議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第35回 小規模議会での改革手法は万能なのか?
地方自治
2020.11.19
議会局「軍師」論のススメ
第35回 小規模議会での改革手法は万能なのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2019年2月号)
主に小規模議会で確立されてきた議会改革モデルは、果たして大規模議会でも通用するのか?
今号と次号では上記の「自治体規模と議会改革」のテーマに関して、昨年11月の「議会研究会合同フォーラム」で時間の関係上、言及できなかった内容を補足して論じたい。
■単一地方議会制度への疑問
制度論からは、そもそも地方議会制度が単一であること自体に無理があると感じる。基礎自治体を人口で比較すれば、最も多い横浜市では370万人を超え、村総会の設置を検討した高知県大川村が離島を除けば最少の約400人であり、ほぼ1万倍の規模の格差がある。必然的に住民ニーズも異なり、執行機関では規模によって政令市から村まで区分され事務権限にも差がある。
一方、地方議会では、規模の差による制度上の権能の相違は基本的にはない。だが、形式的にはともかく、1万倍もの規模の差を考慮しない制度では、実質的成果を同じレベルで求めるほうが無理であろう。
それは諸外国の例を見ても、一国における多様な都市制度の下、地方議会制度はさらに多様であることからも推察できる。よって、現状では規模別に、議会運営手法を変えて制度に対応することが必要となる。
■追求すべき改革の方向性とは?
機能面から考察すれば、議会の有する監視機能と政策立案機能のうち、監視機能については法定制度や標準会議規則で一般化された手法が確立されており、程度の差はあれまったく機能発揮されていない議会はない。
一方で、政策立案機能は各々の議会で手法の確立から始める必要があるため差が大きく、これを充実強化していくことが、議会改革の主たる方向性となろう。
条例制定権を付与されている立法機関としては、当然に条例制定が政策実現の第一選択肢であり、それを実現するための機能強化に努めることとなる。憲法上、国会は「唯一の立法機関」と明確に規定されていることに比して、地方議会は「議事機関」と規定されていることを根拠に、立法権限を副次的に捉える向きもあるようだが、そこに正統性はあるのだろうか。
■議会立法の正統性
浅野史郎・前宮城県知事は日本自治学会の場において、宮城県議会の積極的な政策条例提案を評価する文脈で、同様の疑念を示されていた。それは、日本国憲法の原型であるマッカーサー草案では、「立法議会」と直訳されるべき「legislative assemblies」との原文が、地方に立法権を認めたくない当時の官僚によって単に「地方議会」と訳され、その後の起草案では「議事機関」と恣意的に変えられた制定経緯を根拠として語られていた。
いずれにしても議会を機関の機能面からどのように呼称しようと、執行機関と独立、対等の関係に立つ二元代表制の下に地方議会を位置付けるならば、政策実現の根幹となる立法権は、執行機関と議会の両者に置くことが前提となる。したがって、地方議会における政策立案は、立法権行使によることが第一義との認識に至るのは必然である。
そして、まずは立法機能の発揮に資する制度、体制の構築を目指すべきであろうが、そこで規模の差によって異なる課題が顕在化する。その意味からも議会は規模別に、最適手法を模索せざるを得なくなるが、具体論については次号に譲りたい。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。