月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2023年11月号 特集1:ウェルビーイングな公共調達・公民連携 特集2: 公務員のチカラを活かす

地方自治

2023.10.30

●特集1:ウェルビーイングな公共調達・公民連携

1999年のPFI法制定や2003年の指定管理者制度の創設などを受けて、自治体では業務のアウトソーシングや公民連携などが拡大してきた。一方で今、こうした公共調達では人権や環境などへの配慮が強く求められるようになっている。そして、コロナ禍による行動変容などの影響や、かねてからの人口減少の加速、施設の老朽化、人手不足の深刻化、さらには物価の高騰やデジタル化の進展など、公共調達や公共サービスを取り巻く環境も大きく変わりつつある。こうした中で、住民や働く人も含めてよりよい、そして持続可能な地域にしていくために、自治体には何が求められるのか。公共調達や公民連携のあり方を考えてみたい。

■公共調達と社会的価値

原田晃樹
立教大学コミュニティ福祉学部教授

近年、欧州(英国)の自治体では公共調達にさまざまな社会的価値を積極的に反映させようとする動きが広がっている。本稿では、これらの中で特に日本でも喫緊の対応が求められている人権配慮への対応と戦略的な調達の取組みを紹介し、日本の自治体にとって参考となる視点を提示してみたい。

■自治体のアウトソーシングと「公民」連携/今井 照
市民活動は恣意的で瞬発力があり、経済活動は自発的で持続力がある。そこからアウトソーシングされた政府活動への期待は網羅的で権力性があるところに意味がある。しかしこの3者の本来の活動には隙間が生じる。その隙間は政府活動を拡張することでしか埋められないが、ここは「公務員」の役割ではない。この隙間の担い手は広義の「公務労働者」であり、政府から委託される事業者や市民活動、もしくは政府が直接雇用する労働者などによって構成される。これら全体の構図が「公民連携」なのである。

■指定管理者制度の法的課題/板垣勝彦
指定管理者に関する地方自治法の規定は全体的に簡潔であり、公の施設の設置条例もそれほど条文は多くない。自ずと、設置自治体と指定管理者との間で締結される個別の協定が重要な意味をもつことになる。協定では、指定管理料や指定管理者が徴収する使用料のほか、詳細な規定がなされるが、最も重要なのは、事例ごとの詳細なQ&A集を含む事務遂行のマニュアルを作成することである。

■PPP/官民連携の先に見えるウェルビーイング/関 幸子
人口減少が続く中で2040年問題が大きく浮上し、PPP領域においても、人手不足、資材高騰もあり、自治体が要望するVFMを民間が生み出せない状況が起きている。今後は、官の公益性と民の収益性の両立が一層求められている。

■持続可能な公民連携へのマネジメント/鈴木文彦
持続可能な公民連携には自治体、民間そして住民の三方良しの観点が欠かせない。人口減少社会における財政の持続可能性、住民の高齢化に伴うニーズの変化を念頭においた戦略的発想が求められる。コスト削減や集客に長けた民間といかなる連携体制を構築するか、対象施設のコンセプトに応じて検討し、適切な手法を選択すべきだ。公共施設の集客効果が所得向上をもたらし、税収として還流する地域経済の循環構造も持続可能な公民連携を考える上で重要な視点である。

〈取材リポート〉
■官民連携による地域就労支援モデル
「KADO」から広がる可能性/長野県塩尻市
長野県塩尻市(人口6万5710人)が2010年に立ち上げた「KADO」(ルビ:カ ドー)という事業が、今改めて脚光を浴びている。ひとり親家庭や子育て中の女性など時間的な制約がある人向けの地域就労支援モデルを模索する官民連携の取り組みだったが、デジタル人材の育成などにより進展。さまざまな事業に波及し、市のDX戦略にも位置づけられた。官民連携の新たな可能性を探るうえでもヒントになる取り組みだ。

 

