政策トレンドをよむ 第13回 多文化共生政策の評価を考える ― 外国人相談窓口編
地方自治
2024.05.14
目次
※2024年3月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第13回
多文化共生政策の評価を考える ― 外国人相談窓口編
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
北海道大学公共政策学研究センター研究員
森川 岳大
(『月刊 地方財務』2024年4月号)
多くの自治体で多文化共生に向けた取り組みを行っているが、各取り組みの効果をどのように評価するかは重要な問題だ。自治体が実施する多文化共生推進事業には、外国人向けの相談窓口や日本語教室、地域住民との交流イベントなど様々な種類があり、各事業の特徴に応じて着目すべき評価の視点も変わる。また、既存の政策評価関連の参考資料では、コストを度外視した難解で高度な分析テクニックの説明に終始しているケースも多く、多忙な自治体職員にとって評価は敷居が高いと感じるのが現実であろう。そこで本稿では、多くの自治体が設置する外国人向けの相談窓口に着目し、現場の担当職員が現行業務のボトルネックや改善策を検討する際に役立つ視点を紹介したい。
外国人向けの相談窓口は、設置される自治体の規模や風土、在留外国人の割合、国籍や在留資格の構成等の違いにより、運用方法や財源などが異なるが、「一元的相談窓口」と呼ばれる窓口を設置するのが近年のトレンドだ。一元的相談窓口とは、在留外国人が在留手続、雇用、医療、福祉、出産・子育て・子供の教育等の生活に係る情報提供及び相談対応を行うワンストップ型の相談窓口であり、出入国在留管理庁の外国人受入環境整備交付金を活用して設置される。外国人受入環境整備交付金は平成30年度の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を受けて予算計上された交付金である。本交付金を活用し、令和4年度末までに247団体(都道府県46団体、政令指定都市19団体、その他の市区町村182団体)が一元的相談窓口を設置した。
このように、外国人が利用しやすい相談窓口の整備が着々と進む一方、設置した窓口がもたらす効果や、改善点を分析している自治体はほとんどない。令和3年度以降、出入国在留管理庁が作成する一元的相談窓口設置・運営ハンドブックにおいても、窓口を設置するまでの流れや具体的な事例が紹介されているが、現行業務の評価や改善策の検討に役立つ説明は含まれていない。外国人受入環境整備交付金の事業実施計画書でも、1日当たりの相談件数の見込みを記載するのみである。現場の担当職員であれば、「相談件数は多いが確実に効果を上げているのか」「相談件数は少ないが本当に必要とされていないのか」「何をすればより良くできるか」といった疑問を持つことも多いだろう。
評価指標には相談件数を設定するケースが多いが、そもそも相談者が相談窓口を知らない場合は、サービスを利用することも当然なく、相談開始から課題解決までに時間を要するケースも多いことから、相談件数の多寡のみで評価するのは難しい。そのため、課題の発生から解決に至るフローに沿ってどこにボトルネックがあるかを探索し、各フェーズに応じて広報や支援体制等の在り方を検討するのが理想的だ。
上記のように①~④の想定されるボトルネックを意識し、窓口の認知度や支援開始数、利用者満足度などの相談件数以外の指標にも着目することで、より精度が高い改善策を検討できる。潜在的なニーズがある外国人へのアンケート調査や経過観察等、把握する難易度が少々高い指標もあるため、「まずは相談件数以外に着目してみる」という意識を持ち、定性的な状況把握により考察してみるのも一歩目としては良いだろう。
本稿に記載の内容は、あくまでも現場の担当職員が現行業務のボトルネックや改善策を検討する際に役立つ視点として整理しており、既存の手段ありきの発想になりがちであることに留意が必要である。一方、相談件数のみに一喜一憂せず、現行業務の改善に向けた洞察を深めるためには必須の視点だ。外国人向けの相談窓口については、導入期を経て、成長期・成熟期に入った自治体も多い。外国人に対してより良い相談支援サービスを提供しようと日々模索する方々に、本稿がその一助となれば幸いである。
〔参考文献〕
・出入国在留管理庁「一元的相談窓口設置・運営ハンドブック」
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