議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第45回 議会における「価値前提」とは何か?

地方自治

2021.01.28

議会局「軍師」論のススメ
第45回 議会における「価値前提」とは何か? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2019年12月号

 10月末に北川正恭・早稲田大学名誉教授を招聘して、『滋賀から「チーム議会」で日本を変える!』と題した研修会を開催した。これは、滋賀県市議会議長会の議会(事務)局職員の能力向上に資する「軍師ネットワーク」事業として企画したものである。今号では、その講演内容を交えながら思うところを述べたい。

■「軍師ネットワーク」の意義

 「軍師ネットワーク」は局職員を対象とした事業であるが、県内全議員を研修対象としたのは、局職員も「チーム議会」の一員であることの理解を得る必要性を感じるからだ。北川氏もラグビーにおける「ワンチーム」の概念を議会にたとえ、局職員との協働の必要性とともに、「これまでは議員活動はあっても、議会活動はなかった」とし、「One for all、All for one」(一人は皆のために、皆は一つの目的のために)と強調していた。

 だが、多くの局職員は議員と比べて他議会の生の情報に触れる機会に乏しく、井の中の蛙状態にあることも否定できない。現実の課題解決に必要とされるのは机上の理論ではなく、現場経験に基づくノウハウであることも多い。しかし、その核心部分は公開情報として伝えられることは稀だからこそ、フェイストゥフェイスでの情報交換の場を制度化する必要性を感じるのである。

■求められる思考方法は何か

 北川氏は、「事実前提」から「価値前提」への発想の転換の必要性に言及した。「事実前提」とは、事実から物事を評価や判断することであり、それに基づく思考は、現状のデータを分析して未来を考える「フォアキャスティング」となる。

 多くの議会での活動が「事実前提」であるのは、先例主義の議会文化所以であろう。だが、それでは目標が曖昧になり、過去からの延長線上でしか未来を想起できないため、革新的発想は生まれないとされる。それが、議会は時代遅れと揶揄されてきた一因ではないだろうか。

 あくまで手段としての議会の政策立案や議会改革であり、どんな目的を実現しようとするのかという未来から逆算して現在を考える、「バックキャスティング」の発想での議会活動を実現すべきであろう。これが北川氏の言う議会における「価値前提」であり、市民福祉の向上を本質的目的とする、議会本来の方向性ではないか。

■「価値前提」の評価制度とは

 北川氏は「価値前提であればこそ、努力をしたというだけではだめだ。結果を出さなければ意味がない」とも言う。前号で議会の長期ビジョンの必要性を論じたが、必ずしも議員任期の4年以内に結果を出せるものばかりではないはずだ。例えば、選挙での投票率向上や議員のなり手不足の解消など、10年、20年単位で将来を見据えて取り組まなければならない課題もあろう。

 そのような場合には、バックキャスティングの手法の一つとして「タイムマシン法」と呼ばれるものもある。それは、最終目標達成にかかる期間を刻んで、中間目標を設定し、その都度評価して進行管理するものである。

 短期間では結果に反映し得ない目標の進行管理においては、計画遂行自体が目的化してしまうことがある。その対策としては「価値前提」の評価制度を構築する必要がある。議会活動におけるバックキャスティング思考と評価のあり方については、いずれ稿を改めたい。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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