究極の対口支援(東日本大震災 10 年 その2) 山村 武彦〔防災システム研究所 所長〕

NEW地方自治

2021.03.04

究極の対口支援(東日本大震災10年その2)

1.四川大地震で見た対口支援

 東日本大震災後、対口支援などによって災害時における自治体支援の様相が大きく変化した。ちなみに「対口支援(たいこうしえん)」という言葉は中国語で、「対」はペアを、「口」は人を指し、一対一のペアリング支援の意味で「対口幫扶(たいこうほうふ)」ともいう。中国では1950年代から経済格差解消と産業の底上げ戦略の一つとして対口支援が活用されてきた。経済発展が進んだ省・直轄市、都市部と発展が遅れている地方の県や自治区などをペアにして一定期間支援し成果を上げてきたとされる。
 2008年5月に発生した四川大地震でもこの方式が採用された。四川省汶川県(ぶんせんけん)を震源とするM8.0の地震で死者・行方不明約9万人、建物の倒壊・損壊は約436万棟、被災者は約4600万人に上ったとされる。10省市、417県にまたがり被災総面積は約50万平方kmと日本の陸地総面積の約1.3倍の広さである。私も2度にわたり現地調査を行ったが、人工衛星でないと全体像が把握できないほどの超広域大災害であった。地震の翌月、政府は対口支援の具体策「汶川地震災後恢復重建対口支援方案」(対口支援計画)を発表し、国家主導により被災自治体ごとの支援担当自治体(カウンタ―パート)が割り振られ、早期復興を目指すことになる。

2.五輪前に復興の目途を付けよ

 復興を急ぐ背景には北京五輪が3か月後に迫っていたからである。鄧小平氏による改革開放政策による急速な経済発展の成果として、国家の威信をかけての五輪開催。最終準備に追われる中央政府に当時はまだ人的、物的、経済的な余裕はなかった。そこで、比較的裕福な地方政府に復興支援の役割を分担させ、互いに競い合わせることによって復興速度を上げようとしたのだ。建前は「被災地の自力更生、自力救済、国家支援」を掲げているがその実態は対口支援がメインであった。計画では、被災自治体の復興に至るまでの3年間、支援自治体は物的・人的・経済的支援を含め、前年財政収入(歳入)の1%相当額を被災地に投入することが努力義務とされた。「五輪前に復興の目途を付けよ」胡錦濤国家主席の号令一下、支援自治体は現地対口支援事務所を開設し直ちに活動を開始する。
 対口支援(支援・受援)の組み合わせは、山東省が北川県、広東省が汶川県、浙江省が青川県、江蘇省が綿竹市、北京市が什邡市、上海市が都江堰(とこうえん)市など、20組のペアがつくられた。支援は自治体職員にとどまらず、企業、学校、商工業団体も巻き込んで、まるで復興五輪といわれるほど支援自治体同士激しく競い合った。その結果、復興3か年計画が前倒しされ2年半で多くの被災地で復興宣言がなされることになる。その進捗評価が支援自治体幹部の浮沈にかかわるため、エネルギーとコストが傾注された結果である。以来、この対口支援方式は日本でも取り入れられていく。

3.日本の対口支援 と恩送り

 東日本大震災時、前年に発足したばかりの関西広域連合(7府県)が日本で初めて本格的な対口支援を展開した。和歌山県が岩手県、兵庫・徳島・鳥取県が宮城県、京都府・滋賀県が福島県を担当し、物資提供や職員派遣を行った。府県と共に市町村も職員を派遣している。例えば宮城県担当の兵庫県からは西宮市が南三陸町と女川町の支援に入り、それを10年間続けている。
 ほかにも名古屋市が岩手県陸前高田市に10年間で延べ252人を派遣し被災家屋調査、区画整理事業、中小企業再開支援など「行政まるごと支援」を実践した。その結果、絆が深まったとして2019年3月、両市は友好都市協定を締結するに至る。また、東京都杉並区、群馬県吾妻町、新潟県小千谷市、北海道名寄市など4市区町で福島県相馬市に対する「スクラム支援」を行っている。対口支援の利点は混乱する被災自治体に「押しかけ支援」や「要請支援」でなく、現地に先遣隊を送り状況を見定め支援する「プッシュ型」となり、支援の空振りや偏りを出さずに迅速で適切な支援となるだけでなく、支援自治体には「災害対応経験者養成にも役立つ」というメリットがフィードバックされる。また、受援側も、同じ自治体が積極支援してくれることで負い目を感じず業務が依頼しやすい。南三陸町の佐藤仁町長に以前お会いした時「知事さんや市長さんから『不足している保健師や土木技術者を派遣させてもらいたい』と直接電話をもらった時、思わず涙がこぼれた」とおっしゃっていた。その南三陸町は復旧復興の陣頭指揮に当たった前副町長らを、熊本地震直後に益城町に派遣するなど支援の恩送りを続けている。

