徴収の智慧
徴収の智慧 第19話 徴税吏員は処分吏員である
地方自治
2019.08.01
徴収の智慧
第19話 徴税吏員は処分吏員である
滞納整理業務の内容
滞納整理の内容を見てみると、その主なものとして督促状や催告書を発付し、財産調査を行い、処分(滞納処分又は納税緩和措置)を執行し、履行監視などの債権管理事務を行い、そして時効管理をするなどの事務を挙げることができる。これらは、そのいずれを見ても能動的に行わなければならないものばかりである。それは、5年で消滅時効が完成してしまうという比較的短い期限があるからだとも言えるが、むしろそれ以上に、早期に税収を確保して、それを行政サービスの原資である歳入に充てなければならないという財政上の要請があるからである。滞納整理の実務上、このことを端的に言い表しているのが、早期着手・早期処分であり、法文としては、地方税法第14条の6(差押先着手)と同法第14条の7(交付要求先着手)がすぐに思い浮かぶところである。また、同法の各則には税目ごとに、一定の要件が整ったときは徴税吏員に、差押えをすべき義務がある旨の規定があり、例えば市町村民税については、「滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき」は、「市町村の徴税吏員は、当該市町村民税に係る地方団体の徴収金につき、滞納者の財産を差し押えなければならない」(同法331①一)としている。そこには、「直ちに」とか「速やかに」などの文言は明記されていないものの、要件が整ったときは、漫然と放置することなく、できるだけ速やかに差し押さえる必要があるとの趣旨と解される。なぜなら、「滞納者が税を任意に納付することが期待できない状態になったときには、徴税吏員は、すみやかに、納税義務の履行を強制すべく、地方税法及び国税徴収法の規定に則って滞納処分をすべきである」(平成19年6月29日大阪高裁判決)し、要件が整っているのにそれを放置することは、「合理的な根拠がなく、もはや実質的に公金徴収権の確保が図られない蓋然性(がいぜんせい)が相当程度高く、徴収権者としての裁量を逸脱している」(平成18年1月19日名古屋高裁民事1部判決)からである。このように一定の要件が整った場合には、地方団体の長は、「期限を指定してこれを督促しなければならず、裁量の余地はないのであるから、市が適切な時期に督促を行わずに(従って滞納処分も行わずに)本件各保育料債権を時効消滅させたことは、このように法が行うことを義務付けている行為を行わなかったという意味において、財務会計行為(怠る事実)の違法性を根拠付ける一つの重要な事情といえる」(平成22年3月18日京都地裁第3民事部判決。本件は保育料の徴収に関する裁判であるが、強制徴収公債権として、その早期確保に関する趣旨については地方税の徴収と同旨であると考えられる)のである。
税吏員の本分
滞納整理に携わる徴税吏員の本務を要約すれば、①督促状や催告書で納税を慫慂し、②財産調査によって納付能力を見極め、③処分(滞納処分又は納税緩和措置)によって決着をつけることだといってよい。ところが、地方税の滞納整理では依然として主流となっている感がある「折衝をして分納に持ち込む」という整理の手法は、滞納者による自主納税を見守るという事実上の取扱いであるから、財産調査や処分以前の措置ということになる。納期の失念等によるうっかり忘れの場合も含め、自主納税を促すべく行っている督促状や催告書等による履行の請求(折衝時に行う納税の慫慂も含む)を、どの時点までどれくらいの頻度(ただし、督促状は法定文書であり、1回に限る)で続けるのかについては、それぞれの地方団体の判断によるが、自主納税を促すとして、いつまでも履行の請求ばかり続けていて処分への着手が遅れると、滞納者が安易感を抱き効果が逓減する。
労力や費用対効果の観点から通信催告に徹せざるを得ない少額案件があるにしても、税収に与える影響を考えれば、徴税吏員は、とりわけ高額案件については、優先的に督促状発付後できるだけ速やかに財産調査に着手し、自力執行権を行使すべきである。これが処分吏員としての徴税吏員の本分というものであろう。