月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2021年4月号 特集:コロナ禍:自治体・新年度の展望

地方自治

2021.03.30

●特集:コロナ禍:自治体・新年度の展望

2021年春、自治体は新型コロナ禍の中で新年度を迎えることになった。
新型コロナの感染拡大防止に向け、新年度予算を審議する3月議会や人事異動、新規職員を迎え入れる入庁式などもこれまでとは様相が異なるものになったのではないか。 そして昨年の特別定額給付金の支給に続き、今年はワクチン接種という喫緊業務が 自治体には待ち構えている。新型コロナ禍という異例の事態の中、自治体はどう新年度を迎え、行政運営を進めていけばいいのか。その論点と課題等を考えてみたい。
(月刊「ガバナンス」2021年4月)

大森 彌(東京大学名誉教授)

地方分権とコロナ禍対応/大森 彌(東京大学名誉教授)

新型コロナの感染拡大によって.すべての人が当事者として行動することを求められ、国も自治体も新型コロナ禍への対応に大わらわになっている様子が連日マスコミ等で報道されていることもあって、地味な地方分権改革の動きが軽視されがちである。だが、自治体の現場の声が目立たないが少しずつ実現しつつある。地方分権改革は終わってはいない。

大森 彌 東京大学名誉教授
新型コロナの感染拡大によって、すべての人が当事者として行動することを求められ、地味な地方分権改革の動きが軽視されがちである。だが、自治体の現場の声が目立たないが少しずつ実現しつつある。地方分権改革は終わってはいない。

■ワクチン接種から考える自治体の使命/今井 照((公財)地方自治総合研究所主任研究員)

なぜ一律、画一的にワクチン接種をすべて市町村の業務とするのか。生活福祉業務と同じように都道府県の補完システムが必要なのではないか。このような国の自治体観は今回の問題だけではなく、さまざまな施策において見られる。こうしたことが最終的には市民の不利益につながる。市民生活と地域社会を守るのが自治体の使命であることを考えると、自治・分権のあり方がいかに重要なテーマであるかを改めて認識させられる。

■人口減・コロナ禍の首長の役割:突発的危機から持続的危機への変化の中で/牧原 出(東京大学先端科学技術  研究センター教授)

人口減と、新型コロナという長期的な危機とが重畳するのが現在の地方自治体である。では、この二つの長期的な危機に地方自治体はどう対応すればよいのだろうか。人口減の危機は将来になればなるほど、大きく作用するのであり、問題が深刻なのは将来の遠い先である。これに対して、感染症は何にもまして初動が重要であり、危機はまず第一波への対応にもっとも先鋭に表れる。こうした危機の性質の差異は、当然リーダーシップの質的な差異を要求するのである。

■AIが示すポストコロナの日本──包括的な「分散型」社会が持続可能性と幸福の鍵に/広井良典(京都大学こ  ころの未来研究センター教授)

AIを活用した、2050年に向けたポストコロナの日本社会に関するシミュレーション結果から、どのようなメッセージを見出すことができるだろうか。全体として大きいのは、いわば包括的な意味での「分散型」社会への転換という点だ。それは一言で言えば、「人生の分散型」社会と呼べるような社会のありようとも言える。

■コロナ禍における職員養成・政策立案/佐藤 徹(高崎経済大学地域政策学部・大学院地域政策研究科教授)

コロナ禍において、「エビデンスはあるのか」といった言葉をよく耳にするようになった。翻って、近年、わが国や自治体において、EBPMが推進されている。EBPMでは個人的な経験や勘、固定観念や先入観、エピソードや慣例などにとらわれるのではなく、データや科学的な根拠に基づいて政策決定を行おうとするものである。

■コロナ禍における管理職の役割──モチベーションを維持するには/定野 司(前東京都足立区教育長)

仕事が増えたときは仕事を止めるチャンスである。コロナ禍だからこそ、「コロナ禍」を大義名分にするのである。この「止める」、「休止する」という英断を下すのは管理職の役割だ。仕事を止めてお腹の減った職員のモチベーションは高くなる。このとき、コロナ禍でできる目標を与えるのが管理職の役割だ。

■コロナ禍における地域の再発見/杉岡秀紀(福知山公立大学地域経営学部准教授)

