きるのは必至とされており、最も大きなダメージを受けるのは漁業だろう。ただ、福島県ばかりではない。もしかしたら宮城県の方が別の意味で深刻かもしれない。「津波で全てを失ったところから、ようやく復興を成し遂げたのに……」。漁師は不安の真っ只中にある。

□現場発!自治体の「政策開発」
公民連携で公共FMを実践し資産を効率的に管理・活用──包括施設管理業務発展型(群馬県沼田市)

群馬県沼田市は、公共施設の管理・有効活用にファシリティマネジメント(FM)を推進している。その一環として、施設管理の質の向上と効率化によるコスト削減に向け、市庁舎の建物・設備の管理や保安警備などを一括して民間事業者に委託する包括管理を導入。それを市内公共施設へ広げている。また、FM施策に関する民間提案制度を実施し、公民連携による公共資産の有効活用で持続可能な自治体経営をめざしている。

 

●Governance Focus

□孤立から光の当たる存在へ──鳥取県手話言語条例の10年/葉上太郎
鳥取県手話言語条例が全国で初めて制定されてから、今年で10年になる。聞こえない、もしくは聞こえにくいがゆえに、話せない。そのため社会で孤立していた人々に光が当たるき っかけになった。その後、少しずつではあるが、聞こえない人々と共に生きていこうという健聴者の意識変化が進み、「暮らしが明るくなった」と嬉しそうに語る聾ろ う者もいる。全国で条例を制定する自治体が増えている今、何が必要なのか。先進事例に学ぶ。

 

●Governance Topics

□地域自治の視点からエネルギーのあり方を議論──第53回『都市問題』公開講座
(公財)後藤・安田記念東京都市研究所は22年12月10日、第53回『都市問題』公開講座を開催した(対面とオンラインのハイブリッド方式)。今回のテーマは「エネルギーと地域の自治」。世界的に化石燃料から再生可能エネルギーへとシフトが進むエネルギーについて、地域自治の視点から議論した。

□持続可能な地域社会の構築に向けたデジタル化をどう進めるか──日本弁護士連合会シンポジウム
日本弁護士連合会は2022年12月22日に「デジタル社会における地域のあり方と自治体の役割」と題し、シンポジウムをウェビナーにて開催した。地方自治体における情報システムの標準化共同化が進むなか、研究者、市民団体、地方自治体のそれぞれの立場からデジタル化がどうあるべきかについて議論が交わされた。

 

●連載

□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □対話する議会・議員/佐藤 淳 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える 『二十歳の息子』/綿井健陽 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『まずは小さくはじめてみる』大木浩士]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
和ろうそくの火を灯す最高級の蝋づくり──吉田製蝋所(和歌山県海南市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
モータースポーツのまちに息づく海・山・大地の恵み/三重県鈴鹿市
□山・海・暮・人/芥川 仁
言葉ではない心の交流──青森県三戸郡新郷村戸来
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
持続可能漁法として世界が注目する定置網モデル──氷見の持続可能な定置網漁業(富山県氷見地域)
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ
キーコ(北海道木古内町)
□クローズアップ
「共感し合える社会」へのシンボルに──鳥取県、全国初の「バリアフリー美術館」を開設へ


■DATA・BANK2023 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!



※「もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。

 

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

地域包括ケア・共生社会を紡ぎ直す

オススメ!

月刊 ガバナンス

2023年1月 発売

本書のご購入はコチラ

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

ガバナンス編集部

ガバナンス編集部

株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

閉じる