●特集2:公務員のチカラを活かす

地域に目を向け仕事をする公務員も、日々粛々と目の前の業務に勤しむのではなく、普段の業務以外の場面でも地域に飛び出し、より深く、広く活動する人が増えています。また、それを支援する制度を設ける自治体もでてきています。「プロボノ」や「複業(副業)」などといった業務外で培ったノウハウを普段の業務に活かし、他の職員に共有し、地域に還元していく好循環が期待されています(逆の流れも然り)。今月は、人手不足が進み、このような自分だけでなく、職場、そして(他)地域にも寄与する新しい動きについて見つめてみます。

■地域や組織を越境して活躍する公務員と副業/杉岡秀紀
公務員の能力は誰のものだろうか。その能力は自治体内部のものだけではなく、広く市民や社会全体のものであり、まわり巡って、自分自身や未来のためのものにもなる。学び直し(ほぐし)が叫ばれる時代だからこそ、自治体はもとより、市民や社会、そして、自分や未来のための「五方よし」に挑戦する人が増えることを期待している。

■現役自治体職員が、他自治体支援ができる社会を当たり前に──「Public Platform」でつなぐ新しい関係/林 博司
全国の約1700自治体は基本的には同じ目的・法律の中で、同様の業務を行っている。そうであるならば、一つの自治体が抱える課題に対して、より効果的なアプローチをどこかの自治体・どこかの職員が確実に実行しているはず。先進的・効果的な取り組みを主導した人材を可視化し、課題を抱える自治体に繋げることが出来れば、自治体はより効率的な業務をいち早く行うことが出来る。そのような問題意識から生まれた「Public Platform」は、自治体と人をつなげる懸け橋である。

 

●キャリアサポート連載

■管理職って面白い! フェルミ推定/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
官民連携にとって大切なポイント~Win-Win・3M・共感~/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/金治諒子 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■自治体職員なら知っておきたい!公務員の基礎知識/高嶋直人 ■そうだったのか!!目からウロコのクレーム対応のワンヒント/関根健夫 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ
/友野幸司(関東学院大学大学院法学研究科地域創生専攻)
■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■〈リレー連載〉Z世代ズム~つれづれに想うこと/岡本 結 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/弟子丸知樹 ■地域の“逸材”を探して/寺本英仁

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
田中幹夫・富山県南砺市長
地域性を活かし、「市民の幸福感と満足感を高める」まちづくりを

2004年に8町村が合併して誕生した南砺市で2代目市長として4期目の市政を担う田中幹夫市長。小規模多機能自治などに取り組み、個性的な地域の特色を活かしたまちづくりを進めている。

田中幹夫・富山県南砺市長(62)。個性豊かな8町村が合併して誕生した同市で、地域の特色を生かした「一流の田舎」をめざしてまちづくりを進める。地域の力を信じ、「市長は聞き役でいい」という。

 

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
三代目将軍家光の気慨──源頼朝たち転生者(十一)

 

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
「悲劇の米」が静かなブームを呼ぶ【「天のつぶ」の物語(1)福島県】
原発事故、続く模索44

これほど紆余曲折を経た米はあるだろうか。福島県のオリジナル品種「天のつぶ」である。一度は開発が終了し、日の目を見ないはずだった。デビューした年には東日本大震災による原発事故が起きた。風評被害にさいなまれた同県だけに、飼料米用として栽培する農家が増えた。だが今、品種名の出ない業務用が中心ではあるが、食用としての需要が高まり、静かなブームとなっている。


□自治体政策最前線──地域からのイノベーション
更別村SUPER VILLAGE構想
──デジタル活用の共助型サービスでシニアが元気に輝く農村をめざす(北海道更別村)

北海道更別村は、デジタル活用による共助型コミュニティの再構築へ向けて策定した「更別村SUPER VILLAGE構想」がデジタル田園都市国家構想推進交付金TYPE3に採択され、様々な事業を進めている。デジタル基盤に支えられた健康・医療・生きがいづくりの包括サービスを産学官一体となって提供。完全自動化によるスマート農業にも挑み、生活と仕事の両面から100歳世代まで元気に暮らせる農村モデルをめざしている。

