【特別企画】地域の課題解決に外部人材のスキルを活用「ふるさとプロボノ」で農山漁村を活性化―― 長野県高山村・兵庫県丹波篠山市
地方自治
2023.04.28
目次
(『月刊ガバナンス』2023年5月号)
社会的・公共的な目的達成に職業上のスキルや専門知識を提供するボランティア活動の「プロボノ」が広がりをみせている。認定NPO法人サービスグラントは、課題解決を図りたい地域の団体等とスキルを持ったプロボノワーカー(地域外からの参加者)を結びつける「ふるさとプロボノ」を推進。農山漁村の活性化や移住・関係人口拡大のきっかけとして期待が高まっている。先進的に進めている長野県高山村と兵庫県丹波篠山市の取り組み状況と成果を紹介する。
移住・交流の拡大を図る―― 長野県高山村
●支援先から調整役へ
「ふるさとプロボノ」は、地域づくりを進める団体の課題解決へ向け、仕事で培ったスキルや経験を役立てたいと考える地域外の人材を活用する取り組みだ。国内最大規模のプロボノ運営団体であるサービスグラントがプログラムを提供している。
長野県高山村では、信州高山村観光協会がふるさとプロボノを活用して観光振興を図っている。
「ぶどう栽培が盛んな村内では6軒のワイナリーが高山村産ワインを生産していますが、観光に結びついていませんでした。そこで、2020年にふるさとプロボノを導入し、プロボノワーカー6人のチームにワインを軸にした観光振興の計画づくりを支援してもらいました」と同観光協会の湯本恵さんは振り返る。
ふるさとプロボノによって外部人材との深いつながりが生まれ、成果に手応えを得た観光協会は、コーディネーターとなってふるさとプロボノを村内で広める活動を開始した。
「ふるさとプロボノで村内の課題解決を図りたいとの思いから、サービスグラントのスキームに基づき、支援を希望する地域団体の掘り起こしを行いました。私たちが支援先から調整役に転じることで、村の活性化を目指したのです」と湯本さん。
同スキームは、ふるさとプロボノの利用促進に向けて構築された仕組みで、自治体や地域の中間支援組織がコーディネーターとなり、支援先の地域団体とプロボノワーカーをオンライン上のプラットフォーム「GRANT(グラント)」で結ぶ取り組み。①コーディネーターが地域団体に呼びかけ、②地域団体がGRANTに登録して支援内容の記事を作成、③コーディネーターがその内容を確認し、④GRANTでプロボノワーカーを募集、⑤地域団体が応募者と面談して選考し、⑥プロジェクトを開始――というのが流れだ。
観光協会の働きかけの結果、高山村定住支援室と、村民有志の集まりである「おごっそに乾杯実行委員会」がふるさとプロボノを導入した。
●空き家登録の促進に活用
定住支援室は、22年4月に新設され、移住定住支援や村営住宅維持管理、空き家対策を所管。
16年度に開設した「空き家バンク」を活用して移住促進に努めている。
「ただ、空き家の登録物件が少ないため、移住先を紹介できないのが課題となっていました。そこで、登録促進用のツールをつくりたいと思っていたところ、観光協会から話があり、プロボノワーカーの力を借りることにしました」と定住支援係長の遠山寛道さん。農林水産省の交付金事業としてプロボノワーカーの現地滞在費用が交付されるなど、事業予算が不要だったことから、導入に特段のハードルはなかったと話す。
22年8月に募集し、他地域で空き家問題のプロジェクトに参加した経験を持つ工藤麻衣子さんの力を借りることにした。9月にキックオフ、10月の現地視察と関係者へのヒアリングの後、毎月、オンラインのミーティングを重ねた。
23年2月に空き家バンク登録促進用パンフレットの内容と活用方法、登録促進に向けたアイデアなどの最終提案を受けて3月にプロジェクトを終了した。
「工藤さんからは行政職員では発想できないようなアイデアやストレートな指摘を受け、様々な気づきがありました。それを今後の事業に活かしたいと思います」と遠山さん。最終提案に基づいて、4月以降にパンフレットを制作し、登録促進のイベントなども企画したいと意気込む。
●イベント情報の発信に活用
一方、おごっそに乾杯実行委員会は、ワインで地域を盛り上げようと有志が結成。秋に「おごっそに乾杯!」というイベントを開催し、ホームページで高山村のワインや魅力を発信している。そのイベントの情報発信に、プロボノの仕組みを活用することにした。
「主要メンバーは10人くらい。17年からワインと食を楽しむ手づくりのイベントを毎年行いましたが、20年と21年はコロナ禍のため中止。22年9月に再開するに当たり、情報発信にプロボノワーカーのスキルを借りようと委員会に持ちかけました」と委員会の一員でもある湯本さん。
同委員会委員で、高山村議会議員の髙井央葉(なかば)さんは、「ホームページは開設していたものの、あまり更新していませんでした。そこで、掲載内容の充実などを提案してもらうことにしました」と話す。
イベント前の8月に募集し、プロボノの経験豊富な塚原宏樹さんに依頼。8月下旬にイベント情報の内容を見直してもらって発信し、9月10日〜11日のイベントに参加してもらった。その後、毎月、オンラインミーティングでホームページのコンテンツなどについて議論を深め、12月に最終提案をしてもらった。
「コンテンツ充実の提案に加え、日常的にホームページを更新できる手順書も作成してくれました。私たちの思いを受け止めて問題を整理してくれたので、イベントも含めて今後取り組むべきことがクリアになりました」と髙井さんは手応えを話す。
長野県高山村「ふるさとプロボノ」プロジェクト事業概要
①
活用した地域団体:高山村 定住支援室
活動目標:「 空き家バンク」への登録を促進し、移住希望者の支援に繋げたい
希望支援内容:「 空き家バンク登録」促進に係るパンフレットの作成
プロボノワーカー(地域外からの参加者):1人
実施期間:22年9月~23年3月
地域コーディネーター(中間支援組織):信州高山村観光協会
②
活用した地域団体:おごっそに乾杯実行委員会
活動目標:ワインを軸に高山村を盛り上げたい!
