自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[39]「みんな元気になる福祉避難所」はじめます! ──福祉避難所キットを整備し、全国で助け合おう
地方自治
2020.11.11
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[39]「みんな元気になる福祉避難所」はじめます!──福祉避難所キットを整備し、全国で助け合おう
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2019年6月号)
今回は、私たちが新たに取り組む、ふるさと納税を活用した福祉避難所整備プロジェクトを紹介する。このふるさと納税に返礼品はないが、「いつか誰かの命を救う」ことができる。
はじめに
災害時には、お年寄り、障がい者、妊産婦、赤ちゃんなど、自分の力だけでは暮らせない人がたくさんいる。その人たちが安心して暮らせる場所が福祉避難所である。
災害時の避難者数は、東日本大震災で40万人、熊本地震では18万人だった。必ず起きると言われる国難級災害、首都直下地震では700万人、南海トラフ地震では950万人になるとも言われている。ほかにも、水災害や土砂災害が毎年のように起きている。
2016年10月1日現在で全国の市町村を対象に行った内閣府の調査では、協定を含めた避難所数は9万2561施設、福祉避難所数は2万0185施設だった。
しかし、福祉避難所の設備、物資は不十分で、訓練もほとんど行われていないのが実情だ。このままでは、災害時に多くの関連死の発生が懸念される。
現状では福祉避難所に必要な「福祉避難所を開設できるキット」「水のいらないトイレ」、「医療器具にも使える給電機」その他、備蓄品、消耗品を購入する国等の補助制度がない。
そこで、ふるさと納税を活用して、福祉避難所の整備費用を調達するプロジェクトを始めた。名付けて「みんな元気になる福祉避難所」。全国の1741市区町村が福祉避難所に必要な設備を整え訓練を行い、災害時には被災地に福祉避難所開設キットと人材を送り込むことで多くの命を救うことができるだろう。
このプロジェクトでは、自治体全部の福祉避難所を整備する必要はない。福祉避難所キットを複数持つことで、災害時には他自治体からの応援で支えてもらうことができる。
あなたのまちにも「みんな元気になる福祉避難所」を整備してほしい。災害大国ニッポンの強靭化のために、助け合いのネットワークをつくっていきたい。
プロジェクトの仕組み
①購入資金を集める
全国からふるさと納税で福祉避難所支援の寄付を募る。返礼品は「いつか誰かの命を救う」である。これにより自治体は少ない負担で福祉避難所の導入が可能になる。
②各自治体が福祉避難所キットを購入
集まった寄付により各自治体が福祉避難所キットを購入し、福祉避難所に設置する。キットを収納するボックスには自治体名に加えて、支援者や支援企業の名前を印字する。
③平時は福祉避難所の整備・訓練を行う
・マニュアル作成研修・訓練
福祉施設、自治体の福祉関係部局、社会福祉協議会の職員などを対象に、福祉避難所マニュアル作成の研修を2回行って、マニュアルを完成させる。
・福祉避難所開設キット
責任者がいなくても避難所の開設・運営をスムーズに行うための「指示書」「マニュアル」その他物品等が含まれているキット。このキットを使って訓練を行う。
④災害時は被災地の福祉避難所を全国で助ける
発災直後、被災自治体では短期間 に福祉避難所を開設。同時に、全国の自治体・福祉施設職員が、この福祉避難所キットをもって応援に駆けつける。このプロジェクトは、多くの自治体が参加することで、オールジャパンで災害時の福祉支援力を高めることができる。また、福祉避難所関係者が顔の見える関係づくりの場・機会が提供され、ネットワーク化が促進される。
プロジェクトの主催者
プロジェクトを主催しているのは、災害時の助け合いをメインに活動している(一社)福祉防災コミュニティ協会、(一社)危機管理教育研究所、(一社)助け合いジャパンである。問い合わせは(一社)福祉防災コミュニティ協会まで(*)。
*(一社)福祉防災コミュニティ協会:http://fukushi-bousai.jp/
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。