4.対口支援制度が試された日

 災害発生時には自治体職員が被災するなど現場の戦力低下の一方で、避難所運営や家屋の被害調査、り災証明書発行など業務は約10倍に膨れあがり職員の絶対数が不足する。そうした東日本大震災を教訓に、2016年熊本地震では、全国知事会、市長会、町村会などで調整し、支援対象の被災市町村を分担し発生3週間後には一般職員約1400人が応援に入った。しかし、そこに至る調整に手間取り、支援自治体の準備にも時間を要した。また、政令市全体で熊本市を、都道府県がそれ以外の市町村を担当したが、職員配置に偏りがでるなどの課題も残った。
 そこで総務省は2018年3月、「被災市区町村の応援職員確保システムに関する要綱」を発表し対口支援を制度化した。支援の偏りがないよう効果的なペアを迅速に決定し、早い段階で職員を派遣、早期復旧・復興につなげていくことが目的だった。要綱の中で、総務省、全国知事会、指定都市市長会などが参加する「被災市区町村応援職員確保調整本部」(以下確保調整本部)という司令塔を設置することとした。半年後、その対口支援制度が試される日がきた。令和元年の台風15号と19号災害である。

5.目指すべき対口支援

 令和元年9月9日午前5時半ごろ千葉市付近に上陸した令和元年台風15号は、最大瞬間風速57.5メートルの暴風を伴い房総半島を縦断し死者9人、住宅被害約9万戸、最大93万戸が停電するなど甚大被害をもたらせた。総務省は直ちに応援職員確保システムを発動し、被災11市町に応援自治体16団体を割り振り延べ3853名の職員を派遣した。また、翌月の台風19号では被災28市町に、応援自治体35団体で延べ9833名を派遣。さらに令和2年7月豪雨では被災8市町村に13県市で延べ5903名の職員等を派遣している。このように対口支援制度の運用が定着し、一部課題はあるものの被災自治体からは高い評価を得ている。今後は、発生が懸念される首都直下地震、南海トラフ地震などの大規模地震を念頭に、被害想定等に基づく事前の仮ペア指定を含む図上演習と支援・受援訓練が不可欠である。
 そして提案だが、これからは対口支援方式(制度)を災害時だけでなく、平時にも拡大運用してはどうか。急速な少子高齢化、過疎化、財政ひっ迫など、かなりの市町村が厳しい現状にあえいでいる。その上、新型コロナ対策、災害時避難行動要支援者対策などの業務が追加されても慢性人手不足で十分な対応ができていない。これはもう災害である。例えば、余裕のある自治体が支援職員を派遣するだけでなく、努力目標として一定期間歳入の0.1%程度を投じるなど物心共に困窮自治体を支援する。それが地域格差是正と持続可能なまちづくりにつながる究極の対口支援となるのではなかろうか。

防災システム研究所 所長

 

山村武彦氏近景
山村武彦(やまむら・たけひこ)
防災システム研究所 所長 1943年、東京都出身。新潟地震(1964)を契機に、防災・危機管理のシンクタンク「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、世界中で発生する災害の現地調査を実施。報道番組での解説や日本各地での講演(3,000回以上)、執筆活動などを通じ、防災意識の啓発に取り組む。また、多くの企業や自治体の防災アドバイザーを歴任し、BCPマニュアルや防災マニュアルの策定など、災害に強い企業、社会、街づくりに携わる。著書は、『災害に強いまちづくりは 互近助の力 ~隣人と仲良くする勇気~』『南三陸町 屋上の円陣』『スマート防災 災害から命を守る準備と行動』(以上、ぎょうせい)、『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』(宝島社)など多数。

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