希望支援内容:ワインを通じた地域振興イベントのホームページ更新
プロボノワーカー(地域外からの参加者):1人
実施期間:22年8月~23年1月
地域コーディネーター(中間支援組織):信州高山村観光協会
●プロボノの理解浸透がカギ
プロボノワーカーを務めた工藤さんは、「多くの人が村の課題に対して熱い思いを持ち、具体的な行動を起こしていることが印象的でした。空き家というテーマをきっかけに広がりのある話ができ、様々な人とつながれたことは貴重な体験で、空き家問題解決の可能性を感じることもできました」と感想を話す。
塚原さんは、「有志の活動に自由度と継続性があると感じました。プロジェクトの初期にイベントを体験したことで、地に足のついた提案ができました。本質的なブランディングで関係人口が増えると思うので、別のプロジェクトで村を支援していければ」と思いを語っている。
一方、プロボノワーカーに対して髙井さんは、「私たちに寄り添いながら解決策を考えてくれた姿勢と活動に対しては、議会内でも評価する声が上がっています。さらに進めるには、プロボノへの理解を深める必要性も感じています」と話す。
役場内のプロボノの受け止めについては、「役場全体では、プロボノに対してまだ少し距離感があるような気がします。今回の成果を示しながら、各部署へ広めていければと思rいます」と遠山さんは話す。
今後のふるさとプロボノの活用について湯本さんは、「引き続き、観光振興での活用を考えるとともに、コーディネーターとして様々な団体から困り事などを気軽に相談してもらい、支援の橋渡し役になれればと思います」と抱負を語っている。
COLUMN1.「ふるさとプロボノ」は農山漁村と都市住民をつなぐ新たな入口
私は、農山村政策論や地域資源管理論を専門とし、フィールドワークで農山漁村を訪れていますが、人口減少と高齢化に伴って農林漁業や集落の維持が年々困難になっている状況を目にしています。一方、ふるさとを持たない都市住民が増える中、農山漁村と新たな関わりを持とうとする動きが生まれています。定年後の田舎暮らしや農山漁村体験のリピーターだけでなく、地方に関わりたいと目を向ける若い世代が増え始めており、そのことを肌で感じています。背景には価値観や働き方の多様化があり、地域資源を活用し、地域住民との関係を深めて「なりわいづくり」を進める移住者もいます。
そのような流れにあって、農山漁村の課題解決に外部人材を活用する仕掛けの一つとして、地域おこし協力隊が全国で活用されています。ただ、成果につなげるには、地域住民と隊員の間で丁寧に信頼関係を紡いでいくことが求められます。
もう一つの動きとして、地域おこし協力隊ほど長期のコミットでない形で、地域の課題解決に関われる「ふるさとプロボノ」は、農山漁村と都市住民が信頼関係を築く導入的な手法になるかもしれません。この試みの興味深いところは、解決を図りたいテーマと活動期間を限定し、不足しているスキルを提供してもらうことです。支援側・被支援側とも大上段に構えず、双方無理のない関係で取り組めるのが特徴で、農山漁村と都市住民をつなぐ新たな入口になっています。ふるさとプロボノが突破口となって、関係人口の広がりや移住につながる可能性が高まるのではないかと期待しています。
「獣がい」対策に導入―― 兵庫県丹波篠山市
●「獣害」を「獣がい」に
農業を基幹産業に発展している丹波篠山市は、丹波篠山黒豆をはじめ数多くの特産品を有している。
「質の高い農作物の生産にこだわっているのが特色。一方、農業者の高齢化が課題で、イノシシやシカ、ニホンザルなど野生動物による農業被害も深刻化しています。市は防護柵の設置や捕獲などに取り組んでいるものの、有効策を見出せない状況が続いていました」とブランド戦略課の菅原将太さんは話す。
その課題解決へ向け、ふるさとプロボノを導入。丹波篠山市がコーディネーターとなって市内のNPO法人里地里山問題研究所(さともん)に声掛けし、さともんが支援を求める地域団体として23年2月にプロボノワーカーを募集した。
