月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2024年1月号 特集1:自治・分権の現在とミライ 特集2:わたしが薦める!地域や自治を考えるこの一冊

地方自治

2023.12.26

●特集1:自治・分権の現在とミライ

新しい年を迎える。今年7月で地方分権一括法の制定から四半世紀が経つ。「未完」といわれた地方分権改革は、その後も累次の制度改革が行われ、三位一体改革や地方創生なども進められてきた。だが、地方分権推進委員会最終報告が掲げた「分権改革の成果が各地域で深く耕され、将来のわが国に豊かな稔り」をもたらす分権型社会はどこまで実現したのか。いまだ税財政や法制度の制約は多く、沖縄の米軍基地を巡る国と地方の係争も続いている。また、コロナ禍への対応を踏まえ、大規模災害等の非常事態における国・地方の役割に関する議論もなされている。自治・分権改革は今どこにあり、これからどこへ向かうのか。改めて考えてみたい。

■歴史が後ずさりする
──地方分権改革の四半世紀を考える

青山彰久
ジャーナリスト

歴史が後ずさりしている。国の関与が強まるいま、そう考えざるを得ない。機関委任事務を廃し、自治体の仕事を自治事務と法定受託事務に分けて国の関与を限定化した分権一括法の成立から25年。あの努力はどこへ行ったのか。未完の改革への道はどこにあるのか。現実を直視することから考える。

■分権型社会における首長のあり方/片山善博
地方自治とは地域のことは地域が責任を持って決める仕組みである。この地方自治の理念をより実現しやすくするための作業が地方分権改革である。首長には、地域においてこの地方自治の理念と地方分権改革の成果を実践してほしい。

■非平時の国・地方の役割と一般的な指示権の意義/牧原 出
非平時は多様である。平時から見ればその行使の条件が満たされる非平時はめったに到来しないはずだが、いざ非平時となれば冷静な見通しを失った国・地方の関係の中、突如これを行使する決断を国がしないとも限らない。総務省の一対一連絡体制が、「ホットライン」として機能することは、合理的な判断が下される土壌となるだろう。法改正の有無にかかわらず、こうした基盤を平時から整備しておくことが必要なのである。

■危機対応と分権──コロナ対策を検証する/礒崎初仁
2020年1月、国内で初めて新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」という)の感染者が確認されてから約4年が経過する。この間、国は新型インフルエンザ等特措法(以下「特措法」という)等に基づいて感染の封じ込めを図り、特別定額給付金の交付など経済対策にも努めてきた。自治体は地域の感染拡大の防止に取り組むとともに、地域経済の維持・回復に努力してきた。国の法令と基本方針に依拠しながら、実際に休業を要請し、積極的疫学調査を行い、入院・療養等の対応を行い、協力金を支払い、ワクチン接種を進めたのは、全国47の都道府県と1741の市区町村であった。過去4年の危機の「乗りこえ方」を振り返って、日本の危機対応の問題点を抽出し、分権的な危機対応のあり方について展望する。

■21世紀第2四半期における自治体の総合性の展望/金井利之
第1次分権改革の成果は高邁な理念や方向性から見れば、誠に微々たるものである。とはいえ、実現性から見れば最大限に近かった。その後の21世紀第1四半期の自治体の状況は、こうした方向性からすれば、厳しいものであった。そこで、本論考では、理念として打ち出された総合性の動向について、振り返りつつ、第2四半期の総合性を展望してみたい。

■地方分権に適う地方税財政制度/小西砂千夫
事務配分を融合型から分離型に転換しなければ地方分権ではないという原理的発想は、時代を超えて常にあった。一方、融合型事務配分の下でも地方分権に適う改革は十分に存在する。典型は、義務付けや枠付け等の見直しであって、全廃せずとも緩和すれば、地方の自由度は高まり、地方分権に適う。事務配分を融合型にするか分離型にするかは、集権か分権かではなく、統治構造における選択の問題である。地方分権の検討では、何をもって地方分権とみなすかの根本が問われる。そのことに、十分な注意が必要である。

■分権型計画行政の現在とミライ/勢一智子
計画は、行政運営を効果的かつ円滑に進めるためのツールである。各地方自治体により、地域特性に応じて主体的かつ戦略的な活用が期待される。そのためには、国レベルで計画法体系を地方分権標準に整えると同時に、地方現場でも必要な計画を見極めて賢明な運用を進めることが肝要である。各地域での創意工夫に富む運用の蓄積は、多様な地域社会のニーズを反映できるものであり、ボトムアップによる計画改革の次のステップにつながると考える。

 

●特集2:わたしが薦める! 地域や自治を考えるこの一冊

2024年がはじまります。2023年は、自治体業務をめぐっては生成AIやChatGPTの活用がとりわけ大きくニュースをにぎわせました。人口減少が急速に進み、周りの環境が刻々と変化しながらも、自治体職員のみなさんは日々、地域や目の前の住民のことを考えながら業務に励まれていると思います。新年号では、地方自治研究者や現役自治体職員の方から、地域や自治を考えるときに役立ったおすすめの一冊を紹介していただきます。みなさんの今年の業務のヒントになる一冊が見つかるかもしれません。

■不透明な時代に必要な「ものの見方」/嶋田暁文

■目的に立ち返って効果を考える/海老澤 功

■不知の知/定野 司

■〝女性公務員〟を出発点に考える組織と地域のこれから/坂本静香

■流域治水を一番やさしく解説してくれる本/橋本 隆

 

