行政大事典
【最新行政大事典】用語集―民泊
地方自治
2020.06.06
【最新行政大事典】用語集―民泊
はじめに
『WEB LINK 最新行政大事典 全4巻セット』(ぎょうせい)は膨大な行政用語の中から、とくにマスコミ等で頻繁に使用されるものや、新たに登場したテーマ、法令などから選りすぐった約3,000の重要語句を収録。現場に精通した執筆陣がこれらの行政用語を簡潔にわかりやすく解説します。ここでは、「第4巻 第4章 観光」から、「民泊」を抜粋して、ご紹介したいと思います。
民泊とは
一般の民家に旅行者などが宿泊することであり、ホテルや旅館などの宿泊施設の代わりに、一般の民家が空き部屋に有料で旅行者を宿泊させることである。
これまで民泊は、グリーン・ツーリズムの高まりの中で、農村などで滞在型の余暇活動を提供する農家民宿として増えた。また宿泊施設の不足する地域で、国体や修学旅行で一時的に多くの人が訪れるような場合に活用されてきた。
昨今、民泊が注目され始めたのには2つの背景がある。
ひとつは、訪日外国人旅行客の増加である。訪日外国人は2013年に初めて1,000万人を超え、15年には1,973万人余りと急増している。さらに政府は、2020年の東京五輪・パラリンピックの宿泊施設不足解消に民泊が有効と位置づけてもいる。こうした訪日外国人客の増加により宿泊施設が不足し、民泊の見直しが求められてきたからである。
もうひとつは、インターネットによる民泊仲介サイトによるトラブルの発生である。有料で他人を宿泊させるには旅館業法に基づき都道府県知事か保健所を設置する市区の首長の許可が必要となっている。インターネットサイトの民泊仲介サイトには国内で2万件余の物件が登録されているが、大半は無許可とみられている。賃貸物件を無断で転貸する不正行為や、宿泊者が近隣住民とトラブルになるなどの問題が発生してきたのである。ちなみにインターネットによる仲介サービスでは、とくにサンフランシスコに本部を置くAirbnb (エアビーアンドビー)が注目される。宿泊施設や民宿を貸し出す人向けのウェブサイトであり、世界192カ国の33,000の都市で80万以上の宿を提供している。このAirbnbのサービスに、投資を目的とした貸し手が多数参入したことが問題を生じさせたといわれる。
国はこうした民泊の実態を踏まえ、適正な民泊施設の増加を促そうと、2017年に「住宅宿泊事業法」(民泊法)を成立させた。その概要は以下のとおりである。
(1) 住宅宿泊事業に係る届出制度の創設
[1] 住宅宿泊事業を営もうとする場合、都道府県知事への届出が必要
[2] 年間提供日数の上限は180日
[3] 地域の実情を反映する仕組み(条例による実施の制限)を導入
[4] 住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置(宿泊者の衛生の確保の措置等)を義務付け
[5] 家主不在型の住宅宿泊事業者に対し、住宅宿泊管理業者に住宅の管理を委託することを義務付け
(2) 住宅宿泊管理業に係る登録制度の創設
[1] 住宅宿泊管理業を営もうとする場合、国土交通大臣の登録が必要
[2] 住宅宿泊管理業の適正な遂行のための措置(住宅宿泊事業者への契約内容の説明等)と(1)[4]の措置の代行を義務付け
(3) 住宅宿泊仲介業に係る登録制度の創設
[1] 住宅宿泊仲介業を営もうとする場合、観光庁長官の登録が必要
[2] 住宅宿泊仲介業の適正な遂行のための措置(宿泊者への契約内容の説明等)を義務付け
なお、民泊法は同法の規定に加え、各自治体が地域の実情に応じて条例でさらに厳しい規制を設けることが可能である。そこで多くの自治体で上乗せ条例が制定されている。既存の旅館業等への圧迫やごみ・騒音などのトラブルの発生を懸念してのことである。例えば京都市では住居専用地域での営業を観光客の少ない1月~3月に限定している。兵庫県では学校近くや住居専用地域、景観地区での民泊を禁止。千代田区でもオーナーらが近くにいない物件は全域で民泊が禁止される。
*『最新行政大事典』2019年7月より。(NPO法人 フォーラム自治研究 嶋津隆文)
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