月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2023年4月号 特集1:“共創”で地域力を高める、特集2:Z世代の「強み」を生かそう!
地方自治
2023.03.30
目次
●特集1:“共創”で地域力を高める
新年度を迎える。コロナ禍の出口がようやく見えてきた中で、自治体はこれから新たな地域づくりを進めていかなければならない。だが、コロナ禍が収束したとしても、不安定な国際社会・経済、気候変動と災害の多発、さらにデジタル化の進展など、VUCAの時代は変わらない。そこで重要になるのが“共創” だ。多様なステークホルダーが対話・協働・連携して、新しい政策を生み出し実践することにより、不透明で変化の激しい時代環境に対応していくことができる。今月はこうした“共創” による地域づくりについて考えたい。
■共創と自治体政策──共創の成功条件と展開可能性
松下啓一 地方自治研究者・政策起業家(元相模女子大学教授)
共創がトレンドになっている。絶対権である主権を持つ国とは違って、助けあいながら市民の幸せな暮らしを実現する地方自治の場合、共創との親和性は高い。共創は、新たな自治を拓く概念として期待されるが、他方、行動原理が違う人や組織が関わるため、扱いにくい概念でもある。本稿では、共創の基本を押さえたうえで、その成功条件と展開可能性を考えてみたい。
■地域力を高める“共創”と“アジャイルガバナンス”
──“地域力”の三題噺について考える/妹尾堅一郎
「地域力を高めるための〝共創〞と〝アジャイルガバナンス〞について書け」。これが編集長からのご依頼である。産業やビジネスを研究する者にとっては難題だ。何をどう考えれば良いのか。ここは順番に考えるしかない。すなわち、まず〝地域力を高める〞とはどういうことかを確認し、次にそれに資する〝共創〞と〝アジャイルガバナンス〞とは何かを整理し、その上で両者の関係するところを考察する、という手順だ。いわば、共創・アジャイルガバナンス・地域力の三題噺であり、「地域力とかけて、共創とアジャイルガバナンスと解く」という大喜利かもしれない。はてさて、読者と編集長に座布団を頂戴できるだろうか…。
■シビックテックと共創/東 健二郎
シビックテックは、「共創」の多様な意味合いを説明するもので、「青年期」として活発な取り組みがなされている。決して生易しいものではないが、今後もオープンデータや市民参加等を通じて、共創の文化を育む役割を果たしていくだろう。
■共創を生み出す対話とファシリテーション/加留部貴行
VUCAといわれる変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が入り混じる時代の中で、多様なステークホルダーが互いの「違い」を持ち合わせながら対話・協働・連携を通じて「共創」する関係性を築いて乗り越えようとしている。このような新たなソーシャルキャピタル(社会関係資本)を生み出す「対話の場づくり」にもファシリテーションは求められているのだ。
■地域志向型PBLで地域の共創力を高める/田中 優
人を育てるには環境が重要であり、地域の関係主体に触れ・交流するような「地域志向型PBL」によって、参加職員(人材)の学びが大きくなることに相違はない。地域に関わる主体が自律的につながり、相互に連携しながら人を育てていくように、自治体組織内部に閉られた職員育成ではなく、地域に開かれたその意味での「公共人材」育成を、住民や各種地域団体との交流・ネットワークの中でシステマティックに志向していかなければならない。
■公民連携・共創でSDGsを進める/高木 超
近年、急速に広がったSDGs。その実現に向けて、すべての国とすべての主体が協同で取り組んでいくことの重要性が示され、目標のひとつにパートナーシップが掲げられ、公民連携(官民連携)の推進も含まれている。ここでは自治体が企業や団体、教育機関と連携して進める二つの事例を紹介しながら、持続可能なまちづくりにおける、共創について考えたい。
●特集2:Z世代の「強み」を生かそう!
1990年代半ばごろから2010年代序盤に生まれた層を指すとされるZ世代という言葉が広まっています。生まれながらにしてIT環境に囲まれたデジタルネイティブであり、中堅・ベテラン層とはさまざまな点で異なる特徴をもつとされる彼ら。その中でも、特にこれからは、学生時代の多くをコロナ禍の下で過ごした代が社会に出ていくこととなります。イマドキの若者は…と侮ることなかれ。若者との関わりに慄くことなかれ。Z世代とされる若者たちの特質をよく知り、とはいえステレオタイプには捉えず、一人一人の力――「強み」をどう伸ばしていけばよいでしょうか。若者・若手職員が主体となったまちづくりや市民協働の事例などを通して、そのヒントを探ります。
■若者の力を生かした地域創生──次世代による次世代のためのまちづくり/浦崎太郎
新潟県南魚沼市では、雪まつりの再興に向けて高校生を実行委員に迎え入れたところ、一気に活気を取り戻した。その後、ボトムアップとトップダウンが重なり、人財コンソーシアムの設立、中高生の地域でのチャレンジを後押しする「You Key プロジェクト」事業がスタート。同プロジェクトにおける中高生の相談役として南魚沼に駆けつけた大学生の中には、かつて雪まつりで実行委員を務めた者も多数いた。20代が10 代を支援する好循環の輪が地域に広がっている。
■対話による「若者×地域づくり」の可能性/後藤好邦
失敗と成功を繰り返し、若者は自信と経験、人脈を得て成長する。正解のない時代、多少のリスクは気にせず若手に任せ、主体性と協働性を伸ばすことが大切だ。対話を通じて大人世代と彼らの価値観を融合させることで、次代にマッチした新たな取組みが生み出されるだろう。
■〈取材リポート〉若手職員が地域の魅力発信紙「地域へDive!」づくりや政策提案にチャレンジ/茨城県小美玉市
茨城県小美玉市は、さまざまな形で若手職員の育成に取り組んでいる。21年度から「地域へ飛び込む職員プロジェクト」を実施。若手職員チームが地域の魅力を伝える広報紙『地域へDive!』づくりに取り組み、地域に一歩踏み出すキッカケの場となっている。また、若手職員のグループが地域課題を洗い出し、課題解決のための政策提案を行う「政策形成実践研究」にも挑戦している。