●キャリアサポート連載

■管理職って面白い!WHY型思考/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
施策や事業が市民に浸透する5つの理由/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/池部智恵 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■自治体職員なら知っておきたい!公務員の基礎知識/高嶋直人 ■そうだったのか!!目からウロコのクレーム対応のワンヒント/関根健夫 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ
/牧瀬 稔(関東学院大学地域創生実践研究所)
■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■〈リレー連載〉Z世代ズム~つれづれに想うこと/椋田佳奈 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/坪田まつ美 ■地域の“逸材”を探して/寺本英仁

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
松尾 崇・神奈川県鎌倉市長
「世界に誇れるまち」をめざし、共生社会を共創する

松尾崇・神奈川県鎌倉市長(50)。「世界に誇れる持続可能なまち」をめざし、多様な市民活動などとの共創による「共生社会」づくりを進める。「一人ひとりがその人らしく生きていける地域にしたい」。

 

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
帰還から8年、営農再開を支えた飼料用米【「天のつぶ」の物語(3)楢葉町】
原発事故、続く模索46
2011年3月の原発事故で全町避難となった福島県楢葉町。帰還が始まってから8年が過ぎ、稲作はほぼ復活した。その原動力になったのは県オリジナル品種「天のつぶ」だ。食用米ながらも、倒伏しにくく多肥多収となることから、飼料用米として広く栽培された。天のつぶは近年、美味しい米としての需要が増え、特に猪苗代町産は国内外の有名ホテルが使用するほどのブランド米になっている。同じ米というには、あまりに違う。


□自治体政策最前線──地域からのイノベーション10
瀬戸内市統合報告書──市の価値の創造を明確に示して次世代につなげる市政を推進(岡山県瀬戸内市)
岡山県瀬戸内市は、IIRC(国際統合報告評議会)のフレームワークに沿って作成した「瀬戸内市統合報告書」を発行している。統合思考によって持続可能なまちづくりを推進するのがねらいで、自治体による統合報告書の作成は全国初の試みだ。市の強みや戦略、業務実績を分かりやすく示して市内外に発信し、ゼロカーボンの推進や子育てしやすい環境づくりなど、市の未来ビジョンの実現へ向けて市民主体の取り組みを進めている。

 

●Governance Focus

□小規模動物園は生き残れるか──三重県多気町、地域に根ざした飼育展示で再生へ/葉上太郎動物園は自然に近い飼育環境の実現や、個体の貸し借りによる希少種の繁殖で一定の成果を上げている。だが、流れに取り残された園もある。小規模動物園だ。資金難や施設の老朽化、スタッフの処遇などの問題に直面し、展望が開けない。そうした中、三重県多気町では2024年春の再オープンに向けて、施設の大規模改修に乗り出した。多気町ならではの飼育展示にも力を入れ、地域に根ざした園として再生を図る。

 

●Governance Topics

□「障害者のリアルに迫るゼミ」の公開講座を実施──東大特別授業「障害者のリアル×東大生のリアル」 東京大学の有志学生が運営する「『障害者のリアルに迫る』東大ゼミ」(リアルゼミ)が、10周年を記念して特別公開授業「障害者のリアル×東大生のリアル」を同大本郷キャンパスで開催した。当日は複数の講師を招き、講義+対話を実施。リアルゼミのリアルに迫る講座となった。

□これからの自治体連携のあり方などを展望──地方行政実務学会第4回全国大会 自治体職員経験のある研究者や現役自治体職員らで構成する地方行政実務学会(理事長/礒崎初仁・中央大学教授)の第4回全国大会が12月2・3日が大阪府で開催された。初日は会員らによる研究発表、2日目はシンポジウムが開かれ、多くの会員や自治体職員の交流や学び合いの場となった。

□10周年の節目に発足の地でサミットを開催──関東自主研サミット2023 「関東自主研サミット2023」が11月25日、横浜市で開催された。発足10年の節目となる今回は、久しぶりに対面での実施。100人近くが集まり、リアルな交流を図った。

□自治体の「人づくり」に向け、人材育成・研修担当者が交流──全国職員研修研究会&人事研究会2023 自治体でも「人づくり」の重要性がますます高まるなかで、自治体の人材育成や研修の担当者などが情報共有・交流するオンラインイベントが11月27日に開催された。全国の研修担当職員のネットワークである「全国職員研修研究会」と早稲田大学マニフェスト研究所「人材マネジメント部会」による共催で、当日は約100人が参加。先駆的な研修の事例や人材マネジメントについて、学び、対話した。

 

●連載

□自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □地域経済再生の現場から~Bizモデルの中小企業支援/前田正浩(らづ-Biz) □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □地方議会シンカ論/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所) □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える
『ヤジと民主主義 劇場拡大版』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『ヒストリカル・ブランディング―脱コモディティ化の地域ブランド論』久保健治]

 

●カラーグラビア

□つぶやく地図/芥川 仁
領地で育つ、丹精込められた京野菜──京都府京都市左京区修学院烏丸町
□技の手ざわり/大西暢夫
伝統の木蝋製造と新たな息吹き──【木蝋製造】株式会社セラリカNODA つるかめ喜多工場(愛媛県大洲市)
□わがまちDiary──風景・人・暮らし
雄大な自然と歴史に育まれた「万葉のふるさと高岡」(富山県高岡市)
□本日開園中 FUN!FUN!動物園
宮崎市フェニックス自然動物園(宮崎市)

 

■DATA・BANK2024 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!

※朝日に輝く「国定公園 雨晴海岸」
*「ザ・キーノート」は休みます。

 

「童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝」連載終了のお知らせ
小誌創刊以来、ご好評をいただいていた、童門冬二先生の連載「日本列島・諸国賢人列伝」ですが、著者のご都合により、残念ながら連載を終了することになりました。長らくのご愛読、本当にありがとうございました。
ガバナンス編集局

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「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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