東西南北デジデジ日記 vol.53 今週の担当:【南】今村寛

地方自治

2022.10.20

「自治体×デジタル」を多彩な切り口からゆるっと考えてみる、現役&元自治体職員4名によるリレー日記。「公務員とお金」をテーマとした総括を、【南】の今村さんから。(※本連載は毎週木曜更新です)

―――――2022年10月20日 Thu.―――――――

 

お金の話は数あれど

編集担当からお題をいただき、そのテーマで各人が思いをつづるスタイルが定着してきましたが、今回のお題は「公務員とお金」です。

私は市役所生活30数年のうち9年間を財政課で過ごし、自治体の台所事情に精通しておりますし、あまつさえ、自治体財政に関する出前講座で全国を巡り、本まで書いていますので、お金にまつわる話は枚挙に暇がありません。

しかし「公務員とお金」というテーマだと、大きくは2つに絞られるかなと思っています。

 

愛が買えるなら

「愛が買えるなら」から始まる独特の節回しで歌い上げる、私より上の世代であればご存じであろう浜田省吾の名曲。

貧しい青年との恋を捨てて金持ちと結婚し丘の上の豪邸に住むことになった女性が、愛のない生活に満足できず夜ごと丘を駆け下りていく夢を見る、そんな歌です。
*私のコラムでもこんなことを書きました。  https://note.com/yumifumi69/n/nc665f7207959
市民の満足度向上はお金が全てではありません。

厳しい財政状況のなかで何を選び、何をあきらめるかという議論が今全国各地の自治体で議論されています。

もちろんお金がなければできないこともたくさんありますが、市民の行政に対する満足度というのは決して予算投入の規模に比例するものではありません。

お金のない今こそ、我々自治体職員はもっと「お金でないもの」で市民の満足を実現していくことへの意識を高め、そこに向かって注力していくべきではないか。

市民と接する際の笑顔、市民の声を傾聴する真摯な態度、丁寧に説明を尽くす誠実さ、当然市民が求める仕事の正確さ、公平さ、迅速さは言うまでもありません。

隠し事をしない公明さ、気軽に相談できる敷居の低さなど、我々自治体職員の日ごろの態度ひとつで、市民の満足度が上がったり下がったりするということを、財政状況が厳しく市民のニーズに応えきれない今こそこれまで以上に意識しておく必要があるのではないか、とこのコラムではお伝えしています。

 

そうはいってもお金は大事

しかし一方で、公務員ゆえのお金に対する無頓着さについても懸念があります。

公務員の中には公務員を志望する動機そのものが「社会の役に立ちたい」という方が多いのですが、これは裏を返せば「金儲けには興味がない(あるいは苦手)」ということでもあり、その後の人事異動でも「商売」を経験する部署が限られることから、商取引として世の中に当たり前に存在するルールやその基礎となる考え方が全く身についていないことが往々にしてあります。

これら“純粋公務員”に代表される、経済感覚の乏しい自治体職員が引き起こす問題として、  ①顧客や市場と向き合う目線や姿勢、収益最大化のためのコスト意識など、自治体の効率的な組織運営に与える影響②意思決定や事業のスピード感、打ち合わせや書類の多さ、情報の非対称、コスト感覚など民間企業との取引・協業における感覚のずれ③国や自治体が行う社会のルール、仕組みづくりや運用における経済感覚の欠落による国民、市民の時間や労力の収奪など市民の活動全般に与える影響の3つがあると思います。*私のコラムの中もあわせてご覧ください。 https://note.com/yumifumi69/n/n6c4ebced38b8

 

「経済」は役所の外では社会の常識

山形さんのいう「ご法度」の感覚は、以前は私にもありました(vol.50)。

しかし財政課に異動し、自治体のお金の使い道をシビアに考える中で、先ほど述べた公務員という業界にはびこる「ご法度」感覚に辟易したところです。
もちろん、お金だけでは解決しないこともたくさんあり、そういう非営利分野を業務領域としているのが我々公務員です。

また、お金がなくても市民の満足を得られるよう、姿勢や態度で示していくこともととても大事です。

我々公務員は総人口の1割程度しかいない圧倒的少数派。
「経済」は、役所の外では誰もが従う社会の常識です。

世の中の大半の人はその常識の中で、市場を感じ、リスクテイクを考え、自分の時間と労力を投じて自分の食い扶持を稼いでいます。
その大原則をきちんと知らず、その中で生きている個人や企業の価値観を正しく理解せずに「お金のことに疎い」ままで社会を動かしていていいのか。

私たちは常に自覚し、自問しなければいけないと私は思います。

 

世間知らずが世間とつきあうために

「お金のことに疎い」私たち公務員が、自治体運営の一翼を担う者として世の中を動かす立場にいます。
その立場にいる以上、私たちは自分や自分の組織がそういった感覚に欠けていることを自覚し、自省したうえで、それをどう補うのかということを真剣に考え、自己啓発や組織としての人材育成に生かすとともに、能力を持った民間事業者等の外部とのコラボレーションを通じて自治体として必要な「経済リテラシー」を高めていくことが必要です。

それは、厳しい財政状況の中で自治体経営を迫られるすべての自治体職員が意識し、心がけてほしいことだと私は思っています。

そういう意味で、千葉さんが書いているように(vol.51)、プライベートの時間でお金を稼いで団体を動かす活動を営むというのは絶好の学習機会ですし、役所の外とのつきあいの中で培われる経済リテラシーの向上によって、役所の中と外との文化、価値観の違いに気づき、様々な意見対立の前提が理解でき、そこから多田さんの言われるような(vol.52)役所の中と外との対話、協業が成立する土壌になっていくのだと思います。

今回は無事締まりましたでしょうか?
おあとがよろしいようで。デジデジ!

 

★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/

★そのほか、自治体財政の話、対話の話など、日々の雑感をブログに書き留めています。
https://note.com/yumifumi69/

 

~次回の日記は10月27日(木)に更新予定です!~

 

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千葉大右・多田 功・山形巧哉・今村 寛

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