連載 コミットメント ── 他責から自責文化の自治体職員 第4回 「ドミナント・ロジック」の打破【和田大志(熊本県職員)】
地方自治
2021.10.05
本記事は、月刊『ガバナンス』2016年9月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
所属等は執筆(掲載)時点のものです。
※本コラムは主に早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会の修了生(マネ友)のメンバーがリレー形式で執筆します。
「ドミナント・ロジック」の打破
4月14日21時26分、残業の妻がいない寝室で子どもたちを寝かしつけた直後、緊急地震速報と同時にこれまでに経験したことのない揺れ。慌てて子どもたちに駆け寄り、次の瞬間には妻に帰ってくるよう電話。入れ替わりで職場に急行した。途中、信号待ちの車中でも分かる激しい揺れに、携帯の防災メールが追い打ちをかける。只事ではないとすぐに分かった。
4月16日本震の2日後、私は1人の上司に補助役として随行する命を受けた。その上司は、迫り来る決断の連続に、「住民の立場で考えているか、県庁だけの理屈になっていないか、今やるべきことは何かを考えろ」と時に厳しく、時に優しく部下に問いかけ、舵を取っていた。随行した約1か月のうちに備忘録として書き貯めた3冊のノートは、当時の喧噪を物語るものであり、めくるたびにその時の記憶(学び)を甦らせる、かけがえのない財産である。
一見、困難だと思える状況でも、自ら考え方や見方を変えれば、解決策が浮かんでくる。それは人材マネジメント部会で学んだ「ドミナント・ロジック(その場を支配する空気、思いこみ)」の打破であり、その実例を熊本地震の初動対応を取り仕切る上司の背中に見た。
もう1つ感じたのは、リーダーシップを発揮できる担当レベルの職員の存在が有事対応の明暗を分けるということ。だからこそ、「各組織にリーダーが要る」という状態を「各組織にリーダーが居る」という状態にする必要がある。「言うは易く、行うは難し」だが、最も大切なことではないだろうか。
復興のステージは、まだ始まったばかりである。災害対応の時こそ、人や組織の本質が見えてくる。自分たちが目指してきた組織のありたい姿はどうだったのか、見直すべきところ、さらに伸ばすべきところはどこかなど、検証・振り返りが待っている。時間が取れず久しく出来ていなかった対話の場、ダイアログ。大切な復興のステージであるとともに、仲間とダイアログをすべき時期に来ているのだと思う。
(熊本県職員/和田大志)