著者に訊く! 山村武彦著 『南三陸町 屋上の円陣 ─防災対策庁舎からの無言の教訓─』(ぎょうせい)
地方自治
2019.06.28
著者に訊く!
南三陸町 屋上の円陣 ─防災対策庁舎からの無言の教訓─
山村武彦
こんな悲劇を二度と繰り返してはならない
地上12mの宮城県南三陸町防災対策庁舎。その屋上にまで津波が押し寄せ、もう逃げ場がない。だが、決然と円陣を組み、さらなる脅威に備えようとする人たち――東日本大震災の1年後にNHKが放送し、ネット上に流されていた写真だ。円陣の中には女性や若者たち。彼らを守ろうと「南三陸」と背中に記されたジャンパーや防寒着を着用した職員たちが外側からがっしりと固める。「円陣の写真に大きな衝撃を受けた」と山村武彦さんは振り返る。
1964年新潟地震のボランティア活動をきっかけに防災アドバイザーを志した山村さん。国内外の災害現場の調査は250か所以上に及ぶ。震災前年がチリ地震津波(1960年)50周年だったので、講演などに招かれ、三陸地方を回っていた。顔なじみの町職員も少なくない。「写真を見たとき、衝撃と同時に大きな感動も受けた。不安と恐怖の中、普通ならば取り乱したり、泣き叫んだりするはずなのに敢然と津波を迎え撃とうとしていた。最後まで人間としての誇りと尊厳を失っていない。彼らこそ勇者ではなかろうか」と話す。
奇跡のイレブン
防災対策庁舎の屋上に避難したのは54人。そのうち奇跡的に助かった11人を山村さんは、「奇跡のイレブン」と呼ぶ。体調不良の1人を除く10人に当時の思いを聞き、教訓を導こうとするのが本書だ。「単なる美談に終わらせてはいけない。こんな悲劇を二度と繰り返してはならない」と山村さんは力を込める。
「奇跡のイレブン」は助かったがゆえの複雑な心情に揺れる。そして地域防災計画の前提となる地震被害想定(予想津波高、志津川地区6.7m、歌津地区6.9m)に課題があることを浮き彫りにする。実際には想定を遙かに超える大津波が襲ってきたのだ。
山村さんは、想定には誤差(2分の1~2倍)があることが組み込まれていなかったことを悔やむ。
「発表された津波高さは最初6mだった。【想定どおりだ】とみんなが思ってしまった。その後、予想津波高を気象庁は10mに訂正するが、実際には15.5mもの大津波が押し寄せた。同じ轍を踏まないために、被害想定にはその精度や誤差を明示すべきだ。屋上の円陣の写真は、【住民や職員の命をムダにするな、教訓を活かしてくれ】と訴えている気がするのです」
東日本大震災以降、大災害が起こるたびに「想定外」という言葉が繰り返し語られる。山村さんは「大規模災害は、想定外が起こることを想定しなければいけない」と断言。そのため「住民の生命・財産」を守る自治体職員は、災害時には何が起こるのか展開予測の訓練をすべきと訴える。(鉄)