月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2023年6月号 特集1:農業・農村をどう守るか、特集2:〝6月病〟に負けない!メンタルヘルスマネジメント

地方自治

2023.06.01

●特集1:農業・農村をどう守るか

農業・農村を取り巻く環境が揺れ動いている。過疎化や人口減少が進み、農林水産業の衰退が深刻化していた中山間地域では近年、関係人口の創出や田園回帰の流れなども生まれていたが、新型コロナ禍による社会・経済の停滞に加え、ロシアのウクライナ侵攻によるグローバル経済体制の動揺や物価の高騰が経営を直撃。さらに世界規模での気候変動や人口爆発、災害の多発・激甚化、人口減少の加速化など環境は非常に厳しい。この転換期の中で、農業・農村をどう守り、どのような社会としていくのか。デジタル化の進展なども踏まえながら考えてみたい。

■食料・農業・農村政策のあり方──農政見直しの論点

小田切徳美 明治大学農学部教授
食料、農業、農村、グリーン分野の新しい政策は多くが政策領域の拡張や他部門との連携を求めるものであった。それは地域の実情に応じた、柔軟な対応がますます重要になることを意味し、自治体農政の充実こそが不可欠である。そのあり方を含めた農政システム改革の論点化と活発な議論を期待したい。

■不安定化するグローバル環境にどう対応してゆくか/柴田明夫 食料安全保障をめぐる議論が活発化している。国民生活、経済に必要な量の食料を安定的にリーズナブルな価格で調達することが困難になっているためだ。特に、わが国の農業・畜産業においては、輸入に依存する肥料・飼料はじめ多くの農業生産資材価格が高騰する一方、農畜産物価格の低迷が常態化するなどかつてない存亡の危機にある。グローバリゼーション(=貿易自由化)の下で、農業を極限まで外部化してきた日本は、改めてその脆弱性に気付くべきである。そもそも工業製品に比べ安価で長期保存が難しい食料は極めて地域限定的な資源であり、地産地消が原則である。

■酪農・畜産危機と食料安全保障/鈴木宣弘 食料、種、肥料、飼料などを海外に過度に依存していては国民の命を守れない。自由化を進めて調達先を増やすのが安全保障かのような議論には限界がある。根幹となる長期的・総合的視点が必要である。国内の食料生産を維持することは、短期的には輸入農産物より高コストであっても、飢餓を招きかねない不測の事態の命を守るコストを考慮すれば、総合的コストは低い。

■スマート農業をどう活かすか/野口 伸 日本の農業が抱える最大の課題といえるのが農業従事者の人手不足。その解決策の一つとして期待を集めるのがスマート農業だ。近年のデジタル化の進展とともに、自動化やロボット化、そしてデータ駆動型の動きが加速するスマート農業について、ロボット農機の開発などにも携わる北海道大学の野口伸教授に話を聞いた。

■広がりつつある農福連携の可能性/吉田行郷 農村地域では、農業者の高齢化や労働力の不足は深刻化する一方であり、今後も、農作業を通じた農業者と障害福祉サービス事業所の結びつきが大きく増加すると思われる。特に、大規模な農業経営ほど、農福連携への依存度が高い点に注目したい。障害者の働く場、居場所づくりのための取組みであった農福連携が、今や農業の担い手の経営を支える大事な機能を果たしつつある。

■〈取材リポート〉鳥インフルエンザ発生に備え大規模農場で予防・まん延防止を強化/茨城県 高病原性鳥インフルエンザが猛威を振るって全国の養鶏産業に被害をもたらし、鶏卵価格の高騰など、国民生活に多大な影響を及ぼしている。茨城県でも今シーズン、大規模農場を中心に感染が相次ぎ、約430万羽の採卵鶏の殺処分を行った。県は鳥インフルエンザ発生の予防とまん延防止に関する全国初の条例を制定。大規模農場を対象に迅速な防疫措置が可能となる環境を整備し、予防・発生時対策の強化と養鶏産業の振興をめざしている。

 

●特集2:〝6月病〟に負けない!メンタルヘルスマネジメント

新年度がスタートして早2か月。新しい環境に適応しようと緊張状態がつづき、自分でも気づかないうちにストレスや疲労を溜め込んでいる人は少なくないのではないでしょうか。新型コロナウイルスへの対応もフェーズが変わり、この数年で日常化した働く環境やスタイルの変化に戸惑う人もいるのでは。大型連休後に憂鬱になってしまう「5月病」は乗り切ったつもりでいたけど、なんだか最近心身の調子がイマイチな…。実はそれ、徐々に蓄積されたストレスによる「6月病」が忍び寄っているのかもしれません。6月病はうつ病の入り口ともいわれている厄介者。何かとジメジメした今の時期にメンタルヘルスについて考えます。

■一人で悩まない 自治体職員のためのメンタルヘルス/種市康太郎 6月は新年度に入って本格的に仕事を進めなければならない時期である。今年はコロナ禍が収束に向かい、社会活動が活発化しつつある状況であり、新たなストレス因に直面する可能性がある。精神疾患を未然に防ぎ、心の健康を保持・増進するためには、組織的取り組みと個人の取り組みが重要である。組織的取り組みでは、組織状況の把握と職場環境改善などが大切だ。一方で、個人として健康を守ること、すなわち「セルフケア」も重要である。

■自治体職員のメンタルヘルス対策とこれから/大杉 覚 近年では、少子化対策や地方行政のデジタル化などといった新たな行政需要に対してはもちろん、頻発する大規模災害やコロナ禍など突発的な事態といった、型通りにいかない対応を自治体職員は迫られ、ストレス負荷要因はますます増加する傾向にある。メンタルヘルス対策は、個人や限られた職場の問題に閉ざしてしまうのではなく、開かれた場で、相互に限られたリソースを活用し合えるような取組みとして、総合的に展開されていくべきであろう。

