議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第79回 「政策をつくれる議会」に求められるものとは?
地方自治
2023.06.15
本記事は、月刊『ガバナンス』2022年10月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
筆者は、熊本県山鹿市で開催された「今こそ、政策をつくれる議会に!!」と題するシンポジウム(注1)で、パネリストとして登壇した。今号では、その場で語ったことに補足して、議会の政策立案体制の確立に関して論じたい。
注1 「輝け議会!!対話による地方議会活性化フォーラム」主催。
■長期計画の重要性
行政の継続性と選挙結果の尊重とのジレンマは、首長が交代した時に政策の劇的な転換の形で顕在化する。パネルディスカッションで「それに議会はどう対処すべきか?」との質問を、北川正恭・早稲田大学名誉教授から投げかけられたので、筆者は「総合計画に基づく政策によって統治すべき」と答えた。
総合計画は予算単年度主義の欠点を補い、行政の継続性を担保する役割も担うからだ。同時に執行機関が予定する政策を市民に公開し、透明性の確保にも資する。
ところが議会が立案する政策は、市民への公開性に劣る。議会では事前に策定した長期計画に基づく活動が、一般的ではないからだ。だが、これからは議会でも単なる思い付きではなく、長期計画に基づく政策であることが求められるだろう。
■法定権限優先の政策立案を
一方、政策立案手法に関しては、特に議会の規模に起因する考え方の相違が大きい。多くの小規模議会では議会(事務)局に法務担当者を配置する余裕がないこともあり、首長への政策提言に止まり、議会立法を選択肢と認識しない傾向にある。だが、要望の延長線上の活動が、政策立案といえるだろうか。
議会の機関としての性格が、憲法上「議事機関」とされていることを根拠に、権能的には条例制定権を保持する立法機関でありながら、あえて地方議会の立法機能を軽視する見解も散見される。
だが、憲法に「立法機関」ではなく「議事機関」とされた理由は、当時の日本政府とGHQの交渉での法的議論とは無縁な経緯が、歴史的事実として明らかになっている(注2)。一方で「自治立法権は、憲法で保障された自治の中核的な権限」(注3)とされ、首長だけでなく、議会にも付与されている権限である以上、当事者都合での事実上の権利放棄など許されるのだろうか。むしろ法治国家における公的機関の不作為として、憲法軽視の誹りを免れないのではないだろうか。
注2 今井照「地方自治講義」(ちくま新書、2017年)。
注3 幸田雅治「個人情報保護条例改正に地方議会はどう向き合うか」(自治日報2022年8月1日号)。
■独自政策サイクルの必要性
したがって、「政策をつくれる議会」であるための第一義的要件は、条例制定権を優先的に活用するために、議会立法を可能とする体制を整備すること、そしてその持続可能性を担保するための、PDCAサイクルを確立することであろう。
具体的には、議会内での合意形成に資する議員間討議の場の制度設計、局職員ともフラットな議論ができる「チーム議会」文化の醸成。法の想定外である、任期を超えた機関としての継続性や政策立案内容の公開性の担保など、独自の政策立案システムの整備。成果レベル向上のため、議会活動評価と政策サイクルをリンクさせることも必要である。
大津市議会ではそのような機能を、議会版実行計画「大津市議会ミッションロードマップ」(注4)として、通任期での「政策立案」と「議会改革」の目標を行程表化し、外部評価を受ける制度を運用している。すべての地方議会で、それぞれの置かれた状況に適合する、独自の政策サイクルの確立が求められるのではないだろうか。
注4 詳細は、清水克士「政策に強い議会を創る」(日経グローカルNo.321 2017.8.7号)参照。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
第80回 「通年議会」導入の意義は何だったのか? は2023年7月20日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。