さともんは、鳥獣害対策の研究を行っていた鈴木克哉さんが15年に設立。獣害対策や里地里山保全活動の支援事業などを展開している。
「鳥獣被害対策は高齢化が進む地域づくりとセットで進めなければなりませんが、地域の人材だけでは限界があります。そこで地域外の力を借り、地域の未来を守っていくことを目指しています」と話す鈴木さんは、「獣害」を「獣がい」という言葉に変え、まったく新しい発想による「獣がい対策」に乗り出している。
「野生物は豊かな里地里山の構成員でもあり、地域の魅力の一つ。確実な手法で『害』を減らしつつ共生を図り、多様な人材が参画して地域を元気にする活動を進めています」
その一環として、野生動物から守った農産物や獣がい対策につながる商品・サービスに付加価値をつけて販売する「獣がい対策応援消費」プロジェクトを22年度から開始。さともんメンバーや丹波篠山市職員、都市住民や企業などが参加して商品・サービスの開発や農産物の実験的な販売に取り組んでいる。この「応援消費」の輪を広げ、獣害に苦しむ農業者の支援の第一歩とするのが、ふるさとプロボノ導入のねらいという。
兵庫県丹波篠山市「ふるさとプロボノ」プロジェクト事業概要
活用した地域団体: NPO 法人 里地里山問題研究所(さともん)
活動目標: 丹波篠山に関わる人々を「獣がい対策応援消費」で元気にしていきたい!
希望支援内容:「 応援消費」を拡げるためのネーミング・ブランディング提案
プロボノワーカー(地域外からの参加者):3人
実施期間:2023 年3 月~実施中
地域コーディネーター(中間支援組織):丹波篠山つながり案内所(丹波篠山市役所)
●「応援消費」を広げる
具体的には、「応援消費」を広げるためのネーミング・ブランディングを提案してもらえるプロボノワーカーを募集した。「獣がい対策応援消費」という名称が長くて意味が分かりづらいことから、「獣がい対策」をポジティブなイメージに転換する知恵を絞ってもらうことにしたのだ。
プロボノワーカーには4月中旬から5月末までに提案してもらう予定で、ミーティングを進めている。「地域では気づきにくい価値が発見できればと期待しています。販路開拓やECサイト開設など取り組むべきことは多数あるので、今後もふるさとプロボノで外部の力をお借りしたい」と鈴木さん。獣害を克服し、野生動物と共生できる地域モデルを全国に発信したいと意欲をみせる。菅原さんも、「地域の課題を整理し、ふるさとプロボノを活用して関係人口の拡大につなげたい」と次の展開を見据えている。
COLUMN2.オンライン上のプラットフォームでマッチングを促進
──「ふるさとプロボノ」とは?
プロボノを地域の課題解決に役立てようと2010年から開始した「課題解決型地域交流プログラム」です。私たちが支援希望団体を募集し、プロボノワーカーを集めたチームで支援してきました。それをさらに広げるため、自治体や中間支援組織がコーディネーターとなり、支援を希望する地域団体とプロボノワーカーを結びつける仕組みとして、「GRANT(グラント)」の活用を開始しました。
── GRANT とは何ですか?
オンライン上のマッチングのプラットフォームです。支援募集からマッチングまでが容易で、コーディネーターが団体をフォローしやすい機能を備えています。支援希望団体には例えばウェブサイトの改善や地域の特産品のマーケティングなど支援内容を明確にしてもらい、活動も1か月~3か月の短期間に設定していることが特徴で、利用は無料です。現在、約1200 人の参加者が登録しています。参加者のスキルなどは私たちが事前に確認し、双方安心して取り組めるようにしています。
──現在の状況と今後の展望は?
2022~2023年度は農林水産省の農山漁村振興交付金(地域活性化対策(農山漁村関わり創出事業))に採択されたことから、参加者の旅費や現地滞在費の8割程度の補助を行っています。「GRANT」のマッチング数は年間150件以上で、この仕組みを全国各地の地域づくりにもっと活用してほしいと思っています。地域が抱える課題を整理し、外部人材の力を借りたい事業を絞り込んで、ふるさとプロボノを試してみてください。