月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2022年11月号 特集:これからの公共施設と自治体のマネジメント

地方自治

2022.10.28

●特集:これからの公共施設と自治体のマネジメント

■これからの公共施設と官民連携/宮脇 淳

宮脇 淳 北海道大学名誉教授、日本政策総研理事長

公共施設の官民連携が抱える課題は多い。この課題を放置し続ければ官民連携自体が劣化するだけでなく、公共サービスの維持・充実が困難となる。こうした広範な課題に対して、災害時の公共施設とそこでの官民連携の在り方の検討をトリガーとして始める必要がある。これまでの官民連携は日常・平時の視野でルールや運営がされており、災害時を視野に入れた内容は限定的である

■ポストコロナと公共施設マネジメント/瀬田史彦

コロナ禍によって多くの公共施設が利用中止されたが、公共施設再編・ファシリティマネジメント(FM)への本質的な影響は、むしろコロナに関連する行動制限が緩和・解除されてからにある。オフィス床を縮小する企業やオンライン教育を続ける大学のように、公共施設もデジタル化によってさらなる再編とサービスの変革を求められる。本稿では、図書館・電子図書館の利用実態を分析した調査結果を紹介し、ポストコロナの公共施設再編のあり方を考察する。

■意思決定システムがもたらす公共施設集約の困難性/中川雅之

居住地の集約や公共施設の共同利用あるいは、行政単位を超えた公共施設管理、行政サービスの提供の共同化を行うことは有意義だ。だが、それが進んでいるとはいえない。なぜこのような事態が起きているか。第一の原因は、公共施設の集約、共同化に伴う便益を受ける住民全体に、そのコストを求める仕組みがないことであろう。第二に、公共施設の集約、共同化から便益を受ける住民を、その意思決定に参加させていないことである。

■公共施設等総合管理計画の実効性をどう高めるか/志村高史

公共施設更新問題への対応は、国と地方を挙げた取組みとなっている。しかしながら、自治体における取組みは、必ずしも順調とはいえない。その原因と解決策について、公共施設を取り巻く自治体現場の「モノ」「カネ」「ヒト」の視点から触れてみたい。

■持続可能な上下水道事業の方向性/滝沢 智

上下水道施設は国民の生活になくてはならない重要なインフラとなっているが、施設の老朽化が進みつつあることに加えて、料金収入が減少する中で、多発する自然災害への対応やエネルギー消費量の削減など、新しい課題にも直面している。本稿では、リスク管理や施設保全・改築のための新技術の活用と公民連携の可能性について述べる。

■地方自治体における公共空間のデザインマネジメント/西村亮彦

公共事業におけるデザインマネジメントの重要性が益々高まっている。成熟社会を迎えた今、公共空間のデザインはそれ自体が目的なのではなく、地域再生を実現するための手段でなければならない。地域の可能性を引き出すデザイン、新たな価値を創造するデザインとしての公共事業のデザインを、地方行政の基本施策として定着させることが不可欠である。

■広がる都市公園の可能性/町田 誠

Park-PFIによるカフェやショップの設置が始まってまだ5年しか経っていないが、すでに100か所以上で事業が動いている。公共空間の積極活用、公民連携等の流れの中でも、とりわけPark-PFI制度は多くの実践例が積み重ねられてきており、空間特性や管理法令、制度運用等の側面からその特性を浮かび上がらせることは、公共空間、公的不動産活用のまちづくり推進のヒントになるのではないか。

■自治体と公営住宅/平山洋介

超高齢・低成長の将来に向けて、社会安定を支えるインフラストラクチャとして、公営住宅ストックをさらに蓄積し、保全・改善する政策が必要ではないか。これは、自治体にとって、選択の困難な方向である。中央政府による十分な財政支援によって、自治体に公営住宅の充実を促す政策の形成・実践が望まれる。公営住宅ストックによる社会基盤の整備は、貧困「予防」への「投資」として高い合理性をもつ。

■「ビジネスと人権」時代の公共施設管理の課題/上林陽治

地方自治体は、数多くの業務を、委託や指定管理者という手法でアウトソーシングし様々な商品を調達している。これら業務委託先や調達先において、人権侵害は発生していないのか、委託先・調達先企業は人権DDに配慮しているのか、地方自治体は、企業活動の監視にとどまらず、公共調達を通じて企業が人権重視の姿勢に転換することを奨励する立場にある。これが「ビジネスと人権」時代に地方自治体に課された義務なのである。

 

