議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第18回 大津市議会意思決定条例のどこが常識破りなのか?

地方自治

2020.07.30

議会局「軍師」論のススメ
第18回 大津市議会意思決定条例のどこが常識破りなのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2017年9月号

*写真は琵琶湖の情景。

 7月末の「マニフェストサミット2017(早稲田大学マニフェスト研究所主催)」で、「本来の議会の仕事は何か~通年議会の是非から考える~」と題して、セッションの機会をいただいた。その議論の中で、地方自治法制定時には想定されていなかった「通年議会」に移行することによって、実務上の不都合が生じていることについても触れた。

■通年議会導入に伴う新たな課題

 それは、法定外活動を議会の公務に位置付ける議員派遣の手続きについてである。例えば議会報告会を行う際には、議員派遣の手続きを経なければ公務外活動となるため、議員が会場に向かう際に被災しても、公務災害の対象とはならない。また、議会事務局職員も、業務として議会報告会に関わることはできないということになる。なぜなら、議会事務局職員に公務外の事務執行をさせるということは、人件費の不当支出となるからだ。

 地方自治法第100条13項では、「議会は、議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは、会議規則の定めるところにより、議員を派遣することができる」とされ、標準市議会会議規則167条では「法第100条第13項の規定により議員を派遣しようとするときは、議会の議決でこれを決定する。ただし、緊急を要する場合は、議長において議員の派遣を決定することができる」とされている。この「緊急を要する場合」とは、一般的には閉会中を意味するとされている。

 だが、物事の決定基準は、対象の軽重によって統一されたものであるべきで、会期中は議決、閉会中は議長決定という基準自体に合理性があるのかは疑問である。その規定を大前提とするにしても、大津市議会のように通年議会を採用している議会では、閉会期間は事実上なく、議員派遣の手続きを経るには常に本会議を開くことが必要となる。だが、本会議を開くには、費用弁償など様々なコストが発生するため、議員派遣の承認を得るためだけに本会議を開く場合には市民理解が得られるとも思えない。

■議会意思決定条例の制定意義

 大津市議会では、「大津市議会意思決定条例」を制定し、本年4月1日から施行した。これは、機動的な議会の意思決定を実現するため、議決に拠らずとも議長や議会運営委員会(以下「議運」)の決定をもって議会の意思とする事項を、あらかじめ一括して定めたものである。議決でなければ少数意見が無視され常識破りとの意見もきくが、議運で意見が分かれた場合は、議決に戻すように制度設計しており、議長決定も議運に諮問してからの決定としている。つまり、全会一致が見込まれなければ、議長決定や議運決定とされることは事実上なく、少数意見を尊重しつつ、議会の意思決定の機動性を高めたことがポイントである。

 市民視点からの制定意義としては、形式的議決を得るためだけの臨時会開催に要する費用や時間の節減に資するものである。一方、議会内部視点での制定意義は、法と議会の現場ニーズとのギャップを、独自条例で埋めようとするものである。

 もちろん、議員派遣は意思決定条例制定の実務目的の一つに過ぎず、実務的な課題解決を求められている事項はそれだけではない。それ以外の制定目的については、次号で論じたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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