必要は発明の母ではないが、コロナ禍だからこその工夫、具体的には、オンラインの活用等により、思いがけず地域の再発見につながるような事例も出てきている。前例踏襲、横並び主義で考えるのではなく、常に柔軟かつ修正主義で政策や事業も組み立てる思考こそをニューノーマルとしなければなるまい。そこで必要になるのは、決まりきったピースを埋めていく「ジグソーパズル型思考」ではなく、いかに新しいものを創造するかが問われる「レゴ型思考」と呼ばれる思考である。

■コロナ禍の地方圏と人口・関係人口/小田切徳美(明治大学農学部教授)

今後の地方圏における「ポスト・コロナ社会」のデザイン=〈関係人口づくり-都市農村共生社会〉と〈開かれた地域づくり-内発的発展〉は、従来からの地域づくりの王道である。つまり、ポスト・コロナ時代では、今まで以上に地道な地域づくりの取組みが求められている。

■コロナ禍と自治体の働き方改革──熊本市の取組み/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所事務局長/熊本市政策参与)

働き方改革は残業時間を減らしたりペーパーレス化をすることではない。市民サービスの質的向上を実現するため従来の自部署内だけで改革に取り組むのではなく、必要であれば他部署や意思決定権者とも一緒に(組織横断的に)目的や目標を共有しながらプロセスを見直していくことである。また、働き方改革とは市民のためなら職員がいくら疲弊してもよいのではない。市民にとっても職員にとっても双方に快適な状況を創り出すことだ。

【新連載スタート】

●巻頭グラビア
□自治・地域のミライ
   酒井直人・東京都中野区長
   さまざまな人と人がつながり、力を活かす地域づくりを

分権型社会への大きな一歩を踏み出した地方分権一括法から21年。その担い手である自治体は今、本格的な人口減少、相次ぐ自然災害、新型コロナ感染症のパンデミック、さらにはデジタル革命の進展などに直面し、地域・自治のあり方が問われている。その舵取り役を担う首長に、自治・地域の「ミライ」をどう描いていくのかを聞く新連載。第1回目は、職員から転身した東京都中野区の酒井直人区長にいまだ終息が見通せないコロナ禍への対応も含め話を聞いた。

酒井直人・東京中野区長(49)。コロナ禍の中で、自治体には現場起点の政策が求められるが、職員時代に広報を経験してきた酒井区長は「重要なのは現場や区民に何が起きているのかをいち早く察知する『広聴』。そこでつかんだものを政策としてアウトプットしていく」と話す。

□自治体DXとガバナンス/稲継裕昭
 DX(デジタル・トランスフォーメーション)

□次世代職員から見た自治の世界/中西咲貴
 世界を見据えて島根で暮らす

□新型コロナウイルス感染症と政策法務/澤 俊晴
 新型コロナウイルス感染症拡大の経緯と法的位置付け

□地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚
 リミットを乗り越えるロジックとリアル

□今からはじめる!自治体マーケティング/岩永洋平
 地域ブランディングを超える視点

□From the Cinema その映画から世界が見える/綿井健陽
 何が人質の生死を分けたのか

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
あらためて公用文を学ぼう

突然ですがみなさん、公用文の書き方を今一度、振り返ってみませんか──。
コロナ禍もあいまって、デジタル化の勢いは自治体でも増しています。押印を見直す動きもその一環。それでも、おおもとの公用文をどう扱うかは、自治体職員の仕事の根幹であることに変わりはありません。新年度の始まりに、国の文化審議会国語分科会での議論もあわせ見ながら、公用文についてあらためて学んでみましょう。

■わかりやすい文章を書くコツ/関根健一(日本新聞協会用語専門委員)

自分のためだけに書く日記やメモは例外として、文章は誰かに読んでもらうために存在する。文章を書くことは、書き手と読み手とのコミュニケーションにほかならない。わかりやすくなければ、円滑なコミュニケーションは期待できない。

■自治体公用文の基礎とこれから/小川眞澄(一般財団法人公共経営研究機構参与)

「行政は、文書に始まり、文書に終わる」と言われているように、行政機関である各自治体の行政運営において、公文書は行政主体そのものである。したがって、作成する際も、管理においても、住民の目線は従来にも増して厳しいものがある。行政の文書事務は付随的な業務ではなく、本質的な業務であるので、職員の意識のもち方次第で善し悪しが決まるということを肝に銘じてほしい。

