月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2020年12月号 特集:自治体職場・職員と新型コロナ
地方自治
2020.12.01
目次
●特集:自治体職場・職員と新型コロナ
世界的なパンデミックとなった新型コロナ。新型コロナは自治体の職場・職員にも多大な影響を及ぼし、コロナ対策を担う職場は多忙を極めた。中には、言われなき誹謗・中傷を受ける職場・職員もあった。感染の第3波が言われる中、新型コロナとは中長期戦の構えが必要な状況だ。これまでのコロナ対策、そして自治体職場・職員と新型コロナの関係を検証し、次なる危機に備えたい。
福嶋浩彦(中央学院大学教授)
■新型コロナと自治体──「対話」の社会をつくる/福嶋 浩彦(中央学院大学教授)
新型コロナ感染症は私たちの社会が持つ危うさを浮き彫りにした。その一つは、「新型コロナの感染リスクを下げる(無くす?)」が社会の中の唯一の「正義」になってしまったことだ。どんなに正しいものでも、それが唯一の「正義」になった社会は危ない。自粛競争や相互監視が生まれ、感染者への社会的排除も深刻になっている。これを乗り越える自由な「対話」と多様性の保障ができるか、自治体の力が試される。
■コロナ禍に期待される自治体職員の意識と行動/今井 照((公財)地方自治総合研究所主任研究員)
自治体の組織と職員は、モラルハザードを生む環境に順応して思考停止に陥ってはならない。制度の網目はくぐりつつも、本来の公共政策の目的(政策規範)を基本として考え続けるべきだ。自治体の政策規範は住民の生命と安全を守ることであり、それ以上に優先されるものはない。
■自治体職員のモチベーションと新型コロナ対応/嶋田 暁文(九州大学大学院法学研究院教授)
国の指示・要望に安易に従わず、自律的な判断を行ったことで、住民にとって好ましい結果につながったとすれば、それはむしろ職員のモチベーション向上につながったはずである。要するに、組織・職場の対応こそが最大のポイントであり、それ次第で職員のモチベーションの高低は大きく左右されるのである。実はそうした対応は、日常的にも求められているのであり、コロナ禍は、日ごろからそれを実践できている組織・職場とそうでないところとの差をより強く顕在化させている面がある。
■コロナ禍の自治体組織と職員配置/西尾 隆(国際基督教大学特任教授)
国の方針が自治体の組織にどう影響しているか。感染症対策は専門性の高い政策課題なので、各自治体で専門家を配置し、独自に判断するのは効率的ではなく、現実的でもない。政権中枢または国際機関で医療現場の膨大な情報を集め、新型コロナに関する専門知を集約することが不可欠である。問題は、それに基づいてどこまで国が指示や方針を示し、どこまで自治体が地域ごとの判断を下すかであろう。
■コロナ禍で明暗を分けた「未来を創造する力」
──次世代の育成は高校や大学との「共学共創」から/浦崎 太郎(大正大学地域創生学部教授)
真っ当な「知力」を身につけた若者が「知の過疎地」を去り、あるいは寄りつかなくなった結果が、地域の衰退であるといえる。結局、「知の過疎化」を克服せずして高校や大学との連携はなく、地域の創生もありえないことを意味する。オンライン化が一気に進展した今日、自治体にとっては、「共学共創」に磨きをかける千載一遇のチャンスが到来している。
■ウィズコロナ時代を見据えた従来の窓口サービスからの転換と自治体職員の柔軟な対応力/瀧口 樹良(合同会社社会情報サービス研究所代表社員/株式会社コミクリ窓口サービス改革推進室室長)
ウィズコロナ時代を見据え、自治体の窓口サービスは従来の提供方法からの転換を図ることが求められる。今後、感染症に立ち向かう新たな非対面型または来庁不要の窓口対応を実現させるためには、住民の立場に立って自治体職員の窓口サービスに対する柔軟な対応力を鍛え上げていくことが不可欠といえるだろう。
■コロナ禍における職員の法的対応/澤 俊晴(山陽学園大学地域マネジメント学部准教授)
新型コロナウイルス感染症の拡大は、あらゆる部局の自治体職員に大きな影響をもたらしている。第3波をむかえている今、刻々と変化する環境や住民ニーズに対応するため、自治体職員にはこれまで以上に自らの担当業務の根拠が法令なのか、要綱、要領、マニュアル、手引きなのか、あるいは前例や慣習といったものなのかを確認し、それらの遵守すべき程度を判断した上で熟慮断行することが求められている。
■コロナ禍における議会と執行機関との関係/田口 一博(新潟県立大学国際地域学部准教授)
人は集まり、話し合うことに飢え始めている。議会は何をしなければならないなどと議会が勝手に決めないで、まず、住民に寄り添い、何をすべきか要望を聞こう。さまざまな声を集めたらわが町が取り上げるべきかどうかを議員間で議論しよう。危機だからこそ議会と執行機関との関係を再構成するチャンスにすべきだ。
■ロックダウン時の議会局と議会BCP/清水 克士(大津市議会局長/早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員)
全国で報道されたとおり、大津市役所では新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生し、感染の連鎖を断ち切るため4月25日から5月6日まで本庁舎が閉鎖された。そのような異常事態に直面して、それまで必ずしも身近に感じていなかったコロナ禍に、突然巻き込まれることとなった。本稿では、その体験を踏まえてコロナ禍における議会局の行動様式と議会BCPの改定について、議会局の視点から述べたい。
【キャリアサポート面】
●キャリサポ特集
民間高度専門人材をわがまちに!
