自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[34]福祉避難所を考える(下) ──災害時の福祉支援の法的課題

NEW地方自治

2020.10.21

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[34]福祉避難所を考える(下)──災害時の福祉支援の法的課題

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2019年1月号) 

災害救助法と福祉支援

 大規模災害に適用される災害救助法は、戦後間もない1947年に制定された。そこには「応急的に必要な援助」の類型として医療及び助産などを掲げているが、福祉は含まれていない。

 しかし、時代はすっかり変わった。その背景は高齢者人口の増加である。1980年に約366万人だった75歳以上人口は、2018年に約1691万人、2025年には約2180万人と今後も急激に増加する見込みだ。近年は、災害があるたびに、福祉ニーズの必要な高齢者の災害関連死が後を絶たない。

 東日本大震災では、福祉関係者が一般避難所の支援に入っても、災害救助法に位置付けられて活動する医療や保健と異なり、多くの場合、ボランティアとして活動せざるを得なかった。経費面はもちろんだが、避難所での医療、保健関係者との情報共有や活動の質の確保についても、法的に位置づけられていないことで困難だったという。福祉避難所については、住民も自治体も十分に認識しておらず、当初から開設された例はほとんどなかった。熊本地震でも、その後の災害においても基本的な状況はほとんど変わっていない。

福祉避難所への支援と特例措置による対応

 災害救助法では福祉避難所を設置した場合に、概ね10人の対象者に1人の相談等に当たる介助員等を配置するための費用、高齢者、障害者等に配慮した簡易便器等の器物の費用及びその他日常生活上の支援を行うために必要な消耗器材の費用に限って支出が認められる。これは、福祉避難所では家族とともに自立生活を営める高齢者、障害者等を対象とし、介護を必要とする人は介護保険や障害者総合支援法の対象として緊急入所などで対応することになっているからだ。

 しかし、現場ではこの理屈どおりにはいかない。まず、介護の必要な高齢者や障害者等を支援するべき福祉施設が被害を受けると、緊急入所を受け入れるどころか、逆に利用者の受け入れ先を探さなければならなくなる。高齢者、障害者等の受け皿が被災地では不足するのだ。

 福祉施設が被害を受けない場合には、在宅で介護支援を受けている多くの人が施設に押し寄せる。「福祉避難所では、介護支援を必要とする人は受け入れない」となると、その人たちはどこへ行けばいいのだろうか。災害時には、介護保険などの手続きをきちんと行う時間的、人的余裕はとてもない。では、より環境の悪い一般避難所、車中泊、壊れた自宅、極端だが実例としてはビニールハウスに避難する場合さえある。それがわかるだけに、福祉関係者は介助の必要な人を受け入れ、支援を行わざるを得ない。

 福祉施設以上に、公的な体育館や公民館で福祉避難所・福祉避難スペースを開設した場合には、支援の必要な人を断れない。

 そうなると10人に1人の「相談等に当たる」介助員等で足りるはずはない。被災地では、福祉避難所、一般避難所を問わず24時間、介助支援を行う介護職員の応援が不可欠なのである。

 厚生労働省は、熊本地震発生2週間後の2016年4月28日に、東日本大震災と同様に、福祉施設に介護職員を派遣した場合、人件費は派遣要請施設が介護サービス費から支払い、旅費及び宿泊費は災害救助費から支弁することなどの事務連絡を出している。地震発生後1か月以上経た5月17日になって、熊本県は一般避難所に派遣された介護職員の人件費・旅費なども災害救助費から支弁される事務連絡を出している。

 結果として熊本地震では、通知や事務連絡で災害救助費から支弁された。しかし、災害ごとに、いつ、どのような判断がなされるか不明な状態では、受援側も支援側もあらかじめ対応を整えたり、迅速に活動することは難しい。

画期的な厚生労働省の通知

 この状況を受けて、厚生労働省は「災害時の福祉支援体制の整備について」(社会・援護局長通知、2018年5月31日)において「都道府県において、局地的であって、一定期間、避難所の設置を継続するような規模の災害の発生を想定した場合、指定避難所のうち、福祉避難所を除く、一般的な避難所に避難する高齢者や障害者、子どものほか、傷病者等といった地域における災害時要配慮者の福祉ニーズに的確に対応し、その避難生活中における生活機能の低下等の防止を図りつつ、一日でも早く安定的な日常生活へと移行できるよう、必要な支援を行うことが求められている。このため、各都道府県は、一般避難所で災害時要配慮者に対する福祉支援を行う災害派遣福祉チームを組成するとともに、一般避難所へこれを派遣すること等により、必要な支援体制を確保することを目的として、都道府県、社会福祉協議会や社会福祉施設等関係団体などの官民協働による『災害福祉支援ネットワーク』を構築するものとする」として、各都道府県で取り組むべき基本的な内容についてのガイドラインを策定して、都道府県に発出した。

 なおかつ、費用負担について「チームの派遣に当たっては、チーム員の活動に係る旅費・宿泊費等の費用が発生することから、当該費用負担の在り方について検討しておくこと。なお、『災害救助法』(昭和22年法律第118号)が適用される災害の場合には、同法に基づく避難所の設置経費として災害救助費の対象となる場合も考えられるので、都道府県防災担当部局とも事前に十分に相談しておくこと」として、災害救助法の対象となりえることを明記した点で極めて意義深い(下線は筆者)。

特別支援学校と福祉避難所

 福祉施設以外で有力な福祉避難所の候補として、特別支援学校を取り上げたい。一般の小中学校に比べ、相対的に校舎、廊下などが広く、バリアフリーの設備が整い、教職員が障害者への配慮に慣れている。特別支援学校の在校生、卒業生やその保護者も、不慣れな避難所よりも、慣れ親しんだ学校で避難生活を送ることが望ましい。

 すでに、そのような思いで自ら市区町村に福祉避難所として申し出をして、指定を受けた特別支援学校もある。福祉避難所が障害者に周知されにくいことから、のぼり旗を常時置いている。

 この学校では、福祉避難所の開設、運営の訓練を何年も重ねている。その工夫の結晶が「災害!スタートボックス」である。

 災害発生後の初動対応をスムーズに行うために、やるべきことを逐次的に示した指示書、トランシーバー、ヘルメット、腕章、LEDランタンなどの備品、マニュアル、地図や筆記用具など災害対策本部用の物資などを箱に入れている。これを使って訓練することで、災害時の福祉避難所立ち上げをスムーズにできそうだ。

 頻発する災害と、高齢化が著しい地域社会においては、福祉避難所は一般避難所の補完ではなく、もはや中核的避難所である。災害関連死を防ぎ、安全安心な地域社会を継続するため、当事者、福祉関係者、自治体、国が力を合わせて、その充実に取り組まなくてはならない。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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