月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2023年8月号 特集1:子ども・若者のいのちを支える 特集2: ヒューマンエラーとの付き合い方
地方自治
2023.07.28
目次
●特集1:子ども・若者のいのちを支える
2022 年の子ども(小中高生)の自殺者は初めて500 人を超え、過去最多の514 人となった。日本の自殺者数が全体として減少傾向(コロナ禍によって近年は微増)にある中で、子どもにだけ歯止めがかからない深刻な状況だ。折しもこの4月には「こどもまんなか社会」を掲げる、こども家庭庁が発足。だが、コロナ後の“新しい日常” への適応をはじめ、VUCAといわれる不安定な社会状況の中で、子どもや若者を取り巻く環境は厳しさを増している。こうした中で、自治体や地域、そして大人は、社会の「宝」である子どもや若者のいのちをどう守り、支えていけばいいのか、考えてみたい。
■こどもの自殺対策政策元年──緊急プランの実践に向けて/清水康之
本年6月2日、こども家庭庁がこどもの自殺対策緊急強化プラン(以下「緊急プラン」という)を発表した。政府が初めて「こどもの自殺対策」に関する枠組みを提示したことになり、本年が「こどもの自殺対策政策元年」になったとも言える。しかし、その門出は困難に満ちている。本稿では、この政策的な枠組みが示されるに至った経緯と、その内容を概観し、最後に、「緊急プラン」を実行性あるものにするためのポイントを示す。
清水康之
NPO法人ライフリンク代表
いのち支える自殺対策推進センター代表理事
子どもたちは私たちの社会の未来そのものであり、その子どもたちの自殺が深刻な状況にあるということは、社会の未来が危機に瀕しているということに等しい。目の前の危機に最善を尽くす一方で、中長期的な視点での戦略も必要だ。問題を即座に解決する魔法の薬は存在しないし、求めるべきでもない。
■今、学校に求められる子どもの自殺予防/新井 肇
自殺の危険性を抱えた子ど児童生徒の自殺の特徴は、死を求める気持ちと生を願う気持ちとの間で激しく揺れ動く両価性にあると言われる。そのため、自殺を考えているサインを出していることも少なくない。親に次いで子どもの身近にいる教職員には、児童生徒の言葉にならない「救いを求める叫び」を敏感に察知できるような感受性を磨くとともに、児童生徒が困ったときに進んで相談できるような信頼関係を日頃から築いておくことが求められる。
■自殺の危険性を抱えた子ども・若者へのアウトリーチはどのように実施すべきか?/末木 新・伊藤次郎
少子化にもかかわらず、2022年の児童・生徒の自殺者数は過去最多となった。これを受け、23年4月に発足したこども家庭庁を中心に、「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」が開催され、6月には「こどもの自殺対策緊急強化プラン」のとりまとめが行われた。その中では、(特に、本稿と関連の深い)取り組むべき施策として、自殺予防に資する教育や普及啓発等、自殺リスクの早期発見、電話・SNS等を活用した相談体制の整備、といったものが取り上げられている。本稿は、これまで著者らが実施してきた自殺対策の経験から、子ども・若者の自殺リスクの早期発見とICTを活用した相談体制の構築・整備のより良いあり方について述べたものである。
■子ども虐待予防支援で自治体に期待すること/山縣文治
児童相談所が対応している子ども虐待相談対応件数は20万件を超えた。市区町村でも15万件を超えている。ここ数年は伸び率が鈍化しているとはいえ、毎年最多件数を更新している状況にある。一方、虐待による死亡件数は近年では70人弱で推移している。虐待死は最大の人権侵害であり、断じて避けなければならない事態である。地方自治体による死亡事例の個別検証報告書をみると、多くの課題が明らかにされている。
■子どもたちの「声なき声」とおとなにできること/川口正義
子どもとは、社会において最も脆弱性を有する存在である。また子どもの行動や感情のうつろいやすさが、子どもの苦悩や心の傷を発見しにくくしている。それ以上に深刻なことは、子どもはどのような被害であっても、自分から心を開き、訴え出ることがない。換言するならばSOSを言えない、言わない、言い方がわからない、言っていいとは思っていない存在である。なぜ、子どもたちは「人に頼る」ことをせず、たった一人でつらさを和らげようとするのか?それは親や教師やおとなたちを信用していないからであろう。
●特集2:ヒューマンエラーとの付き合い方
仕事を進める上で、ヒューマンエラーはつきものです。知識・スキル・時間の不足、思い込み、うっかり、失念、後回し、連絡もれや想像力の欠如など、背景・原因はさまざま。AIなどの技術がいかに進展しようとも、それを使いこなすのは人であり、間違いやミスを「絶対に起こさない」人などいません。