 

●キャリアサポート連載

■管理職って面白い! 前例のないことは通せない/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ 官民連携を阻害する要因と進めるコツ/後藤好邦 ■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな〜れ!/藤永佑衣 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■自治体職員なら知っておきたい!公務員の基礎知識
職業としての公務員に必要な専門知/高嶋直人
■そうだったのか‼ 目からウロコのクレーム対応のワンヒント
人は自分にとって不利な話は聞きたくない/関根健夫
■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/出石 稔(関東学院大学地域創生実践研究所) ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■〈リレー連載〉Z世代ズム~つれづれに想うこと/椋田佳奈 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/武馬千恵 ■寺本英仁の地域の“逸材”を探して/寺本英仁

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
岡田康裕・兵庫県加古川市長
デジタルを活かしながら、一人ひとりの市民の幸福感の向上に取り組む

岡田康裕・兵庫県加古川市長(47)。市民の幸福感の向上を市政の目標に掲げる。子育て支援にも力を入れるが、「人口減少をきちんと受け止めて、それを踏まえたまちづくりへの向き合い方も必要」と話す。

 

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
壇ノ浦合戦の真相──源頼朝たち転生者(七)

 

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
「福島の桃」、長すぎる風評被害【汚染処理水放流⑸伊達市の農家】
原発事故、続く模索㊴

桃は福島県を代表する農産物で、美味しさには定評がある。なのに価格が全国平均より1割以上低く、今もまだ風評被害に苦しんでいる。原発事故から12年が経ち、被災体験の伝承にすら課題が出てきているのに、なぜ風評だけは続くのか。福島県は今年度、詳細な市場分析に基づき、新たなブランド戦略に乗り出す。生産者の高齢化や資材費の高騰といった課題をはねのけて、活路を探る。

□自治体政策最前線──地域からのイノベーション
エコビレッジ構想+SDGs未来都市──小さな循環によるまちづくりで「一流の田舎」を実現する(富山県南砺市)

豊かな自然に恵まれ、独自の文化が根づいている富山県南砺市は、自立のまちへ向けて「南砺市エコビレッジ構想」を推進している。様々な資源の地域内循環と地域外との連携により、自然と共生し、人と人が支え合って真の豊かさが実感できる暮らしの場を実現するのが目標だ。その取り組みが評価されて「SDGs未来都市」に選定された市は、エコビレッジ事業を深化させ、住民自ら地域課題に向き合って解決を図る住民自治に取り組んでいる。

 

●Governance Focus

□ハードは「復旧」しても、人が戻らない――西日本豪雨から5年。岡山県倉敷市真備町で深化する多様な課題/葉上太郎
梅雨前線が停滞し、西日本を中心に広く災害が起きた「西日本豪雨」。2018年7月の発生から5年が経過する。死者が51人に及び、全国で最も多くの犠牲者が出た岡山県倉敷市の真備町では、治水のハード整備が終わる今年度が「復興の総仕上げ」と位置づけられている。だが、1割も減った人口は戻らないままだ。復興期間がコロナ禍と重なったこともあり、心を閉ざして前に進めない人もいる。ソフト面ではまだまだ多くの課題が残っている。

 

●Governance Topics

□議会評価における外部評価ヒアリングを実施──会津若松市議会 福島県会津若松市議会は、市民福祉の向上のため、「地方議会成熟度モデル」の実装化を進めている。議会が自らを評価しながら必要な改善を行い、さらによりよい議会のあり方を追求するため議会評価サイクルを導入。このほど現在の議会評価について有識者を招いた外部評価ヒアリング(試行)が初めて行われた。

□受け手の立場に立った分かりやすく親しみやすい行政文書づくりに向けて
──港区伝わる日本語シンポジウム~すべての人に「伝わる」日本語とは~
東京都港区では、受け手の立場に立った「伝わる日本語」の浸透に向けて、さまざまな取組みを進めている。3月24日、区民や企業、他の自治体等へこれらの取組みを広く発信することをめざし、「港区伝わる日本語シンポジウム〜すべての人に『伝わる』日本語とは〜」が開催された。

□市民とアップデートした、SIMULATIONたまを体験──東京都多摩市 熊本県庁の有志職員が開発し、その後、全国に広がった自治体経営シミュレーションゲーム「SIMULATION2030」。ご当地版なども作成され、市民参画のツールなどとしても活用が始まっていたが、コロナ禍により、対面での開催は見送られていた。そうした中、東京都多摩市では昨年度、市民向けの学習講座の中で多摩市版をアップデート。4月30日にその体験会を開催した。

 

●連載

□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □地域経済再生の現場から~Bizモデルの中小企業支援/岡田弘毅(Himi-Biz) □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □地方議会シンカ論/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所) □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える 『世界が引き裂かれる時』/綿井健陽 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『自治体職員の「自治体政策研究」史』小関一史]

 

●カラーグラビア

□つぶやく地図/芥川 仁
日本一支える、愛情込めたマダイ養殖──愛媛県宇和島市遊子
□技の手ざわり/大西暢夫
採石から彫りまで職人が手掛ける伝統の硯
【赤間硯作硯家】日枝敏夫さん、陽一さん(山口県宇部市)
□わがまちDiary──風景・人・暮らし
色鮮やかに咲き誇る5万株のあじさいが出迎える(愛知県蒲郡市)
□クローズ・アップ
住民の発案で古墳を発掘──岡山県真庭市北房、地域づくりにどういかす

 

■DATA・BANK2023 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!

【特別企画】
□EVが変える地域のミライ
「ゼロカーボンシティ」実現に向けEV充電器100基を設置
──山口県柳井市

 

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株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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