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
新時代の“テキスト”コミュニケーション――SNS以上公用文未満の文章の使いこなし方

デジタルの急速な進化によって、デジタルネイティブ世代が次々と自治体職員に仲間入りしてきています。デジタルが身の回りにあることが「当たり前」である環境で育ち、メールやSNS のショートメッセージでのやり取りが主なコミュニケーション手段になっています。コロナ禍に入り、オンライン化による「非接触、非対人」が一層進み、その傾向は強まったかもしれません。日常では短い文面でのやり取りが多くなる一方で、庁内や職場では、まだまだ文書を作成したり、文章を用いなければならない場面は多く、また住民と対する時でも文章を使用する機会は多いはずです。
今回は、デジタル化が進んだ環境のなかで自治体職員にとっての柔らかいけれども硬すぎない“SNS 以上公用文未満” ともいえる「文章」に焦点をあて、 新しい時代の“テキスト”コミュニケーションについて考えます。

■自治体職員に必要な「言い換え力」/石黒 圭

役所に入りたての若手職員にとっては、公用文というものの硬さに慣れるのが難しい。とくに、デジタルネイティブの若手の職員にとっては、ふだんから慣れ親しんでいるスマホやタブレットなどのデジタルデバイスで発信すると、つい日常的な感覚でくだけすぎてしまうことが起こりがちである。反対に、紙媒体になじみのある年配の職員にとっては、どこまでくだけてよいか、そのさじ加減がわからず、どことなく硬いおじさん・おばさん文体が顔を出すことになるだろう。こうした「くだけすぎ」「あらたまりすぎ」という問題を避けるのに大切なのは、言い換え力である。

■「守りの仕事」だからこそ大切な、新時代の〝テキスト〟コミュニケーション/秋田将人

公務員にとって重要なテキストコミュニケーション。つまり、文書によるやり取りは、公務員の業務として、重要な役割を占めている。その中でも、中心になっているのが「SNS以上公用文未満」とも言える文章。SNSのような短文でもなく、また形式が定められた公用文とは異なる文章だ。デジタルネイティブ世代が自治体職員となってきた現在、改めて公務員の「文書主義の原則」の意義が問われるとともに、職員の文書作成能力に注目が集まっている。なお、本稿では文章は「文が集まったもの」、文書とは「文が書かれた紙や電子ファイルなどの媒体」と使い分けているが、特に意識せずにお読みいただきたい。

■これからの自治体職員が身につけておきたい〝ちょっとイイ感じ〟の敬語の使いこなし方/小田順子

「丁寧すぎる」文章には、敬語が多い。しかし敬語は、多ければ多いほど良いわけではない。敬語が多い「敬語メタボ」は、むしろリスクが高まる。世論調査によれば、「必要以上に敬語を多く使って話す」のを「感じがよくない」と思う人が、約8割。敬語は、対象となる相手を遠ざけ、距離のバリアー(障壁)を張っているようなことになるからだ。「SNS以上公用文未満の文章」では、「格調高く丁重であること」より、わかりやすく親しみやすいことのほうが優先される。一文を短くし、理解しやすくするためにも「敬語ダイエット」をおすすめする。

 

●連載

■管理職って面白い! アンラーニング/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
地域と子どもたち(学校)が繋がる意義/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/柏木佳奈子 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人 ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫 ■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介 ■次世代職員から見た自治の世界/青木悠太 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/黒濱綾子 ■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/津軽石昭彦(関東学院大学地域創生実践研究所) ■にっぽんの田舎を元気に!「食」と「人」で支える地域づくり/寺本英仁

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
白鳥 孝・長野県伊那市長
先端技術を取り入れ、食料・水・エネルギーを自分たちで賄える地域づくりを

民間から収入役・副市長を経て市長となった長野県伊那市の白鳥孝市長。ドローンやAIなどの先端技術によるサービスを官民連携で実現しながら、自らのことは自ら賄える地域づくりを進めている。

白鳥孝・長野県伊那市長(67)。背景は楓や欅、檜などの地域産材を使って市の風景を描いた会議室の壁面。市の「50 年の森林(もり)ビジョン」が掲げる「Social Forestry City」の文字が刻まれている。

 

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
伊達政宗(六) 美濃岩村の会議

 

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
あまりに長すぎた出荷規制──福島市、信夫山のユズ
原発事故、続く模索㉜

