【書評】自衛隊・自治体での危機対応経験から生まれた、実践的な危機管理術を学ぶ(兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 准教授 紅谷昇平)

地方自治

2021.03.17

『有事のプロに学ぶ 自衛隊式 自治体の危機管理術 非常時に動ける組織をつくる』
  越野 修三/著
(発行年月: 2020年11月/販売価格: 2,090 円(税込み))
https://shop.gyosei.jp/products/detail/10567

感想(書評)

自衛隊・自治体での危機対応経験から生まれた、実践的な危機管理術を学ぶ

 大きな危機や災害は、めったに出会うことがないだけに、日常の経験や知識で対処するのは難しい。万が一の状況で上手く対応するには、何らかの危機管理の知恵やノウハウが必要であろう。本書では、危機管理のプロである自衛隊のノウハウが、自治体や企業など一般の組織にも使いやすい形で紹介されている。

 著者の越野氏は、陸上自衛隊の作戦部長として阪神・淡路大震災を経験し、また岩手県の防災危機管理監として東日本大震災にも対応した経験を持つ、まさに危機管理のエキスパートである。自衛隊退職者が、危機管理専門職員として自治体に採用される動きは全国的に見られるが、通常、その任期は2~3年である。ところが著者は、知事からの信頼を得て7年間にわたって岩手県の防災危機管理監を務めており、これは非常に珍しいケースであろう。その間、自衛隊式の危機管理術を、組織が全く異なる自治体に適用するため、著者は、文化や体制の違いに悩みながら、様々な対策に取り組んできた。2008年の岩手・宮城内陸地震の反省や、地道な防災訓練・防災計画の積み重ねがあったからこそ、東日本大震災にも何とか対応できたことが、本書からは読み取れる。岩手県の災害対応・危機管理を知る上でも、関係者しか知らない内情がうかがえる価値ある資料となっている。

 本書には、「非常時に動ける組織をつくる」と副題が付けられている。現実の危機は、映画やドラマのようにヒーロー・ヒロインの派手な活躍で乗り切るものではなく、現場の地道な努力が組織全体と積み重ねられ、対応されるものである。本書では、危機時の組織運営に必要なエッセンスとして、リーダーや参謀の役割や、状況判断・情報処理・訓練・兵站などが語られ、さらに日常における人材育成や訓練の手法についても解説されている。自衛隊と岩手県で危機管理の最前線を担い、その後、岩手大学で人材育成を行ってきた著者の経験に裏付けられているからこそ、その内容には説得力があり、実践的である。

 本書は、自治体のトップや幹部、危機管理担当者、あるいは自治体で働こうとする自衛隊員や危機管理コンサルタントには必読の書である。それだけでなく、病院、福祉施設、ライフライン事業者、企業など重要な社会機能を担う組織で、災害時に重要な役割を担おうとする方には、ぜひお薦めしたい一冊である。

                 (兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 准教授 紅谷昇平)

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2020/11 発売

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