〈取材リポート〉
◆手引きを策定して分かりやすい公文書作りをサポート/東京都港区

役所言葉は硬いし、まどろっこしくて分かりにくい--。公用文や公文書は世間からこんな目で見られることが少なくない。そうした中、東京都港区は2017年、分かりやすい公文書づくりのための手引き書を庁内向けに作成。住民目線に立って、公文書の書き方を一から整理し直した。さらに、外国人住民を意識して、いわゆる「やさしい日本語」による情報発信策も強化。区公式ウェブサイトや専用の冊子を作るなどし、「お役所言葉」からの脱却に全庁的に取り組んでいる。

●連載

■管理職って面白い! マズローの欲求6段階説/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
 2020年度に出会った私の心に響いた3つの言葉/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/村川美詠
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■独立機動遊軍 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■“三方よし”の職場づくり/藤岡靖幸
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 細川幽斎(十三) 新しい隠居道

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
 このままでは人がいなくなる【11年目の課題・田村市都路(上)】
 原発事故、続く模索

東日本大震災から10年。にわかに盛り上がった報道だが、この先どれだけのメディアが被災地に関心を持ち続けるだろう。あの時、日本の形が変わるとまで言われた災害なのに。そして世界史に刻まれた原発事故は今も進行形なのに。11年目の課題は何か。あえてそう問いながら地域を歩く。その初回は「10年報道」でもほとんど触れられなかった福島県田村市の都路地区だ。

□現場発!自治体の「政策開発」
 新しい生活様式に対応した食の宅配と窓口改革を推進
 ──デリバリー三鷹+窓口キャッシュレス決済(東京都三鷹市)

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、東京都三鷹市は、市内飲食店のメニューをアルバイト学生が家庭に届ける「デリバリー三鷹」を進めている。食の宅配ニーズに応え、飲食店の応援と学生のアルバイト就労を支援するのがねらいだ。また、市民課の総合窓口に「キャッシュレス決済とセミセルフレジ」を導入したのをはじめ、窓口での感染予防に向けた接触回避と混雑解消、窓口利用の利便性向上を図っている。

□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
 オンラインによる「カフェトークふじさわ」で、若者や市民の意見を集約
 ──神奈川県藤沢市議会

2016年度からワールドカフェ方式の議会報告会「カフェトークふじさわ」を実施している神奈川県藤沢市議会は昨年11月15日、コロナ禍にあってオンラインによる同カフェトークを行った。そこで出された意見や大学生の政策提言を広報広聴委員会が集約し、議長に提出。今後、市長に提言書が提出される予定だ

●Governance  Topics

□多くの学生も参加し多彩なアイデアを提案、総合賞は目黒区「未来減災課」に
 /チャレンジ?オープンガバナンス2020

市民/学生と自治体が協働し、公開データを活用しながら地域課題の解決に取り組む「チャレンジ!!オープンガバナンス(COG)2020」(主催/東京大学公共政策大学院科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」教育・研究ユニット等)の最終公開審査が2月28日、オンラインで開催された。最終審査には10チームが進出し、総合賞は東京都目黒区の「未来減災課」チームが獲得した。

●Governance Focus

□ウォーターフロントに新庁舎を建てる
 ──大分県津久見市、津波対策であえて海岸埋立地に整備/葉上太郎

南海トラフ地震に向けて、市町村の庁舎を高台に移転させる動きが目立っている。東日本大震災で庁舎が津波に呑まれた自治体では、緊急時の司令塔となる市町村の庁舎が被災し、災害対応の出足が遅れたからだ。職員が犠牲になるなどして、その後の復旧・復興にも大きな影を落とした面もある。だが、大分県津久見市は新庁舎をあえて海岸の埋立地に建てる。これには津久見ならではの理由があるのだが、被災を前提にした対策も必要になりそうだ。

●連載

□ザ・キーノート/清水真人
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□リーダーズ・ライブラリ
 [著者に訊く!/『もしわたしが「株式会社流山市」の人事部長だったら』手塚純子]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
 自然素材のこだわりの経木
 ──経木薄板製造・宝印薄板工場(福岡県八女市星野村)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ/富山県朝日町
 自然と縁を大切に町の課題解決と活性化を進める
□山・海・暮・人/芥川 仁
 漁師本来の豊かさ──石川県七尾市鵜浦町
□[新連載]生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
 雪の恵みを活かした稲作・養鯉──新潟県中越地域(長岡市・小千谷市)
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/みやさん(長野県宮田村)
□クローズ・アップ
 戦時中の防空壕に泊まれる──大分県臼杵市、まちづくりグループが整備

■DATA・BANK2021

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株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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