民間人材のスキルやノウハウ、ネットワークをどうしたら自治体は取り入れていけるのか──。ICTの加速度的な進展などにより、自治体は民間高度専門人材との連携が一段と求められるようになっています。受け入れ方法は、一般職の常勤・非常勤、特別職など多様ですが、コロナ禍が重なりリモートワークを活用した副業・兼業の波もじわりと押し寄せています。そんな民間高度専門人材の活用法について、一緒に見ていきましょう。
■民間高度専門人材の効果的な採用・活用法/大谷基道(獨協大学法学部総合政策学科教授)
社会の急速な変化は、行政需要の著しい多様化・複雑化をもたらした。それに的確かつ迅速に対応するためには、質の高い人材を幅広く確保することが求められるが、新たな行政需要に関する業務については、自治体内部に当該業務の専門家は存在しないため、民間から専門人材を確保する必要がある。自治体はどのように民間高度専門人材を採用・活用しているのか。
〈取材リポート〉
■副業・兼業による民間人材の採用で“福山モデル”を確立/広島県福山市
人口減少の進展や多様化する市民ニーズなどに自治体はどう迅速かつ柔軟に対応していけば良いのか。広島県福山市は2018年3月、5人の民間高度専門人材「戦略推進マネージャー」を全国で初めて副業・兼業方式で採用した。それから2年半余。新たな人材も迎えながら、着実に民間のスキルやノウハウ、ネットワークが市に根付くとともに、職員の意識改革・スキルアップにもつながっている。市はこの取り組みを「福山モデル」として全国に発信・普及していきたい考えだ。
■高度産業化推進PJに向け戦略プロデューサーを採用/大阪府能勢町
大阪府能勢町は、2019年度より地方創生事業の一環として、土地利用の高度化や農業の高付加価値化などを目的とする「高度産業化推進プロジェクト」を立ち上げた。その中核的な役割を担うのが、公募により採用された戦略プロデューサーたち。いずれも民間企業でマーケティングや商品企画・販促などのプロとして活躍してきた人材で、能勢町の仕事に副業・兼業の形で携わっている。上森一成町長は、町政運営の基本理念として「里山未来都市」を掲げており、その実現に向けて外部の高度専門人材による刺激が不可欠と判断した。
●キャリサポ連載
■管理職って面白い! Iメッセージ/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ リアルなつながりが絆を育む──オンラインとオフラインのバランスの取り方とは?/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/長澤美帆
■AI時代の自治体人事戦略/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■独立機動遊軍 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■We are ASAGOiNG ! 地域公務員ライフ/馬袋真紀
■ファシリテーションdeコミュニケーション/加留部貴行
■“三方よし”の職場づくり/寺沢隆宏
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会
■もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク/テレワーク・カフェ(群馬県太田市)
●巻頭グラビア
□シリーズ・自治の貌
宮元 陸・石川県加賀市長 スマートシティの推進で「挑戦可能性都市」へ
2014年の日本創成会議のレポートで「消滅可能性都市」の一つに挙げられた石川県加賀市。強い危機感を抱いた加賀市では先端技術を取り入れた行政を推進し、今年3月、全国初の「スマートシティ宣言」を行った。その先頭に立つ宮元陸市長は「チャレンジできる」土壌を加賀市に醸成し、「挑戦可能性都市」をめざす。
ドローンを手にする宮元陸・石川県加賀市長(64)。加賀市は今年3月、全国初の「スマートシティ宣言」を行った。宮元市長は「『挑戦可能性都市』をめざす」と語る。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 細川幽斎(九) 本能寺の変にもクールに対応
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
時代を読んで、切り抜ける【「福島醤油」日本一の情景(9)】
原発事故、続く模索
昨年10月の台風19号災害では、全国で約100人が犠牲になった。そのうち約30人と最も死者が多かったのは福島県だ。特に7人が死亡した本宮市は中心街が被災し、あれから1年が過ぎたというのに、まだダメージを引きずっている。原発事故から復興しきれていなかったのも傷を深くした一因だろう。そうした中にあって、時代を先取りする商品開発で、苦境を切り抜けようとしている醤油蔵がある。
