月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2023年7月号 特集1:これからの地方議会・議員──2023統一地方選挙から何がみえるか、特集2:議会答弁の心得
地方自治
2023.06.28
目次
●特集1:これからの地方議会・議員──2023統一地方選挙から何がみえるか
4年に一度の統一地方選が終わった。特に町村議会を中心に約3割が無投票当選となり、うち20の町村議会では定員割れとなった一方で、市議選では女性の当選者が2019年の前回を上回り過去最多を更新。改選定数に占める割合が初めて2割を超えるなど新しい風も吹きつつもある。人口減少社会のなかで、地方議会議員のなり手不足問題は深刻さが増しているが、デジタルの活用や対話を活性化する試み、政治を身近に感じることができるようなプロジェクトなどが行われている。今回の統一選の収穫と課題をこのタイミングで見つめ、地方議会のこれからについて考えたい。
■統一地方選からみえてきたこれからの地方議会・議員/江藤俊昭
本小論の立場は、政治の劣化(=地域民主主義の危機)を厳しく把握しその問題点を探るとともに、それに対抗する自治の動きを探ることである。その動きは、短期もあれば少なくとも20年間に培ってきた成果でもある。この統一地方選挙の中に自治を進める議会・議員を確認したい。その際、「住民自治の根幹」としての議会が重要な権限を有していること、したがって議会・議員が変われば地域は変わる視点を共有して議論を進めたい。政治の劣化の現状を把握し、地域民主主義にとっての問題やその要因を確認したあとで、その打開策を探っていきたい。その際、政治の劣化だけではなく、底流では議会改革の進展など地域民主主義は育っている。住民自治の推進とそれらの善政競争が作動している。政治の劣化の回復の芽は育っている。
江藤俊昭
大正大学社会共生学部公共政策学科教授
今回の統一地方選挙の中に自治を進める議会・議員を確認したい。「住民自治の根幹」としての議会が重要な権限を有し、議会・議員が変われば地域は変わる視点を共有して議論を進めたい。底流では議会改革の進展など地域民主主義は育っている。住民自治の推進と善政競争が作動している。政治の劣化の回復の芽は育っている。
■地方議員になったあなたへ/廣瀬克哉 議員として当選したということは、相当数の有権者からの投票を得たからこそだ。その有権者のあなたに投票しようという決断は、あなたの主体的な意思によるものではない。あくまで投票した人の決断によってあなたへの票は投じられている。その数が当選ラインを超えたからあなたは議員として「送り出された」のだ。自分が送り出されているしくみをあらためて客観的に捉えてみることが、この任期の議会の活動を本格的に展開していこうとするいま、重要な作業となってくる。
■脱・無投票に動き始めた「敷居の低い」地方議会/人羅 格 統一地方選は町村議会議員選挙で無投票当選が当選者の3割に達するなど、いわゆる「なり手不足」問題の深刻化を裏づけた。ただし一方では、議会独自の取り組みなどを経て「脱無投票」を実現したケースも出始めている。住民にとって、敷居の低い議会づくりが求められている。
■「多様性ゆたかな議会」は実現するか/土山希美枝 議会における多様性とは、属性の多様化だけでなく意思形成を支える意見の多様化によって、ようやく実感できるはずのもので、その道のりはさまざまな意味でまだ遠いといえる。属性の多様化もまだまだであるし、意見の多様化については、筆者なりに言えば、政策議会としての機能が発揮される議会改革をともなうことが不可欠であるといえる。それは同時に「わがまちの課題」を議論するヒロバとしての議会、それを市民の代表者としてになう議員という、議会像・議員像の再構築の必要でもある。
■政治、議会への信頼を取り戻すために──多様化への突破口としての女性議員の増加/大山礼子 今春の統一地方選挙では、無投票率の増加、過去最低の投票率となる一方、女性候補者・当選者数は過去最多となった。第33次地方制度調査会答申でも「地方議会の多様性」が示されたなか、女性議員の増加は地方議会の多様化への糸口となるのか。第33次地方制度調査会の副会長も務める大山礼子・駒澤大学教授に聞いた。
■デジタル時代における地方議会──地方議会におけるDC(デジタルコミュニケーション)活用をどう考えるか/河村和徳 地方議会のデジタル化を進める上でポイントとなるのが、情報端末を利用したデジタルコミュニケーション(以下、DC)である。日本の地方議会におけるDC活用は、しばしば「既存の対面でのコミュニケーションをDCに置き換える」と勘違いされるが、そうではない。DC活用は、対面以外のコミュニケーションの機会を増やし、今まで以上に多くの声が議会における意思決定に用いられる環境をつくるものである。本稿では、全国都道府県議会議長会都道府県議会デジタル化専門委員会や、第33次地方制度調査会の議論を意識しながら、DC活用の意義などについて論じる。
