自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[9]避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン検討会(1)

NEW地方自治

2020.05.06

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[9]避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン検討会(1)

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2016年12月号) 

 8月31日の台風10号により、岩手県岩泉町の高齢者グループホームで9人の高齢者が水害で亡くなったことを受け、内閣府が「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインに関する検討会」(以下、「検討会」という)を設置し、10月27日に第1回検討会を開催した。私も委員の一人として参加したので、その検討内容について報告する。

第1回検討会の議題及び議事要旨

 第1回検討会については、すでに内閣府ホームページで、資料とともに以下の議事要旨が公表されている。

[議題]
(1)平成28年台風第10号による被害について
(2)検討すべき課題と論点について

[議事要旨]
○事務局から、本検討会における課題と論点について説明した上で、各委員より、主に下記についてご意見をいただいた。

避難準備情報の名称変更の必要性については賛否両論あったが、いずれにせよ避難に関する情報をただ伝達するだけではなく、要配慮者利用施設の自助努力を支援するような伝達の工夫や訓練を、地域一体で実施する体制を構築すべき
市町村が当事者意識を持って、災害対策本部(災害発生前の警戒段階を含め)のPDCAをまわしていく仕組みをつくるべき
避難先の施設を含め、避難に関わる環境を整備すべき

 ただ、この議事要旨では議論の内容がよくわからない。以下、もう少し詳しくみていきたい。なお、内閣府の資料に基づいて記述するが、私のコメントは《》で表記する。

平成28年度台風10号による被害について

 8月19日に八丈島近海で発生した台風第10号は、30日17時半頃、暴風域を伴ったまま岩手県大船渡市付近に上陸し、速度を上げながら東北地方を通過して日本海に抜けた。台風が東北地方太平洋側に上陸したのは気象庁が1951年に統計を開始して以来初めてである。

《私は10月15日に現地にうかがったが、小本(おもと)川の広範囲に渡って至る所に氾濫の爪痕が残り、道路がえぐられ、多数の流木が放置されていた。相当に大きな山地水害であったことが見て取れる。被害を受けた社会福祉施設「楽ん楽ん(らんらん)」については、多くのマスコミで断片的に取り上げられているが、全貌はなかなかわからなかった。そこで、時系列で被害を受けた施設の状況を概観する。》

【9時00分頃】
 岩泉町が町内全域に避難準備情報を発令(夜にかけて台風が上陸するという予報を踏まえ、早めの避難行動を促すため、9時頃に発令することを前日の29日に決定。避難準備情報の発令にあわせて避難場所を6箇所開設)。
※社会福祉施設理事はIP告知システムにより、避難準備情報の発令を把握していたものの、その意味(要配慮者の避難開始が求められること)は理解していなかった。

【17時30分頃】
 理事は駐車場が浸水し始めていたため、車を近くの高台に上げた後に楽ん楽んの入所者を(隣接する介護老人保健施設)ふれんどりー岩泉に避難させようと考えた。管理者の他に3人いた楽ん楽んの日勤職員については、台風で帰宅が困難になると判断し、駐車場から車を動かすのにあわせて帰宅させた。車を順次高台へと移動させていったが、4往復目には氾濫流にハンドルをとられ、理事は社会福祉施設に戻れなくなった。その後、社会福祉施設まで歩いて移動しようとしたが、氾濫流に飲み込まれた。
(台風第10号が岩手県大船渡市付近に上陸)

【18時00分頃】
 社会福祉施設のある乙茂(おとも)地区が停電(社会福祉施設は18時30分頃停電)。IP告知システムも停止。

【18時11分】
 夜勤職員から楽ん楽ん管理者の携帯電話に、風が強いため弱まってから出勤したいという連絡があった。その後、携帯電話の電波も不安定になった。この夜勤職員は19時頃に風が弱まったので出勤しようとしたが、道が壊れていて出勤できなかった。

 楽ん楽んでは、急に水位が上がってきたため、管理者が利用者をベッドの上等に誘導したものの、その後、大量の水が一気に流れ込んできた。グループホーム管理者は、水中で身動きがとれない中、怖くてベッドから降りてきた利用者1人を抱きかかえ、柱にしがみついていた。

 ふれんどりー岩泉には職員が8人おり、1階で浸水に気付いた職員が2階にいる職員に知らせようと建物内を歩いているうちに、1階(居室なし)から2階に上がる階段の半ばまで水位が上がってきたため、2階にいた入所者を3階に避難させた。エレベーターが使用できなかったため、階段により1人ずつ避難させた。避難完了は19時頃。

【19時45分頃】
 楽ん楽んの1階が水没(天井近くの時計がこの時刻で停止)。
《理事の話をうかがったが、上記の他に次のような状況があった。

数年前の水害でふれんどりー岩泉が50㎝ほど浸水したが、楽ん楽んは50㎝ほど高い場所にあり浸水を免れていた。
その被害を受けて、小本川のしゅんせつ等一定の改修工事がなされた。
楽ん楽んは川のそばではなく道路に面していたため、ふれんどりー岩泉の要援護者の避難を優先させなければならないと考えた。
ところが、川の上流の橋に多くの流木がひっかかり、川の水が道路にあふれ、道路から流木と大量の水が楽ん楽んに押し寄せた。

 災害は想定できないことが起きたとき、大きな被害をもたらす。楽ん楽んでも、川の上流の橋が流木でせき止められ、(川の反対の)道路側から流木もろとも流れてきたという想定外の状況があったのである。》

本検討会の論点

《本検討会は、12月をめどに結論を出すとしているため、内閣府事務局が以下のような論点を示している。》

【論点1】避難勧告等を受け取る立場にたった情報提供の在り方について
○災害切迫時の注意喚起の仕組み
○平時からの情報提供の仕組み

【論点2】要配慮者の避難の実効性を高める方法について
○要配慮者利用施設の災害計画や避難計画を実効的にするための仕組み
○在宅の要配慮者の避難行動支援を実効的にするための仕組み

【論点3】躊躇なく避難勧告等を発令するための体制の構築について
○発令基準に達した段階で避難勧告等を躊躇なく発令できるための防災体制
○河川管理者等の助言を最大限に活用する仕組み
○避難勧告等の発令判断のための情報収集システム
○住民等への防災情報の提供

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

 

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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