Code for Japan 新型コロナ対策サイトのためのデータ公開支援 オープンソースとオープンデータで進む行政間コラボレーション(月刊J-LIS2020年6月号より)

地方自治

2020.06.05

Code for Japan 新型コロナ対策サイトのためのデータ公開支援
オープンソースとオープンデータで進む行政間コラボレーション
月刊「J-LIS」2020年6月号


※この記事は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2020年6月号に掲載された記事を使用しております。なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

新型コロナウイルス感染データの課題

 新型コロナウイルスの感染拡大により、連日新聞で陽性者数や検査数、死亡者数、退院数という数字が発表されるようになりました。国民が最も知りたい感染状況をどのように正確に、迅速に伝えていくのか、それが今自治体の情報発信に求められていることです。

 しかしながら、従来型の情報発信では、多くの自治体は各部署でPDF 形式の情報を自治体HPに掲載する程度にとどまり、住民にとっては直感的に何が起きているのかが伝わりにくいものになってしまっていました。また、各部署で集めるデータをタイムリーにサイトの更新情報として使うのかといった点も課題でした。

 

東京都の情報サイトを構築

 今回、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下「Code for Japan」という。)では、東京都の新型コロナウイルス対策サイト(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)の開発を行い、オープンソースで公開することで、前述の課題を解決しました。また、それだけでなく、他の都道府県にも同サイトは広がり、本稿執筆時点で高知県以外の全ての都道府県に波及しています。

 2月26日、小池百合子都知事は、都の新型コロナウイルス感染症対策本部の会議で今後の集中的な取り組みとして「広報体制の強化」を行うことを決定しました。直接の指揮は宮坂学副都知事があたり、データやファクトで状況を伝えるサイトを作る方針とし、声をかけられた組織の中の一つが Code for Japan でした。

 図 東京都の新型コロナウイルス対策サイト 

※出典:東京都「新型コロナウイルス感染症対策サイト」(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

 

データとファクトでわかりやすく表現

 サイトのデザインについても、グラフを中心に事実を淡々と表示していくことを重視しています。また、言語は、英語、中国語、韓国語、やさしい日本語にも対応しています。

 データについては、東京都のIT推進チームにおいてExcelとSharePointを組み合わせたツールを作り、担当課が自身でデータを更新することでサイトも更新できるようになりました。オープンデータでも同じものを公開しています。
 

オープンソースで公開、提案を受け入れ

 また、サイト自体のソースコードをMIT ライセンス(※1)でGitHubに公開し、サイトに関する変更提案を誰でも投稿できるようにしました。これにより、一般の開発者がサイト改善に参加できるようになりました。

 公開後、3週間の間に224名が改善に協力し、750件の提案がなされ、671件の提案が取り入れられています。グラフの見え方の改善やアクセシビリティの向上など、多くの機能がこのような提案に支えられています。

 さらに、他の自治体でもこのサイトを利用して独自のサイトを自由に開発できるようにしました。実際に、ほとんど全ての自治体が同じ形式の特設サイトを公開するに至りました。多くは各地の「Code for コミュニティ(※2)」や有志連合により制作されましたが、中には、群馬県、神奈川県、石川県、大阪府など、自治体自身が公式に展開しているものも存在します。

※1 オープンソースソフトウェアを開発・配布する際に用いられる利用条件などを定めた利用許諾契約書(ライセンス)の一つ。1980 年代にマサチューセッツ工科大学で考案・開発された。

※2 Code for Japan と同じく住民コミュニティとテクノロジーの力で地域課題を解決するため、各地で活動する組織。「Code for X(地域名)」の名で全国に約80 の組織がある。

 

内閣官房IT 総合戦略室および総務省と連携しデータ形式を標準化

 サイトが他自治体に拡大して間もなく、自治体によって提供するデータの形式にバラつきがあることが課題になってきました。また、そもそもオープンデータで公開されておらず、有志連合が自治体の担当者にデータ公開を依頼しても断られる事例も多くありました。そのため、内閣官房IT 総合戦略室や総務省と共に「新型コロナウイルス感染症対策に関するオープンデータ項目定義書」を作成し、総務省から公開してもらうこととしました(※3)

 この定義書では、対策サイトで表示する陽性患者数、検査実施件数等のデータの標準的なフォーマットが定められており、参考にしながらオープンデータを作成することで、情報発信の効率化を図ることができます。

 ※3 政府CIO ポータル「新型コロナウイルス感染症対策サイトのためのデータ公開について」https://cio.go.jp/node/2594

高校生や大学生もサイト作成に参加

 今回の一連の取り組みを行った多くの地域では、高校生や大学生がサイトの重要な部分を担っています。中には中学生も参加しています。他の地域へ爆発的に広がっていくきっかけとなったブログ記事「東京都 新型コロナウイルス対策サイトへの貢献方法を解説(※4)」を書いたのは、高校2年生でした。他の自治体のサイト開発が盛り上がることで、東京都のサイトも注目されアクセス数が増えたうえ、他の自治体で行われた改善内容を東京都でも参考にしています。

※4 https://qiita.com/FPC_COMMUNITY/items/b9cc072813dc2231b2b2

 

自治体の成果物はオープンソースで公開を

 その後、他の自治体においても、成果物をオープンソースで公開する例がでてきました。たとえば、大阪市が新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者や市民の支援制度等を案内する「新型コロナウイルス感染症対策支援情報サイト(※5)」も、GitHub にソースコードを公開(※6)し話題になりました。早速、奈良県生駒市が活用してサイトを公開しています。

※5 https://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu010/covid19/
※6 https://github.com/osakacityict/covid19

 オープンソースで成果物を公開することは、社会全体の知的資本を増加させます。もともと税金で作られたものですし、これを外部に公開することは理屈が通っています。さらに、他の自治体のものを参考にすることで、自治体ごとにゼロから開発をする必要がなくなります。他の自治体で改善が行われた場合、その内容を活かすことができ、無料で追加機能が入手できることになります。どの自治体でも同じようなインターフェースでサイトを利用することができ、住民側にとっても負担が少なくなります。

 今後は、様々な自治体でこのような事例が増えてくるでしょう。皆様も、仕様書にオープンソース公開条件を付け加えてはいかがでしょうか。納品されるソースコードの品質向上も期待できます。




一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事
関 治之
(せき はるゆき)

東日本震災時に情報ボランティア活動を行なったことをきっかけに、住民コミュニティとテクノロジーの力で地域課題を解決することの可能性を感じ、平成25年に一般社団法人コード・フォー・ジャパンを設立。住民参加型のテクノロジー活用「シビックテック」を日本で推進しているほか、合同会社Georepublic Japan CEO、株式会社HackCamp代表取締役社長、総務省地域情報化アドバイザー、内閣官房オープンデータ伝道師等も務める。また、神戸市のチーフ・イノベーション・オフィサー(非常勤)として、神戸市のスタートアップ支援政策やオープンデータ活用を推進している。
https://www.code4japan.org/

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