●特集2:議会答弁の心得
統一地方選挙が終わり、多くの自治体で新しい顔ぶれによる議会がスタートしました。一方で、首長部局側にも今年度から新たに管理職となり、緊張の中で初めて答弁に臨んだ職員もいたはずです。いうまでもなく、より良い地域づくり、住民自治を進めていくうえで、議会での活発な議論は不可欠。そのために首長部局や職員はどのような議会答弁を心掛ければいいのでしょうか。特集2では行政サイドから議会答弁について考えてみます。初めての答弁がうまくいかなかった人もぜひ参考にしてください。
■議会答弁力を高める秘訣──チーム力と基礎体力向上/吉川貴代 議員の質問に対して答弁するのは自治体職員特有の仕事だ。その運用や作法は自治体によって違うが、組織のチーム力と基礎体力を高めながら、職員が住民のために日々働くという地道な行動が、結果的に議会答弁力を高めていく。
■良い答弁書とは?/林 誠 議場でのやり取りは水物であり、想定外のことも起こり得るが、議論に道筋をつけるのが答弁書の役割である。「良い答弁」を支え、議論全体を意味のあるものにコーディネートするのが、「良い答弁書」と言えるかもしれない。そして答弁書には「思い」を込めたい。
■議会との向き合い方/飯島敏雄 高級絹織物「結城紬」で知られる茨城県結城市は、栃木県小山市に隣接する県西部の人口5万人ほどの地方都市。私は在職した42年間のうち県や外の機関に出向した経験もなく、この3月に定年退職した普通の地方公務員だった。その拙い経験が参考になるとは到底思えないが、依頼は断らないスタイルなので、これまでの想いを吐露することにした。
●キャリアサポート連載
■管理職って面白い! if-thenルール/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
改めて考える知域に飛び出すメリット その答えは4つのミッション/後藤好邦 ■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/小菅穂乃佳 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■自治体職員なら知っておきたい!公務員の基礎知識/高嶋直人 ■そうだったのか!!目からウロコのクレーム対応のワンヒント/関根健夫 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ
/牧瀬 稔(関東学院大学地域創生実践研究所) ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■〈リレー連載〉Z世代ズム~つれづれに想うこと/吉村彼武人 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/紙田航平 ■地域の“逸材”を探して/寺本英仁
●巻頭グラビア
自治・地域のミライ
井崎義治・千葉県流山市長
まちの可能性を引き出し「住み続ける価値」を高める
「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のシティプロモーションや駅前送迎保育ステーションなど働く子育て世帯をターゲットとした戦略的な自治体経営で、全国の市でトップの人口増加率を誇る千葉県流山市。その舵取りを担うのが今年の統一地方選で6期目の当選を果たした井崎義治市長だ。就任以来一貫して「住み続ける価値」を高めるまちづくりを進めてきた井崎市長は、これからさらに「市民の知恵と力」を活かしながら、その実現を図っていきたいと話す。
井崎義治・千葉県流山市長(69)。共働き子育て世帯への支援策などを充実させ、高い人口増加率を実現してきた。「大切なのは住み続けてもらうこと。その価値を高めるまちづくりを進めていく」と話す。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
朝廷と幕府のバトル──源頼朝たち転生者(八)
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
日本一の酒粕が、新たなブランド牛を生む【汚染処理水放流(6)福島牛】
