議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第37回 議会(事務)局への異動は「左遷」なのか?
地方自治
2020.12.03
議会局「軍師」論のススメ
第37回 議会(事務)局への異動は「左遷」なのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2019年4月号)
新年度の人事異動で議会(事務)局に着任した人は、今、どんな心境だろうか? 議会(事務)局への配属を志して公務員になる人などレアケースであり、微妙な心境の人の方が多いかもしれない。
私にとっても、正直なところ失意の中での着任だった。
■議会(事務)局のイメージ
前所属の産業政策課では、企業誘致やベンチャー企業支援などを担当し、仕事は面白くやりがいを感じていた。なぜなら、大津市では黎明期の分野であったがゆえに、当該分野の政策立案を任せてもらえたからだ。だが、議会対応に関しては、概して楽しい業務ではなかった。一方、議会事務局に対しても、ルーティンワークを黙々とこなすだけの「議員のお世話係」とのイメージがあった。
おまけに異動後も、「ご栄転だね」と言ってくれる人もあったが、自ら希望して異動したわけでもないのに、「もったいない。そんなところで何の仕事をするんだ?」などといった慰めを聞かされることが多かった。そして私自身にも、議会事務局は主流から外れた所属との意識があったのも否めない。
■議会(事務)局は異文化社会?
しかも着任早々、議会が紛糾した。職員としてはどうすることもできず、これまでの経験や知識など通用しない世界だと実感させられた。新任職員の人たちも、きっとこれから執行部時代とのギャップに戸惑うことも多いだろう。
だが今は、確かに文化は異なるが、執行部での経験、知識が全く役に立たない異次元の世界ではないと断言できる。それは、執行部時代の法務経験はもちろん、一見無関係にも思える産学官連携の経験でさえも、大津市議会と大学の連携を進めるうえで、大いなる支えとなったからだ。そして今では、議会局(*)ほどやりがいのある職場はないとさえ感じている。
■良い意味でのエリート意識とは
ある大津市議会議長が、辞令交付式で「良い意味でのエリート意識を持て」と局職員に訓示したことがある。それは、出向に左遷意識を持ち、市長の方を向いて仕事をする職員に、閉口した経験からのようだ。
今でこそ、議会(事務)局職員の任命権者は議長との認識が、全国的にも定着してきた。しかし、当時は自治体全体の人事ローテーションの中で、どちらかというと非エース級の職員が送り込まれ、本人たちも左遷意識で出向してきていると、議長に見透かされていたのである。
そんな意識では、議会のための本気の仕事など期待できない。当時から二元代表制の一翼を担う議会における、「チーム議会」の一員としての意識を期待しての訓示だったのだろうと理解している。
■「議会局のシゴト」のやりがい
自治体内で局職員が置かれた状況は、独立、対等とされる二元代表制の補助機関ながら、自治体職員の中では圧倒的少数派である。それがゆえに、一人ひとりに割り振られる仕事の重要度、自治体の中での存在感とやりがいは、大きな組織である執行機関にいた時の比ではない。また、これほど自治体の政策全般を俯瞰できる職場も少ないだろう。
たとえ、今は不本意な人事だと感じていたとしても、全てのことをどう捉えるかは自分次第であり、ピンチこそチャンスでもある。議会局への異動を職員人生の多いなるチャンスとして捉え、ぜひ「やる気スイッチ」を入れてもらいたい。
*大津市議会では2015年に「議会局」に改編。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。