 

●Governance Focus

□日田彦山線。被災で廃線となり、BRTへ転換──福岡県東峰村、九州北部豪雨から6年/葉上太郎九州北部豪雨(2017年7月)で大きな被害に遭った福岡県東峰村。村を縦断するJR日田彦山(ルビ:ひたひこさん)線が被災で廃線となり、鉄路を専用車道に衣替えしたバス交通「BRT」として今年8月に生まれ変わった。物珍しさもあって一定の乗客を集めてはいるものの、鉄道への接続などにはかなりの課題がある。BRTを核にした村づくりもこれからだ。村は今夏も豪雨に見舞われた。間一髪で「犠牲者ゼロ」で済んだが、これには理由があった。併せて報告したい。

 

●Governance Topics

□官民双方からこれからの公民連携のあり方を探る──どうする官民連携in八王子 9月30日、東京都八王子市で「どうする官民連携in八王子」というイベントが開催された。民間と自治体職員、さらに公私両面で〝公共〟に携わる人たちなど約30人が集まり、官民連携のあり方などについて語りあった。

□長期財政予測と政策検証の組織設置を──令和臨調「財政・社会保障」部会が提言 経済、労働、学識など民間有志による政策提言組織「令和国民会議」(令和臨調)は、持続的に発展するよりよい社会を実現し、将来世代へ引き継ぐため、長期的な視点に立った政策・財政運営に向け、新たな専門機関設置を提言した。

□再生可能エネルギーの開発規制を巡る自治体条例のあり方などを議論──日本弁護士連合会・オンラインシンポジウム 日本弁護士連合会は9月16日、オンラインシンポジウム「メガソーラー及び大規模風力による開発規制条例の実効性確保~地域の自然環境及び生活環境を守るための処方箋」を開催した。近年、大規模太陽光発電所などの建設に対して、環境破壊や災害リスク、住環境の悪化などへの懸念から、開発規制条例の制定が広がっている。世界的な課題である再生可能エネルギーの推進との両立をどう図ればいいのか議論した。

□自治体の「総合性」について改めて問い直す──日本学術会議政治学委員会行政学・地方自治分科会公開シンポジウム 日本学術会議政治学委員会行政学・地方自治分科会は9月23 日、オンラインによる公開シンポジウム 「自治体と総合性.分権国会決議30年」を開催した(共催:自治体学会)。第1次地方分権改革により、自治体は広く「地域における事務」を「自主的かつ総合的に」担うこととされたが、その後四半世紀が経ち、社会環境の変化の中で、果たしてそれが可能なのか、また「総合性」の意味とは何か、改めて議論を深めようというものだ。

 

●連載

□自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □地域経済再生の現場から~Bizモデルの中小企業支援/松浦俊介(Gaki-Biz) □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □地方議会シンカ論/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所) □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える
『燃えあがる女性記者たち』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/「好き」で仕事をつくる ナリワイ起業
――地域が変わるスモールビジネス』井東敬子]

 

●カラーグラビア

□つぶやく地図/芥川 仁
八ヶ岳の麓で受け継がれる土の営み──長野県諏訪郡原村
□技の手ざわり/大西暢夫
先人の知恵を受け継ぎ、地域の文化を守る──【水車大工】野瀬秀拓さん・翔平さん(福岡県久留米市)
□わがまちDiary──風景・人・暮らし
未来につなぐ歴史と水と大地が息づくまち(長崎県島原市)
□本日開園中 FUN!FUN!動物園4/高知県立のいち動物公園(高知県香南市) □クローズアップ
今、改めて問う「戦争と平和」──福岡県筑前町立大刀洗平和記念館と戦跡

 

■DATA・BANK2023 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!

※表紙写真は、「平成新山を望む『しまばら火張山花公園』」
*ザ・キーノートは休みます。

 

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「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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