自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[21]マンション防災の課題と展望(上)──熊本地震被災マンションアンケート調査を踏まえて

地方自治

2020.07.29

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[21]マンション防災の課題と展望(上)──熊本地震被災マンションアンケート調査を踏まえて

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2017年12月号) 

 マンションは木造住宅に比べ、耐震性が高いことから、マンション内の住民の安全は確保されているとしたり、あるいは自助・共助の範囲内のこととして、公的または組織的な対策から取り残されている。しかし、大都市部での地震対策としての、マンション防災は基盤となる社会インフラの維持と同様、いやそれ以上に重要と考えている。

 筆者は2016年4月の熊本地震で被害を受けたマンション住民にインタビューした。その時の被災者の言葉が忘れられない。

「同じような地震が大都市部で発生したら、マンション住民はどうするつもりでしょうか。恐ろしいことになりますよ」

熊本地震でのマンション被害

 まずマンションの耐震性が高い=マンションが壊れない、とは全く言えない。16年4月に発生した熊本地震では、熊本市内全722棟の分譲マンションのうち倒壊・大破0.8%、中破6.4%、小破24.8%、軽微43.9%、被害無し24.1%の被害となった(注1)。実に4分の3以上が被害を受けたことになる。

注1 東京カンテイプレスリリース「2016年熊本地震 分譲マンション被害状況報告」(2017年7月31日)。

マンションからの避難者の課題

 マンションの建物が無事なら、住民は避難しないだろうか。実際には、東日本大震災で被害を受けた仙台でも熊本でもマンションから大勢の人が避難所や車中泊で避難した。建物が被害を受けたうえに、揺れの大きな地域では、多くの住民が余震の恐怖でマンションにとどまることができないからだ。

 熊本市のマンション化率(世帯数に対するマンション居住世帯の比率)は10.6%であり、避難所に入れない人々は、車中泊をしながら、トイレや必要物資の入手のために被害の小さな地域に車で移動して対応した。

 東京のマンション化率は千代田区、中央区、港区の都心3区は約8割、渋谷区、新宿区、文京区、江東区は約5割に上る。首都直下地震が熊本地震と同じ規模で発生し、マンション住民が車中泊や車移動など同様の行動をすれば大量の帰宅困難者と併せて滞留する車、住民で路上は溢れかえり大渋滞に陥るのは間違いない。そこを火災が襲ったら、人も車も避難できず想像を絶する大災害となる可能性がある。

在宅での避難生活の課題

 マンション内に留まってもエレベーターやトイレが使用不能になるため、仮に被害が小さい場合でも生活継続が困難になる。熊本地震のマンションであったように下水の配管が壊れれば、その近くの部屋が下水被害を受けてしまう。高層階の住民は地上との往来が困難になり、トイレや物資の調達に非常に苦しむことが容易に想定できる。

マンション被害が社会に与える影響

 多くのマンションが被害を受けると、社会経済全体の応急、復旧、復興にも大きな障害となる。大都市のマンション住民が、災害時にマンションを出て車中泊をしたり、避難所に入るなどの被災者となって支援を受ける側にまわると、大量の避難者が溢れ、膨大な応急対応ニーズが噴出する。その上、マンション住民が公的機関や企業に出勤できないと、人手が足りず、公的な応急対策、復旧・復興対策や、企業の事業継続計画(BCP)実施が困難になる。

マンション防災の意義

 一方で、マンション住民が十分な防災対策により、マンション内で安全に生活を継続することができれば、地域の被災者への支援の担い手となって地域の早期復旧、復興が進む。また、マンション住民が企業等の事業継続計画(BCP)のキーパースンとなって、社会経済活動の維持、速やかな復興につながる。

 すなわち、大都市での大地震発生後の対策がうまくいくためには、マンションに住む人々の安全安心、生活継続が非常に重要なのである。熊本地震はこの対策の重要性を改めて示した。

熊本地震マンションアンケート調査

 熊本地震では多くのマンションが壊れ、緊急工事や本格復旧工事の必要性が住民に突き付けられた。その中には、早期に緊急工事を実施したり、住民が助け合って乗り越えて本格復旧工事を決議、実施したところもあれば、なかなか本格復旧工事が実施できないところもある。この違いが生じた理由を調査し、マンション防災を進める示唆とするため、被災状況や地震対応の教訓等についてアンケート調査を行った(注2)。

注2 アンケート作成にあたり、全体的に参考としたのは、マンション管理支援ネットワークせんだい・みやぎ「分譲マンションの復旧状況に関するアンケート調査報告書」(2012年10月)。また、コミュニティ部分に関して参考としたのは、国土交通政策研究所「マンションの適正な維持管理に向けたコミュニティ形成の研究」(2010年5月)、である。

(1)アンケート調査概要

調査目的:熊本地震の被災マンションの経験を全国に伝えるとともに、その教訓を事前防災に役立てるため

調査対象:熊本地震で被災した株式会社穴吹ハウジングサービス管理マンション

調査実施期間:2017年2月24日(金)~3月20日(月)

回答数:46件

(2)アンケート調査結果(抜粋)

・所在地
 所在地を市区町村別にみると熊本市中央区が21件(45.7%)と最も多く、全回答のうち43件(93.5%)が熊本市となっている。

・竣工年
 竣工年は、旧耐震基準となる1980(昭和55)年以前は0件である。これらから、新耐震基準であっても、マンションは震度6以上になるとなんらかの被害を受けたことが判明した。

・り災証明
 大規模半壊となった2件(4.3%)はいずれもマンションの所在地が熊本市西区にあり、竣工年はそれぞれ1983年、1990年である。
 その他、半壊が12件(26.1%)、一部損壊が31件(67.4%)となり、被害無しとの回答はゼロであった。

・本格復旧工事の実施状況
 本格復旧工事の実施状況については、「今後実施予定」が17件(37.0%)と最も多く、「実施済み」が8件(17.4%)、「工事中」が7件(15.2%)となっている一方、「未定」が7件(15.2%)となっている。なお、無回答の7件(15.2%)のうち5件は緊急修理を実施している。

・本格復旧工事に向けた合意形成が円滑に進んだ要因(順位づけ)
 有効回答13件のうち「管理会社の協力」が1~3位合わせて11件と最も多い。また、「理事長などのリーダーシップ」は1位の件数が6件と最も多い。

 

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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