【新連載スタート!】
■自治体職員なら知っておきたい!公務員の基礎知識
職業としての公務員に必要な専門知/高嶋直人 ■そうだったのか!! 目からウロコのクレーム対応のワンヒント
人は自分にとって不利な話は聞きたくない/関根健夫 ■〈リレー連載〉Z世代ズム~つれづれに想うこと
向き合わないといけないこと/中西咲貴 ■寺本英仁の地域の“逸材”を探して
「A級グルメ」を支えた影の立役者/寺本英仁 ■地域経済再生の現場から~Bizモデルの中小企業支援
設備投資せずアイデアで販路拡大──しなやかに変化する夏みかん菓子店の挑戦/獅子野美沙子(はぎビズ) ■地方議会シンカ論
議会改革度調査の狙いとは/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所)
●キャリアサポート連載
■管理職って面白い! 一挨一拶/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ 2022年度、心に残った3つの言葉/後藤好邦 ■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな〜れ!/小野まゆみ ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/釼持麻衣(関東学院大学地域創生実践研究所) ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/八鍬むつ美
●巻頭グラビア
自治・地域のミライ
原﨑智仁・福岡県福津市長
市民参画と対話によるまちづくりで人も経済も循環する地域に
二つの政令市の間にある立地の良さや、海や山など抜群の自然環境を活かし発展を続ける福岡県福津市の原﨑智仁市長(52)。「対話」を重視した市民参画を進めながら、循環型のまちづくりをめざす。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
一橋治済への転生者は誰?──源頼朝たち転生者(五)
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
「福島型漁業」が生まれた理由──汚染処理水放流⑶いわき市の漁師
原発事故、続く模索㊲
「スズキから放射能が出た」。福島県内で多くの人が話題にしていた。いわき市沖で獲れた個体から放射性セシウムが検出されたのだ。だが、間違うことなかれ。国の基準値より低く、「安心のために」と福島県魚連が設けた自主基準値を上回っただけだ。こうして何かあると不安が広がる状況に、原発の「処理水」放出では「やっぱり新たな風評被害が起きるのではないか」と関係者は気を揉む。風評被害を生む構造は解消されたわけではない。
□自治体政策最前線──地域からのイノベーション
「ヤングケアラーSOS」──サポーターを無料で派遣しヤングケアラーを支援(群馬県高崎市)
群馬県高崎市は、ヤングケアラーの家庭に家事援助などを行うヘルパー(サポーター)を無料で派遣する「ヤングケアラーSOS」を実施している。家庭の事情などによって家族の介護・世話や食事の支度などを日常的に行っているヤングケアラーの負担軽減が目的で、全国自治体初の取り組み。支援担当を教育委員会学校教育課に置き、福祉部署や学校、関係機関などと連携・協力しながら迅速な支援を図っている。
●Governance Focus
□「ユーチューバーがいない村」からの脱却
──長野県泰阜村、売木村。全国最後の光回線化を、どう利用していけるのか/葉上太郎
政府が力を入れているデジタル田園都市国家構想。高速通信網が整備されれば、それだけで都市部から田舎へ移住者が来るかのようなイメージで語られている。果たしてそうなのか。全国にはようやく光回線網が整備されたばかりの自治体もあり、「さて、これからどう利用していくか」と頭を悩ませているのが実情だ。ハード整備は単なる基盤整備にすぎない。暮らしをどう便利にし、何を発信していくか。そして格差を生まない対策も必要だろう。
●Governance Topics
□子どもの視点を中心に地域共生を考える──第8回ふじのくにニッポンの縁側フォーラム
社会福祉の現場に携わる人などが集まる、毎年恒例の「ふじのくにニッポンの縁側フォーラム」が2月25日、静岡市で開催された(オンラインとのハイブリッド方式)。8回目となる今回のテーマは「小さな風になれたなら〜地域共生のこれからを考える」。コロナ禍の中で不登校や自殺が増えるなど、さらに厳しい環境に追い込まれている、子どもたちからの視点を中心に「地域共生」について語り合った。
□今後の施策につながる調査研究を表彰──第13回都市調査研究グランプリ(CR‒1グランプリ)表彰式
(公財)日本都市センターは、1月30日に第13回都市調査研究グランプリ(CR-1グランプリ)表彰式を都内で行った。全国の都市自治体や自治体職員による優秀な調査研究を表彰した。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える 『赦し』/綿井健陽 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『公務員なら挑戦したい資格ガイドブック』庄田秀人]
●カラーグラビア
□つぶやく地図/芥川 仁
有明の海と共生するタコ縄漁──福岡県柳川市矢留本町 □技の手ざわり/大西暢夫
伝統の技で職人が生み出す手作りの高級筆──【豊橋筆職人】川合福男さん・中西由季さん(愛知県豊橋市) □わがまちDiary──風景・人・暮らし
ものづくりに対する「心と技」が暮らし・祭りに息づく/岐阜県高山市 □クローズ・アップ
地域の芸術とは何か。思いと感性が受け継がれる──長野県泰阜村、唯一無二の「学校美術館」
■DATA・BANK2023 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
【特別企画】
□SIBが変える自治体の介護予防事業
──豊田市「ずっと元気!プロジェクト」の挑戦