原発事故、続く模索㊵ 全国新酒鑑評会で金賞を受賞した蔵の数が、9回連続で日本一になった実力を持つ福島酒。醸造の過程で出る酒粕もまた絶品だ。これを和牛の餌に利用しようという研究が進められていて、「肉が甘くなる」「コクが出る」という成果が得られつつある。福島牛は原発事故による風評被害に悩まされてきた。原発では新たに汚染処理水の海洋放出が始まろうとしており、酒と牛のコラボで新たな風評に立ち向かう。
□自治体政策最前線──地域からのイノベーション
波力発電での新産業創出促進事業──海をフィールドに研究開発を進め新たな分野の産業創出につなげる(神奈川県平塚市) 神奈川県平塚市は、東京大学生産技術研究所や市内外の企業などと研究会を立ち上げ、波力発電の海域実証を実現した。海洋再生可能エネルギーとして可能性を秘めた波力発電の研究開発を進め、波力発電関連分野での事業創出と市内企業の振興を図るのがねらいだ。波力発電のコンサルティング会社を設立し、社会実装へ向けた取り組みも開始した。また、ブルーカーボンの生成実験にも取り組むなど、海をフィールドにした産業の創出をめざしている。
●Governance Focus
□今、痛感する「早めの避難」の大切さと難しさ──西日本豪雨から5年。広島県坂町小屋浦地区/葉上太郎
西日本豪雨の発生から、この7月で5年が経つ。死者・行方不明者が118人を数え、全国で最も多かった広島県。なかでも坂町の小屋浦地区では死者15人・行方不明者1人と被害が大きかった。同地区で課題を残したのは「避難」だ。逃げ遅れで犠牲者が増えた側面を否定できず、町は有識者による検証などを行った。だが、高齢化やそれぞれの考え方もあって地域で一致した行動は取りにくいのが実情だ。どうすればいいのか。模索が続く。
●Governance Topics
□議会と議員の基本の「キ」を学ぶ──LM推進連盟新人議員勉強会 ローカル・マニフェスト推進連盟(LM連盟)は、5月28日に今春の統一地方選挙で当選した新人議員などを対象とした議会と議員の基礎を学ぶ勉強会を開催した。先輩議員や議会事務局経験者から多くの学びを得る機会となった。
□地域における自治を考える──第37回自治体学会川崎大会プレフォーラム 自治体学会(阿部昌樹理事長)は、今年8月25・26日に第37回大会を川崎市で開催する。コロナ禍によって4年ぶりに対面形式で開催するのに先駆け、5月20日にプレフォーラムを開催した。ご当地ならではのテーマが設定され、自治を再考する機会となった。
□任期4年を市民とともに振り返る議会フォーラムを開催──岩手県滝沢市議会 岩手県滝沢市議会は5月28日「議会フォーラム──市民と振り返る議会評価」を市内で開催した。7月末に改選を控える同議会が、4年間の活動を振り返り、取り組みや成果を市民に報告するとともに、これからの議会のあり方について意見交換しようというもの。当日は高校生から高齢者まで67人の市民と19人の議員が参加。「SOUNDカードTM」を用いたワールドカフェを実施し、活発な対話の場となった。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □地域経済再生の現場から~Bizモデルの中小企業支援/繁田智雄(D-Biz) □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □地方議会シンカ論4/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所) □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える
『マルセル 靴をはいた小さな貝』/綿井健陽 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『動物がくれる力──教育、福祉、そして人生』大塚敦子]
●カラーグラビア
□つぶやく地図/芥川 仁
故郷の豊かな自然、そして誇りと暮らす──沖縄県国頭郡恩納村字恩納 □技の手ざわり/大西暢夫
200年の技と魂が生み出す伝統の切れ味
──【刀鍛冶】四郎國光/小宮安氣光さん・早陽光さん(福岡県大牟田市) □わがまちDiary──風景・人・暮らし
季節ごとに表情を変える 海・山・素敵な出会いのあるまち(愛媛県伊予市) □本日開園中 FUN!FUN!動物園/江戸川区自然動物園(東京都江戸川区) □クローズ・アップ
平和を願う「バラのまち」──広島県福山市
■DATA・BANK2023 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
【特別企画】
□EVが変える地域のミライ②
コスト“実質ゼロ”が決め手に 全国の自治体で続々導入決定「Terra Charge」
──栃木県那須塩原市、愛知県大府市
※表紙写真は愛媛県伊予市の「本谷の棚田」から望む伊予灘の夕日