そこで本特集では、職場におけるヒューマンエラーとの付き合い方について掘り下げ、どのようにエラーを限りなくゼロに近づければよいか、「最小化」を図るためのヒントを考えます。
■知っているようで知らないヒューマンエラーのメカニズム/中田 亨ヒューマンエラーの発生の確率は、作業の性質によって異なる。作業は、誰でもほぼ確実に間違える劣悪領域、確率的に間違いが起きたり起こらなかったりする中間領域、誰でもほぼ間違えない優良領域の三つに分類できる。ヒューマンエラーの憂いのない優良領域に仕事を持っていくことこそが、ミス対策の正攻法である。
■ヒューマンエラーと自治体組織のリスクマネジメント/森 健わが町では地震は起きないだろう、学校の先生がきちんと指導しているから熱中症は起きないだろうという思考回路は、まったく論理性がなく、文字通り「正常化の偏見」にどっぷり浸かっている。今そこにあるリスクは常に顕在化する可能性がある。大丈夫だろうと考えることがまさにヒューマンエラーで、リスクマネジメントの最大の敵なのである。
■公務員のためのコミュニケーション術──これでヒューマンエラーを防ぐ!/宇於崎裕美リスクに対する情報開示や意見交換などを行うリスク・コミュニケーションにおいては「リスクを正しくこわがる」ことが理想だ。しかし、往々にして人々はむやみに恐れたり、逆にリスクを甘くみて油断したりする。行政機関は「どのようなサポートを用意しているのか」を示し、人々がリスクの大きさを冷静に受け止められるよう配慮しよう。
●キャリアサポート連載
■管理職って面白い! ピグマリオン効果/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
3人の実践者から学んだアウトプットの大切さ/後藤好邦 ■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/内山八千代 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■自治体職員なら知っておきたい!公務員の基礎知識/高嶋直人 ■そうだったのか!!目からウロコのクレーム対応のワンヒント/関根健夫 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ
/津軽石昭彦(関東学院大学地域創生実践研究所) ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■〈リレー連載〉Z世代ズム~つれづれに想うこと/菅 花穗■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/窪西駿介 ■地域の“逸材”を探して/寺本英仁
●巻頭グラビア
自治・地域のミライ
末松則子・三重県鈴鹿市長
ビヨンド・コロナを見据えて、地域課題の解決に取り組む
今春の統一地方選で4選を果たした三重県鈴鹿市の末松則子市長。これまで女性や母親の視点も活かしながら、防災や子ども・子育て支援などを中心に施策を進めてきた。これからはコロナ禍での経験を踏まえ、新しい時代を切り拓いていきたいという。
末松則子・三重県鈴鹿市長(52)。女性や母親の視点などを活かしながら、子ども医療費の窓口での無料化や5歳児健診などに先駆的に取り組んできた。今後は「こうした切れ目のない支援の拠りどころとなる子ども条例を制定してきたい」という。
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
全国新酒鑑評会でV10を逃した理由【汚染処理水放流.福島酒】
原発事故、続く模索全国新酒鑑評会での10連覇がかかった今年、福島酒の金賞受賞蔵数はまさかの5位に終わった。原料米の山田錦が高温障害で硬くなり、溶けにくくて清酒の香りを十分に引き出せなかったのが理由という。風評被害が続く福島では、清酒が県産品の牽引役に位置づけられ、原発から汚染処理水が放流される今年はとりわけ期待が大きかった。周囲から残念がる声が聞こえる。
□自治体政策最前線──地域からのイノベーション
「バーチャルやぶ」+「やぶくる」
──先端技術と国家戦略特区で「出会い、つながり」を創出(兵庫県養父市)人口減少が進む兵庫県養父市は、仮想空間(メタバース)上に独自の世界として「バーチャルやぶ」を開設した。吉本興業株式会社と連携し、バーチャルで養父市の観光資源の紹介や芸人によるイベントなどを行って、国内外の人たちに養父市を知ってもらう試みだ。また、国家戦略特別区域の一環として自家用有償観光旅客等運送事業「やぶくる」を運行し、市民と観光客の移動手段を確保。仮想と現実を結びつけた持続可能な地域づくりに挑んでいる。
●Governance Focus
