議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第66回 信心がないことは悪いことなのか?

地方自治

2022.05.12

本記事は、月刊『ガバナンス』2021年9月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 7月に早稲田大学で開催された「全国地方議会サミット2021」で「チーム議会における議会(事務)局職員のミッション」と題する議会事務局セッションに登壇した。今号では、セッションで触れた局職員による議員に対する補佐のあり方(以下、「補佐の射程」)の論点から、課題に対峙する姿勢について、当日の議論に補足して掘り下げたい。

■国会が地方議会の標準なのか?

 冒頭、「『議会局職員=軍師』論~議会の政策立案プロセスにおける議員との協働~」と題して報告した。

 議会の機能のうち、監視機能については、多様な運用手法が確立されている。

 一方、政策立案機能については条例制定権が法定され、法定外の政策提言なども行われるものの、活用度は議会によって差が大きく、標準的運用手法も確立されていない。そのため、補佐の射程に関する課題は、政策立案プロセスで顕在化する。

 大津市議会局の補佐の射程は、衆議院法制局との比較で「越権」と揶揄されるほど近いが、国会での標準を地方議会に類推適用しようとするのは、法的根拠や合理性に乏しいとの持論を展開した(注)。

注 詳細は本連載2017年5月号「『地方議会』は国会のミニチュアなのか?」2018年10月号「続『議会事務局のシゴト』とは何か?」参照。

 だが、一般的には、論者の社会的地位に忖度してその意見を盲信し、自分で是非を判断しようとしない傾向にあることも指摘した。

■時代の変革者の資質

 死が日常の世に生きる戦国武将だからこそ、誰もが信心に救いを求めた時代に、現実主義者の織田信長は、神仏に対する信心がなかった。

 キリスト教宣教師が伝えた地球球体説などの科学的知識は自身で理解し、納得して信じたが、やはりデウスの神は信じなかった。神の存在は宣教師も合理的証明ができなかったからだという。

 自ら確かめ考えて、納得したものしか信じない生き方は、特異かもしれないが、他人の言説を鵜呑みにせず自分で判断しようとする姿勢は、時代の変革者に求められる重要な資質ではないだろうか。

■求められる課題対峙の姿勢

 地方議会でも通説とされている理論を前提に思考展開するのではなく、ゼロベースで通説自体を疑うところから始めるべきであろう。

 まずは通説として確立された時代を確認することだ。同一憲法下においても、終戦直後と現在では、地方自治に対する意識が大きく変化している。特に地方分権改革の前後で、国との関係性の変化は大きく、法的根拠なき単なる中央準拠の主張は疑うべきである。

 次に地方議会現場の視点の有無である。事業や人に対する評価が、組織の内外で正反対という例は珍しくないが、同様のことが理論の実践においても当てはまる。理論の実践は現場でしか行い得ないが、前提となる現場の実情は、必ずしも部外者からは見えない。だからこそ理論の前提条件の是非は、現場にいる人にしか判断できないのである。

 補佐の射程の議論も、時代の変化によって、法的根拠なき中央準拠の前提自体が、論理の飛躍を生じさせている。また地方議会を一括りにしているが現実には格差が大きく、衆議院法制局での補佐の射程は、多くの地方議会、一般市民にとっては、最適解となり得ないだろう。

 当該事例に限らず、課題に対峙する時には、局職員は多様な理論の現場への適用の是非を冷静に見極める、信心のない現実主義者であるべきではないだろうか。

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第67回 外の世界での活動はインテリジェンスなのか? は2022年6月30日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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