□現場発!自治体の「政策開発」
自転車の利用を促進し健康増進と観光振興を図る
──石岡市りんりんタウン構想(茨城県石岡市)
茨城県石岡市は、自転車活用推進計画として「石岡市りんりんタウン構想」を策定し、自転車によるまちづくりを進めている。駐輪施設や安全に走行できる道路環境を整備し、自転車利用を促進して市民の健康を増進するとともに、サイクリングやライドツアーによる交流人口の拡大を図るのがねらいだ。コロナ禍での自転車人気の高まりを追い風に、オンラインサイクリングイベントも企画して石岡の魅力を発信している。
□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
条例明記の「事務局提案制度」を活用し、議会機能を向上
──東京都墨田区議会・同議会事務局
東京都墨田区議会は2018年12月に議会基本条例を制定した。条例では、議会事務局による議会への提案制度を明記。この規定に基づき今年1月には議会事務局からの提案が行われ、そのすべてを実現している。この提案制度は議会事務局職員のモチベーション向上・政策能力向上はもとより、議会機能の向上にも大きく寄与している。
●Governance Focus
□早期処理と風評再燃のはざまで
──原発の汚染処理水、福島県大熊町の苦悩/葉上太郎
福島県大熊町は、爆発事故を起こした東京電力福島第1原発のお膝元にある。全町避難となり、政府の避難指示が一部地区で解除されたのは、発災から8年が経過した昨年4月だった。ようやく始まった「帰町」。だが、原発敷地内で増え続ける「汚染処理水」の存在が重くのしかかる。役場は「早く処理してほしい」と願うものの、町外の漁業者や他自治体では海洋放出反対の声が強い。ぶつかる利害に深まる苦悩。政府や東電が、人々を分断する。
●Governance Topics
□古川雅典・岐阜県多治見市長がグランプリ受賞/第15回マニフェスト大賞
地方自治体の首長や議員、市民の活動実績を表彰し、地方政治・行政の善政競争を促す「第15回マニフェスト大賞」(ローカル・マニフェスト推進連盟などによる同実行委員会主催)の授賞式が11月13日、東京・六本木ヒルズで行われた。グランプリは、古川雅典・岐阜県多治見市長が受賞した。
□地域における防災・減災や地域戦略を担う人材育成のあり方を議論/大正大学地域構想研究所シンポジウム2020
大正大学が設立・運営する地域構想研究所は11月9日、都内でシンポジウムを開催した。当日は、新型コロナウイルス感染対策のため、参加者の距離を空けての開催となったが、自治体関係者や研究者など約70人が参加。大規模自然災害の頻発化や新型コロナウイルスの感染拡大などを踏まえた、地域における防災・減災のあり方や、それらを含む幅広い地域戦略を担う人材育成のあり方について議論した。
□模擬本会議で出された課題を全議員による「デモテック会議」で議論/茨城県取手市議会・同議会事務局
官民学の連携協定で、ICTのさらなる活用による新しい民主主義の手法構築にチャレンジしようと6月に「デモテック宣言」を行った茨城県取手市議会・同議会事務局。市議会では3回にわたってオンラインによる模擬本会議を開催し、課題を抽出した。10月27日には全議員によるデモテック会議を開き、模擬本会議で出された課題について共有化、解決の方向性などを議論した。
□新型コロナウイルス対策や財源の充実・確保などを提言/全国知事会議
全国知事会は11月5日、全国知事会議を開催した。オンライン開催とあって今回も多くの知事本人が参加。新型コロナウイルス感染症に対する多岐にわたる緊急提言などをとりまとめた。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□自治体のダウンスケーリング戦略/大杉 覚
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『「仮住まい」と戦後日本』平山洋介]
●カラーグラビア
□技・匠/大西暢夫
県産材を使い、環境にも人にも優しい木毛を──もくめん屋・戸田商行(高知県土佐市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ/長野県茅野市
八ヶ岳の美しい自然に抱かれた、豊かな創造性と縄文の精神が息づく
□山・海・暮・人/芥川 仁
順当に四季が来てくれるのが理想──和歌山県伊都郡九度山町下古沢
□土木写真部が行く~暮らしを支える土木構造物
浦山ダム~都心から気軽に行ける観光スポットダム
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/追い出し猫さくら(福岡県宮若市)
□クローズ・アップ
台風19号災害で水没し、新庁舎予定地を変える──茨城県大子町
■DATA・BANK2020
自治体の最新動向をコンパクトに紹介!