条例化の関門 その4 法律と条例との関係➀

キャリア

2023.05.17

★本記事のポイント★
1 法律と条例との関係の問題については、徳島市公安条例事件で示された一般論を押さえることが重要。 2 国の法令を、全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨のものと、自治体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨のものとにカテゴリカルに二分して、その解釈だけで条例の効力を決定するやり方は、妥当とは言えず、条例による規制の必要性、法律の趣旨等を総合的に考慮して条例の適法性を判断すべき。 3 ワクチン接種促進政策に関して、予防接種法との関係で適法かという問題について考察する。

 

1.徳島市公安条例事件の一般論

 次に、法律と条例との関係について考察します。
 この問題については、徳島市公安条例事件(最高裁昭和50年9月10日判決)で示された一般論を押さえることが重要です。この判決は、法律と条例との関係を考える際に、基本となるもので、皆さんもご存知だろうと思います。判決では、「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない」としたうえで、いくつかの場合について条例の適法性についての解釈を示しています。その内容を簡単に図示すれば、次のとおりです。

 ただ、この一般論は妥当であるとしても、具体的事案についての当てはめとなると簡単ではありません。判例も、個別の事件においては、この一般論に準拠しながらも、条例の趣旨などを具体的に検討して結論を出しています。例えば、神奈川県臨時特例企業税事件においては、第2審の東京高裁平成22年2月25日判決と上告審の最高裁平成25年3月21日判決は、ともにこの一般論に触れつつも、条例が地方税法に違反するかどうかについて異なる結論を採っています。つまり、この一般論が独り歩きして、国の法令を、全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨のものと、自治体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨のものとにカテゴリカルに二分して、その解釈だけで条例の効力を決定するやり方は、妥当とは言えず、条例による規制の必要性、法律の趣旨等を総合的に考慮して条例の適法性を判断すべきだと考えます。
 また、規制の強度が適切であるかについても考慮しなければならないと考えます。例えば、法律がある行為について許可を必要としているにもかかわらず、条例でその行為についてさらに実質的に許可を必要とする規制を設けるなど、屋上屋を重ねるようなことをすれば、過度の規制として条例の規制は違法とされやすいのではないでしょうか。

 

2.法律の解釈次第のところ

 ところで、この一般論では、法律の規定の解釈次第で条例の適法性が決まることになりやすいです。そこで、学説の中には、地方自治の尊重の観点で、法律との関係で条例を適法とする種々の理論を展開するものがあります
 筆者の私見ですが、これらの学説の意図も踏まえて、この一般論の当てはめの際には、地方自治の本旨や国と自治体との適切な役割分担を踏まえた法律の制定、解釈・運用、自治事務について地域の特性の配慮などを定めた地方自治法第2条第11項~第13項の趣旨を十分に考慮して、地方の実情に応ずる事務とする範囲を広げるような解釈が穏当なものではないかと考えています。

 

3.ワクチン接種促進政策 関門3

 第1回で問題提起しましたワクチン接種促進政策に関して、「Q3これらの政策は、関係する法律との関係で適法でしょうか」という問題について考察します。
 法律と条例との関係は、地方自治法や政策法務では大きな論点とされています。ただ、前述のように、徳島市公安条例事件の一般論を踏まえて考えるにしても、具体的事例への当てはめは簡単ではなく、明快に結論を出すことは難しいです。具体的事例について、判例や学説を踏まえつつ、条例による規制の必要性、法律の趣旨等を総合的に考慮して条例の適法性を判断するしかないでしょう。
 第3回で述べましたが、ワクチン接種促進政策のうち、ワクチン接種証明書を提示しなければ飲食店、劇場等のような多数の人が利用する施設に入場できないという政策、特に、自治体がワクチン接種証明書を発行し、利用者に証明書の提示義務を課すとともに、施設側に証明書の確認義務を課し、違反した場合罰則を科すという政策は、条例で定めることができる事務と考えられます。
 問題は、このような内容の条例が、予防接種法との関係で適法であるかということです。以下では、考え方の道筋を示したいと思います。いろいろな考え方があり、判断は皆さんにお任せしますが、ここでお示しする考え方の道筋に沿って検討すると、適切な判断に至りやすいのではないかと思います。

⑴ 目的の比較
 予防接種法の目的規定は、「この法律は、伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防するために公衆衛生の見地から予防接種の実施その他必要な措置を講ずることにより、国民の健康の保持に寄与するとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする」となっています(第1条)。問題の条例も、ワクチン接種を促進して、住民の健康を保持しようとするもので、その目的は、予防接種法の目的と同様のものと考えられます。

⑵ 予防接種法は地域の実情に応じた規制を認めているか
 問題の条例が予防接種法の目的と同様のものとするなら、予防接種法は地域の実情に応じた規制を認めているかを検討しなければなりません。
 この点については、同法が予防接種の実施については都道府県知事や市町村長の権限としていることや(同法第3章参照)、地方公共団体がその地域の実情に応じて住民の健康を保持しようとすることはその本来的な事務に属することから考えると、同法が、接種の促進について地方公共団体が地域の感染状況によって、条例により独自の規制をすることを排斥する趣旨までを含んでいるとは言い切れないと考えます。
 条例で独自の規制を行うことを許容する地域の実情としては、感染状況が酷いということのほか、ワクチン接種率が低いということが考えられます。

⑶ 規制の強度は適切であるか
 問題の条例は、ワクチン接種を間接的に強制するという側面もあると考えます。予防接種法が、勧奨と努力義務にとどめているのは、禁忌者を除いたとしてもワクチン接種にはどうしても副反応がつきまといますので、接種するかどうかは個人の意思に委ねる趣旨で、接種を強制したり、不接種に何らかの不利益を課すことは許されないと考えられます。したがって、問題の条例は、ワクチン接種促進のための政策として考えるなら、予防接種法との関係で問題があるかもしれません。

 

1 礒崎初仁『自治体政策法務講義(改訂版)』(第一法規、2018年)218頁以下では、(第1次)分権改革前後に分けて、法律と自主条例との関係についての種々の学説が詳細に紹介されています。また、詳細については、拙稿「法律と条例との関係に関する議論の整理」『青山法務研究論集』19号(21391.pdf( https://www.agulin.aoyama.ac.jp/repo/repository/1000/21391/21391.pdf))を参照してください。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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