時事問題の税法学

林仲宣

時事問題の税法学 第6回 税制改正

地方税・財政

2019.06.28

時事問題の税法学 第6回

税制改正
『月刊 税』2016年4月号

租税条約締結

 研究会で税制改正を報告する都内の大学の法学部教授が、70年近くひとつも条文が改正されない憲法の教員と毎年改正される税法の教員とが同じ給与水準というのはおかしいと吠えた。うまいことを言う。ただ20年近く前、彼は、改正が少ない所得税法を担当する助教授だったが、改正の多い法人税法担当の助教授である私と同じ待遇だったことを忘れている。

 平成28年度税制改正は、軽減税率審議に追われて改正、内容が少ないと言われている。大企業優遇の声も聞かれるが、先送りにされたものも多い。女性の社会進出を促す目的も含めた配偶者控除の見直しなどは最たる事項だった。他にも相続税の遺言控除、節税策の報告義務、ビール課税など、気になる報道もあったが、杞憂に終わった。改正項目が少ないなかで画期的なものがある。国際課税の分野ではあるが、昨年、結ばれた、日本と台湾との租税協定締結に伴う国内法整備である(「日経新聞」平成27年11月18日)。

 わが国は96か国・地域と租税条約を締結している(財務省HP・平成28年3月1日現在)。前回のロンドン五輪には204の国と地域の参加があり、国連加盟国は193か国だというから、租税条約の締結国は少ない。もっとも租税条約の目的は、二重課税の防止や租税回避対策、留学生等への免税措置など経済と文化の交流促進にあるから、相手国とわが国との関係が深まれば当然、締結国は増加していくに違いない。

 租税条約の締結が経済・文化の交流の評価であるとするならば、驚くべきことにわが国は台湾と租税条約を結んでいない。驚くべきなどと皮肉っぽい言い方は、国際情勢を理解していないと指摘されそうだが、この未締結問題は税界では周知のこととして憂慮されてきた。

 一般に耳目を集めたのは、台湾の取引先企業に出張していた日本IBMの社員延べ110名が、租税条約未締結のため外国税額控除を受けられず二重課税に陥ったことだ(「読売新聞」平成16年4月8日)。大学キャンパスでも、台湾人留学生が免税されないことも話題となっていた。

租税条約未締結による二重課税

 税務訴訟でもこの問題が露呈した事例がある。遠洋マグロ漁船乗組員の課税地が争点となった事案で、台湾国籍の漁船に乗り組んでいた納税者らは、台湾の居住者と主張したが、東京地裁平成21年1月27日判決は、仮に台湾の居住者であったとしても、租税条約を締結していないから外国税額控除は適用されないとして、納税者の訴えを一蹴している。今回、締結される租税協定は、おかしな話であるが、正式な外交関係がないため日台双方の交流機関による民間ベースのものだが、通常の租税条約とは本質的には変わらないといわれている。遅きに失した話である。

 アジアの国々の中で台湾は最も親日的であることはいうまでもない。最近では、日本統治を肯定的に捉える本の出版が相次いでいる(「朝日新聞」平成28年1月20日)。昨年、わが国でも公開された「KANO1931海の向こうの甲子園」は、永瀬正敏や大沢たかおなど日本人俳優も出演した台湾映画として話題となった。昭和6年の甲子園野球大会に台湾代表として出場し、決勝戦で愛知代表の中京商業に敗れた嘉義農林学校チームの実話をもとにした作品である。この映画を名古屋市内の映画館で観たが、館内では中京高校の生徒を何人か見かけた。85年前の母校の先輩たちの活躍に感激したに違いない。

 そういえば高校生の修学旅行先として、保護者が中国や韓国から台湾を要望することが多いという。かつて日本の大学に留学し、現在、台湾で日台間専門の旅行社を経営する教え子が教えてくれた。政府は、台湾からの訪日客増加に対応するために、台湾に係官を派遣し、現地での事前入国審査の実施を台湾政府と交渉するという(「読売新聞」平成28年2月1日夕刊)。歓迎すべき話である。

 東日本大震災から5年が過ぎた。私たちは、多額の援助が台湾からもたらされたことも、決して忘れてはならない。

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特集:平成28年度地方税制の改正

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