□田んぼダム、時間30㎜の雨量に「効果あり」。──球磨川洪水から3年、熊本県が全県導入へ。/葉上太郎
流域で50人が犠牲になった2020年7月の球磨川豪雨から3年。場所によっては「1000年に1度」に近い浸水があったことから、熊本県は河川整備だけでなく、遊水地の新設や森林整備といった流域全体で考えられる対策を総動員して「緑の流域治水」を始めた。「田んぼダム」はその柱の一つと言える事業だ。2年間の実証実験で「効果あり」と判断され、球磨川流
域はもとより、県全体で取り組むことになった。その課題を現場で探る。
●Governance Topics
□激変する時代に地方議会として立ち向かうために──全国地方議会サミット2023 「全国地方議会サミット2023」が7月5日、6日の2日間、早稲田大学大隈講堂を会場にオンラインと併用で開催された。テーマは「変わる社会・デジタル・あたらしい民主主義~激変する時代に対応する社会基盤としての議会を実装する~」。約800人が参加し、これからの地方議会のあり方を探った。
□地方議会が住民のために作動するには──(公財)日本生産性本部「政策サイクル推進地方議会フォーラム」報告会 (公財)日本生産性本部地方議会改革プロジェクトの「政策サイクル推進地方議会フォーラム」は、このほど「住民価値を創造する地方議会へ~議会からの政策サイクルと成熟度評価の意義~」をテーマに報告会を実施した。同フォーラムが普及を目指す「地方議会成熟度モデル」を実践している議会による報告が行われ、これからの地方議会を考える場となった。
□〝近くて遠い〟政治の解像度を上げるには──国分寺の投票率を1位にプロジェクト低迷する選挙の投票率やなり手不足。前号特集でも紹介したように今春の統一地方選の結果からもその深刻さは増している。身近にあるようで遠い存在となってしまっている政治や選挙。どう関心を持ってもらうか。「投票率が1位のまちになれば自然と投票に出かけ、政治への関心も高くなるのでは」。そう語るのは東京都国分寺市で住民発の「国分寺の投票率を1位にプロジェクト」を立ち上げた鈴木弘樹さんと諏訪玲子さんだ。「お祭り感覚で投票に行ってもらいたい」。政治をポジティブに捉え、そしてまちに主体的に関わっていくための取り組みについて聞いた。
□3年間のコロナ対策を振り返り、国と自治体の関係などを再考──地方行政実務学会春季大会 自治体職員経験のある研究者と現役職員が自治体実務と理論の融合をめざして活動する「地方行政実務学会」は7月8日、東京・早稲田大学で第3回春季大会を開催した。大会テーマは「コロナ対策再考」。3年に及んだコロナ禍という緊急時への対応や、国と自治体とのあり方などについて掘り下げて議論した。
□「『助けて』といえる社会をつくる」をテーマに、フォーラムを開催──ILO -ろうきん共催フォーラム 一般社団法人全国労働金庫協会は6月30日、国際労働機関(ILO)駐日事務所と共催で、「『助けて』といえる社会をつくる~社会正義の実現に向けて」と題するフォーラムを開催した。生活困窮者の自立支援に携わるNPOなどを迎え、共生社会に向けた連帯などを考えようというものだ。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □地域経済再生の現場から~Bizモデルの中小企業支援/松田知子(ひむか-Biz) □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □地方議会シンカ論4/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所) □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える
『アシスタント』/綿井健陽 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『インターネット・オブ・プレイス』高木聡一郎]
●カラーグラビア
□つぶやく地図/芥川 仁
海とともにある夫婦の幸せ──宮崎県児湯郡川南町通浜 □技の手ざわり/大西暢夫
世代を超えて受け継がれる職人の手仕事──【竹細工職人】高江雅人さん/竹工房オンセ(大分県宇佐市) □わがまちDiary──風景・人・暮らし
悠久の時を経て生み出された自然美に癒される「鳥取旅時間」(鳥取市) □クローズ・アップ
唯一の窯元が受け継ぐ「1300年のとぼけ顔」──熊本県玉東町、郷土玩具「木葉猿」
■DATA・BANK2023 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
※表紙写真は「鳥取しゃんしゃん祭」
*「童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝」は休みます。