「新・地方自治のミライ」 第2回 地域政党のミ・ラ・イ

時事ニュース

2022.10.19

本記事は、月刊『ガバナンス』2013年5月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

国政政党とは異なる「政党」の伸長

 橋下徹氏は、当初は自民党系候補として08年1月に大阪府知事に当選したものの、自民党を中心とする大阪府議会との軋轢から、自らを党首とする地域政党「大阪維新の会」を10年4月に立ち上げた。「大阪維新の会」は、11年4月の大阪府議会議員選挙で勝利し、大阪府という自治体の二つの代表機関を掌握した。その後、いわゆる「大阪都構想」を巡る大阪市との対立から、橋下氏は11年11月の大阪市長選挙に鞍替え出馬した。大阪府知事の辞任に伴う府知事選挙との「府市あわせ」のダブル選挙となり、「大阪維新の会」として、大阪府知事に松井一郎氏を擁立し、大阪府市という二つの自治体の首長職を掌握した。

 このような動向は、従来の国政政党とは異なる「政党」の伸長ということで、大きな関心を集めた。それは、大阪府知事あるいは大阪市長という首長である橋下氏が率いているという点で首長政党であり、また、大阪という地域を前提にしているという点で地域政党である。

 さらに、総選挙を睨んで全国政党「日本維新の会」に転換した(12年9月。太陽の党との合流は11月)。12年12月の総選挙に際しては、橋下氏は、「日本維新の会」の党首(代表)に石原慎太郎・前東京都知事を据え、自らは国政選挙に出馬せず、依然として大阪の自治体に権力基盤を置いている。とはいえ、総選挙では、「日本維新の会」などの「第三極」は台風の目となることはできず、自民党の地滑り的大勝をもたらしただけに終わっている。今回は、「大阪維新の会」が模索した地域政党のミライを考察してみたい。

地域政党とは

 地域政党とは、特に明確な定義があるわけではない。例えば、自治体の議員を中心に構成されていた「生活者ネットワーク」なども、「ローカルパーティ」と呼ばれていたし、沖縄にだけ存在してきた社会大衆党も「地域政党」と呼ばれることもあった。しかし、近年の「大阪維新の会」をイメージする地域政党は、むしろ、自治体の首長が主導して、同時に、議会多数派の掌握を明示的に目指す政治集団を意味する。

 論理的に言って、地域政党は勝利する見込みが高ければ合理的である。なぜならば、首長と議会がそれぞれ別個に直接公選される以上、首長に当選したとしても、議会多数派が首長に政治的に親近するとは限らない。その場合には、首長は議会運営に苦しむことになる。そこで、首長が議会運営を円滑化するために、首長を支持する候補者を多数擁立し、議会選挙での勝利を目指すのは、一つの合理的な選択肢だからである。その意味で、地域政党がこれまで登場しなかったことが不思議なくらいである。

 しかし、地域政党は選挙での敗北のリスクを考えると、あまり合理的ではない。つまり、首長が、自身を支持する地域政党の旗で議会選挙に直接に参入した挙句、議会多数派を獲得できないこともある。その場合には、議会選挙で候補者が旗幟鮮明にして戦ったがゆえに、かえって、議会運営には妥協の余地は小さくなる。地域政党を掲げて議会選挙に打って出ることは、ハイリスク・ハイリターンの政治戦術なのである。地域政党が、一定の条件のもとでは合理的ではあるが、必ずしも一般化しないのは、このためである。

異なる公選職の統合手段

 このように見てくると、地域政党の本質は、首長と議員という異なる公選職を、同一政党という旗印で選挙戦に臨むことで、相互に統合することにある。当選してから議員を首長与党に糾合しても、議員は独力で当選してきた以上、最終的には首長に忠誠を誓うとは限らない。しかし、首長の与党・地域政党を背景に当選したという「出生」の履歴が、議員に忠誠心を持たせるのである。

 地域政党の本質が異なる公選職の統合手段である場合、同一自治体内に限定する必要はない。実際、大阪府市の四つの直接公選機関を「大阪維新の会」は統合しようと目論んだのである。そして、市長・府知事・府議会という三つの機関を統合することに成功したのである。その意味で合理的であり、実際、府市統合本部では、府市の行政部局の一体的な運営が可能となった。ただし、大阪市会の過半数を掌握できなかったという意味では、市会内での党派間対立を激化させたという、非合理的な側面も現れている。

 そして、異なる公選職の統合手段という本質は、論理的には、広域・基礎的自治体という関係だけに留まるものではない。水平的には、異なる基礎的自治体間の政治的統合にも使える。A市長とB市長は別個に直接公選されるがゆえに対立が起きるとすれば、両市長職を同一政党で掌握してしまえば統合が可能になる。垂直的には、自治体・国関係にも拡張し得る。自治体選挙と国政選挙は当然に別個であり、それゆえに、国政は自治体の思う通りに行動しないという「対立」が起きうるのであれば、同一の地域政党が権力を掌握することで、政治的統合が可能になる。こうして地域政党は勢力拡大を指向する内在的メカニズムを持っている。

地域政党の自壊

 異なる公選職の統合手段という地域政党の本質は、国政への進出を内在的にもたらす。しかし、国政にも進出するや否や、「地域政党」は地域政党たりえない。むしろ、「地域政党」は、単に国政へのステップ・アップのための過渡的な手段にすぎず、結局は、全国政党になってしまう。「大阪維新の会」は「日本維新の会」という全国政党になってしまった。このようなメカニズムにより、地域政党は自壊していく。

 もちろん、全国政党にとって、地域の政党組織は重要である。なぜなら、異なる公選職の統合手段という本質は、実は、地域政党に限らず、政党そのものの本質でもあるからである。国政を掌握する全国政党にとっても、国政運営を円滑にするためにも自治体の協力が望ましく、それには、同一全国政党の旗印で自治体の権力を掌握するのが都合がよい。しかし、そこに存在するのは、国政の都合で自治体の公選職を糾合しようとする思惑に過ぎない。

地域政党にもミイラ化への道

 地域政党とは、自治体レベルでの非常に興味深い政治戦術である。

 これまでは、全国政党ないしはそれに近い看板で戦う政治戦術が一般的だった。戦後55年体制下の保守系・革新系というカラーであり、民主党も政権交代まではそのような作戦をとってきた。政党政治を前提とすれば、政党の看板で戦うことが、最も正統だからである。

 これに対して、リスク回避的に「県民党」「無所属」を名乗る政治戦術もあった。政党間で選挙を戦えば、しこりが残ることは不可避だからである。ただ、「無所属」とは党派性がないことを意味するのではなく、むしろ、これは同時に(保守中道系の優越を背景とする)各党各派の「オール与党」を目指す政党談合の政治戦術であった。

 そこで、そのような野合体質が垣間見えるがゆえに、政党の支援関係を完全に否定した「無党派」という対抗的な政治戦術もあった。

 とはいえ、「無党派」ではオール野党になり議会運営に苦しむ。議会招集拒否というような、クーデタ的な政治戦術に出ないのであれば、つまり、代表民主主義の作法を破壊しないのであれば、そこに地域政党ないしは首長政党によって議会多数派を形成しようという政治戦術が登場する余地があったのである。

 しかし、政治家の権勢欲は無限でもありえるので、地域政党は全国化する内在的な自壊のメカニズムを内包する。魂の永遠の生命を模索して、結局は、単に干乾びた肉体となるミイラのように、地域政党にもミイラ化の道が開かれている。

 

 

Profile
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)など。

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