自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[67]男女共同参画と福祉と防災と
地方自治
2022.09.14
※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2021年10月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
防災女子の会の提言
世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」において、わが国は156か国中120位であり、世界的に見て女性が活躍できていない社会である。中でも、防災は男性中心の分野であったといえる。
5月17日、内閣府防災担当と男女共同参画局の女性職員を中心とした「防災女子の会」が、災害時における女性のニーズや課題とその対応策についての提言を防災担当大臣に行った。
2020年12月、内閣府防災担当と男女共同参画局の女性職員による「防災女子の会」が結成されたが、当初、内閣府防災の全職員147人に占める女性職員はわずかに5人(2021年5月には153人中11人)。これには、自治体や民間からの研修職員も含んでいる。
提言の冒頭は、「世界を変えたい。この思いで提言する」。本文中には「女性の声が運営にきちんと反映される組織は、全ての構成員にとって良い組織であると断言できる。我々人間が究極の状況に置かれる防災の分野からそれを実現したい。
困難なことは分かっている。そして、防災の分野は女性活躍を進めるべき非常に多くの分野の一部に過ぎないことも百も承知である。それでも災害対応に女性の意見を十分反映できる社会に変わることができれば、平常時の日本も劇的に変わるのではないかという期待がある。予感もする」と清々しい言葉が連なる。
提言の概要「1女性の視点に立った被災者支援の推進」
⑴「女性の視点からの防災・復興ガイドライン」を踏まえた対策の一層の推進
① 避難所等における性暴力・DVの防止
② 避難所等における複合的に脆弱な要素を持つ女性の困難の解消
③ 避難所運営等の意思決定の場への女性の参画
④ 地方防災会議や中央防災会議をはじめとする防災計画作成の場への女性の参画
⑤ ライフスタイルの変化を踏まえた被災者支援
⑥ 迅速・的確な被災者支援のための男女別データの収集・活用
上記④の地方防災会議については、2012年6月の災害対策基本法改正において、「地域における生活者の多様な視点を反映した防災対策の充実により地域の防災力向上を図る」目的で、新たに8号委員(自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者のうちから知事が任命する者)が設けられた。
2021年度版男女共同参画白書によれば、都道府県防災会議の委員に占める女性の割合は16.1%、2011年の3.6%から4倍以上になっている。また女性委員のいないところはない。一方、市町村防災会議の委員に占める女性の割合は8.8%、女性委員のいない市町村は348である。
突出して女性委員が多いのは徳島県である。徳島県は、8号委員は21人全員が女性である。学識者だけでなく子育て支援ネットワークや介護支援専門員協会のNPO役員など幅広く任命されている。また、会長などの充て職でなく副会長他の役員でも女性を委員に任命している。これにより、防災会議委員81人のうち38人、46.9%を女性が占めている。大いに参考になる事例だ。
⑵避難所運営ガイドラインへの反映
・避難所のリーダーや副リーダーに、女性と男性の両方を配置する。
・リーダー、食事作りや片付けなど、特定の活動が特定の性別に偏るなど、役割を固定化しないよう配慮する。
・プライバシーの十分に確保された間仕切りにより、世帯ごとのエリアを設ける。
・女性用と男性用のトイレを離れた場所に設置する。
・トイレ、物干し場、更衣室、休養スペース及び入浴施設は昼夜問わず安心して使用できる場所に設置する。
・物干し場及び休養スペースを男女別に設ける。
・女性用品の配布場所を設ける。
・女性用トイレの数は、男性用よりも多くする。
・在宅避難者及び車中泊避難者にも物資や情報を提供する。
中でも「リーダー、食事作りや片付けなど、特定の活動が特定の性別に偏るなど、役割を固定化しないよう配慮する」ことが重要だ。自主防災会の訓練などに参加すると、リーダー層は年配男性で、救助訓練や避難所設営などは男性、炊き出しと食事の片付けは女性と最初から役割が分担されていることが多い。現実には避難所の設営ではトイレなど女性に配慮すべきことが多いし、炊き出しや片付けを手伝える男性もいるはずだ。役割を柔軟に考えることで、より良い避難所運営につながる。
提言の概要「2女性の視点を組み込むための防災担当の体制強化」
⑴ 防災に関わる女性職員の増員
⑵ 女性の視点に立った災害対策に関する防災職員の理解促進
⑶ 内閣府における防災担当と男女共同参画局の恒常的な協力体制の強化
⑷ 防災担当職員間のつながりの強化
防災女子と「よんなな防災会女子部」や「防災士会」との連携を計画
この提言で初めて知ったのだが、我が国の防災の中枢機関である内閣府防災担当職員(自治体や民間からの研修生などを含めて)は153人、そこで女性はわずか11人だ。「隗より始めよ」であるとすれば内閣府防災担当にもっと女性職員を増やすことが大切だ。そのために、労働環境、勤務体制などを見直す必要があり、それはきっと男性職員にとっても働きやすい職場づくりになる。
ちなみに、地域防災の中核をなす消防団員は81万8000人余、そのうち女性は2万7200人(2020年4月現在)で約3.3%である。
福祉職場と防災
一方で、女性が多い職場の代表は保育園である。保育士登録者数は約172万人、その中で男性は約8万2000人なので、女性の割合が95%を超える(2020年4月現在、厚労省)。私は、東京都の保育士研修を何年か続けているが、「どういう防災対策が必要か」というワークショップをすると、必ずアレルギー対応、障がい児対応が上位にくる。男性の参加が多い地域の自主防災会で同じ研修をすると、組織体制の拡充とか訓練実施が多くなるが、まずアレルギーという言葉が出てこない。
他に女性が多いのは介護職員だ。全体で211万人(2019年度、厚労省)、民間の調査機関によると女性が170万人と約8割を占める。介護職員を対象にした同じワークショップをすると、大事なのはトイレ、食事、あるいは地域との関係など身近なことが挙げられる。
ところで、これまで保育や介護といった福祉の現場で、火災からの避難訓練以外に、防災についてしっかりした取り組みはなされてこなかったのではないか。
保育士が防災の知識、行動力をもち、保護者と一緒に、災害時に子どもをしっかり守ろうと、家庭内の防災について教えてくれたらどんなにいいだろうか。また、子どもたちに防災教育をちゃんとやってくれたら、どんなに未来の防災力は高まるだろう。
介護職員が、在宅の高齢者や障がい者に、家具の転倒防止、水、トイレ、食料や薬の備蓄を呼びかけたり、隣近所と仲良くしていざという時に避難支援してもらうことの大切さを伝えたりすると、要配慮者の防災が、ずっと進むのではないだろうか。
福祉と男女共同参画がつくる新しい防災
保育士と介護職員の女性は、330万人を超える。その女性が役割をもち、研修などで防災の知識、行動力を高めることは、社会全体の防災力を高める。同時に、防災について真剣に取り組もうという人も増え、地方防災会議に参加したり、NPO活動に参加したりすることによって、実質的に男女共同参画が進んでいく。
これまでの防災が男性中心で画一的であるがゆえに固く、厳しいものであったとすれば、これからの防災は男女が協力し合うことによって、多様になり、柔らかく心地よいものに変わっていくと期待している。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。