自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[11]避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン検討会(3)
地方自治
2020.05.20
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[11]避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン検討会(3)
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2017年2月号)
内閣府「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインに関する検討会」(以下、「検討会」という)は2016年12月26日に報告書を公表した。大きくは、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインの記載の充実」と「台風第10号による岩泉町被災の教訓を踏まえ、地域の防災力を総合的に高める方策」とに整理される。前者については、内閣府が1月中にガイドライン改訂版を発表する予定なので、次回に述べたい。
今回は、後者の内容について報告する。その特徴は、方策を示すだけでなく、具体的に制度化することで実効性を高めるべきという委員の意見を反映して、制度に組み込むものが明記された点である。これは、画期的であり高く評価したい。細かい点であるが、語尾に「しなければならない」と強調している部分が多い。人命を預かっているという重要性から、その責務を強調したためである。なお、私のコメントは《》で表記する。
また、同時に避難情報が新たな名称として、次のように発表された(表参照)。
制度に組み込む等により実効性を高める
(1)要配慮者利用施設(以下、本稿では「施設」という)の開設時、定期の指導監査時における災害計画点検のルール化
・施設の災害計画に水害・土砂災害等への対応・取組が適切に記載されていることを、開設時、定期の指導監査において確認することを都道府県等へ周知
・水害・土砂災害のリスクが高い区域における施設の災害計画作成の徹底
・施設の災害計画の点検(そのためのマニュアルの作成)
《検討会で最も時間をかけたのは、名称の変更よりも、福祉施設の防災力強化に関する部分である。
水害、土砂、津波など避難を必要とする災害では高齢者をはじめとする要配慮者は、避難行動に時間を要するため被害に遭いやすい。それゆえ、施設管理者は災害計画の中に必ず自然災害からの避難も盛り込まなければならない。災害計画の作成、訓練の実施及び継続的な改善の仕組みについて、具体的で実効性のあるものとしなければならない。そのためには、計画の作成段階から河川管理者や気象台の職員、その経験者、防災専門家等が支援を行わなければならない。
施設管理者は、避難時に地域の支援を得られるよう、平時から市町村や消防団、地域住民等の地域社会と一緒になって災害計画等の作成・訓練実施・改善をしなければならない。岩手県岩泉町の高齢者施設被害では、隣地に大きなヨーグルト工場があった。その支援を受けられていればと思わずにいられなかった。
施設の災害計画等の実効性や訓練を、自治体が定期的に確認して実効性を確保しなければならない。具体的には、指導監査において、災害計画への水害等の対策の記載、訓練の実施状況、緊急度合いに応じた複数の避難先を確保できているか等について、自治体が確認することを改めて周知する。その際、普段から施設との関わりがある福祉部局と、防災や土木部局が連携して実施する。
入院患者や施設利用者をはじめとする移動が困難な要配慮者は、移動に伴うリスクが多いことから、緊急的な待機場所への避難や屋内での安全確保措置をとれるよう、施設管理者は行政と連携して、緊急度合いに応じた複数の避難先を平時から確保しなければならない。
なお、支援する立場の人は、自らの安全確保を最優先しなければならないが、支援者が被災しないようにするには、要配慮者を支援するための防災対策を学び、実践することが有効だ。他者を守るミッションを果たすことが、自らの安全を守ることにつながるのである。》
(2)施設の災害計画作成や訓練実施について、全国の施設の参考となるよう、関係省庁が連携し、現場において具体的な取組を実施
《本報告書では上記の制度の改善について、関係省庁が連携して検討を進めるべきとされた。
施設毎に災害リスクや要配慮者の移動の困難性及び支援体制は違うことから、内閣府、厚生労働省、国土交通省等の関係行政機関・団体が連携して、モデル事業を実施し、成果を全国に展開しなければならない。その後も、各施設が工夫を重ねた事例を全国展開する等、継続して改善を重ねなければならない。
関係行政機関・団体は、施設管理者向けの災害計画等の作成マニュアル、市町村向けの点検マニュアル等を作成するとともに、研修や説明会等を積極的に実施しなければならない。》
(3)市町村が適時的確に避難勧告等を発令する体制づくりの徹底
・地域の災害リスクに応じた避難勧告等の発令基準等となっているかについて、河川管理者や気象台の助言等をもとに点検(市町村による自己点検、都道府県等による点検)
・災害時において優先すべき業務とその優先順位が明確化されているか、全庁的な対応体制となっているか等、市町村の防災体制を点検(同上)
・専門知識や助言を得られる体制の構築(河川管理者や気象台の職員、その経験者、防災知識が豊富な専門家等からの助言、研修への参加)
・市町村地域防災計画の修正の際に、上記について反映がなされているか、都道府県が確認
《岩泉町では県、気象台から河川や気象状況が総務課まで伝えられたものの、職員が住民の電話対応に追われて、町長に伝達されなかった。水害経験のある新潟県三条市長からは、災害時の電話対応は膨大であるため、防災職員ではなく財務担当職員が行っているという事例が紹介されている。
災害時は膨大な業務が発生するため、自治体は、平時から災害時優先業務とその優先順位を明確化し、全庁をあげた役割分担の体制を構築する。防災担当部局が情報の収集・分析・伝達等を一手に担う状態を避けるため、緊急的な情報を収集・分析する組織、一般住民からの情報や問い合わせを処理する組織、避難勧告等の情報を伝達する組織を分け、あらゆる部局の職員を積極的に活用すべきとされた。
自治体は、災害時に河川管理者や気象台からの連絡を活かす体制、助言を求める仕組みづくりが必要であり、それには平時から顔の見える関係を築くのが重要だ。私は顔の見える関係を深めて腹の見える関係までにしたいと考えている。
また、避難情報を発令する市町村長が必ずしも危機管理に強いとは限らないことから、新任市町村長及び市町村危機管理監等は、都道府県等が行う危機管理研修に参加するよう努めなければならない。》
各主体が実行できるように、使い勝手の良い手引き等の作成と普及
(1)避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインをはじめ各種マニュアルの充実と研修や訓練等による定着
(2)わかりやすいダイジェスト版、点検等に使用するチェックリスト、いつも目にとまるように壁貼版の作成と普及(以下、略)
いざという時に確実な行動に繋がる取組の充実
(1)実務面での運用を考慮した上で、災害時の適切な行動に繋がるような避難準備情報の在り方の検討
(以下、略)
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。