福島市の中央部にそびえる信夫山(しのぶやま)は古くから知られた山岳信仰の霊山である。その南斜面の集落に植えられたユズは、かつては栽培の北限として知られ、香りの高さが評判だった。特産品の加工に使われて、信夫山の象徴のような存在でもあった。だが、原発事故で11年間も出荷停止に。今春、ようやく「解除」されたものの、樹勢は衰え、生産者は超高齢化し、「産地としての再起は難しい」という声まで漏れる。

□現場発!自治体の「政策開発」
無償譲渡の空家情報を提供し空家解消と移住定住を促進
──0円空家バンク制度(富山県上市町)

富山県上市町は、空家情報提供制度として「空家バンク」を開設している。空家の所有者と入居希望者を橋渡しし、空家の有効利用によって空家の解消と定住人口の増加を図るのがねらいだ。さらに、空家解消特別推進事業として「0円空家バンク」を創設した。空家を無償譲渡したい所有者と取得希望者を結びつけ、譲渡者と取得者の双方に必要経費等も支援する、全国自治体初の取り組みとして注目を集めている。

 

●Governance Focus

□霞堤。過大な後始末の負担をどうする──台風14号、「流域治水」の現場を歩く(宮崎県延岡市北川町)/葉上太郎
9月18日夜から九州を直撃した台風14号。被害が特に大きかったのは宮崎県で、河川の氾濫や土砂崩れなどに見舞われた。そうした中でも、防災に「力」を発揮した土木構造物がある。同県延岡市の北川町にある霞堤だ。堤防で河川と陸を分けてしまうのではなく、開口部を設けて水をあふれさせ、下流を守ったのだ。しかし、これには代償が伴う。水が引いてからの後始末が極めて大変だった。台風が去った後の現場を歩いた。

 

●Governance Topics

□コロナ後に向けた地域創生について首長が集まり議論──地域活性学会第14回研究大会首長セッション
地域の課題に取り組む実務家、自治体職員、研究者や学生などが地域活性化に取り組む「地域活性学会」は9月10〜11日、横浜市の関東学院大学で第14回研究大会を開催した(同大学地域創生実践研究所と共催)。11日にはその一環として「首長セッションin三浦半島」を実施。5市町の首長が集まり、コロナ禍が地域に及ぼした影響やこれからの地域創生の展望などについて議論した。

□生活の基盤としての「住まい」について考える──第37回自治総研セミナー
(公財)地方自治総合研究所は9月17日、第37回自治総研セミナーを開催した。今回のテーマは「コロナ禍で問われる社会政策と自治体――『住まい』の支援を中心に」。コロナ禍で、政策の網にかからない「新しいかたちの困窮」が顕わになっている中で、生活の基盤である「住まい」を中心に、自治体が取り組んできたコロナ禍の生活支援策を振り返り、これから何ができるかを考えたいというもの。会場参加とオンライン配信の併用で行われた。

□ローカル・マニフェストで地方から日本を変えるには──ローカル・マニフェスト推進連盟東北勉強会2022
ローカル・マニフェスト推進連盟は10月4日・5日の2日間、「ローカル・マニフェスト推進連盟東北勉強会2022」を岩手県陸前高田市で開催した。「ローカル・マニフェストで東北から日本が変わる」と題し、会場とオンラインで100人を超える議会関係者が参加し、熱心な議論が交わされた。また2日目には、東日本大震災で甚大な被害を受けた同市の復興状況の視察も行われた。

 

●連載

□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □対話する議会・議員/佐藤 淳 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □注目映画情報/『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『“私”が生きやすくなるための同意――「はい」と「いいえ」が決められるようになる本』遠藤研一郎]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
山と人の間に存在する漆の精製という仕事──堤淺吉漆店(京都市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
交通インフラの充実で自然豊かな住宅都市としての魅力が飛躍的にアップ/大阪府箕面市
□山・海・暮・人/芥川 仁
「好きだからやっとんのじゃから」──新潟県佐渡市野浦
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
みかん発祥の地で受け継がれる独自の技術──下津蔵出しみかんシステム(和歌山県海南市下津地域)
□クローズ・アップ
活字離れでも貸出冊数が急増する秘密──宮崎県五ヶ瀬町、移動図書車の快進撃


■DATA・BANK2022 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!


【特別企画】 □DXによって自治体改革をどう進めるか?⑤
官民共創でDXを推進し、田園都市・三次の魅力を高めて全国へ発信する──広島県三次市

※「もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。

 

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

これからの公共施設と自治体のマネジメント

オススメ!

月刊 ガバナンス

2022年11月 発売

本書のご購入はコチラ

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

ガバナンス編集部

ガバナンス編集部

株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

閉じる