最新法律ウオッチング

月刊「地方財務」

最新法律ウオッチング―困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(2024年4月1日施行)

自治体法務

2022.08.10

※2022年6月時点の内容です
最新法律ウオッチング 第118回 困難女性支援法
(『月刊 地方財務』2022年7月号)

 2022年の通常国会において困難な問題を抱える女性への支援に関する法律が成立した。

 従来、居場所がなく家出した若年女性、性虐待・性的搾取の被害者、家庭関係の破綻、生活困窮等の困難な問題を抱える女性に対しては、1956年に制定された売春防止法に基づく婦人保護事業による支援が行われてきたが、近年、女性が抱える問題が多様化、複合化、複雑化し、婦人保護事業として行われている支援の実態と乖離が生じていた。その上、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、支援を必要とする女性が増えているにもかかわらず、支援につながらないという実態も浮き彫りになり、現場の支援者等からも、売春を行うおそれのある女子の保護更生について定める売春防止法を根拠とする従来の枠組みから脱却し、ニーズに応じた新たな女性支援の枠組みを構築することが強く求められていた。

 こうした状況の下、女性が日常生活や社会生活を営むに当たり女性であることにより様々な困難な問題に直面することが多いことに鑑み、性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により困難な問題を抱える女性や、そのおそれのある女性の福祉の増進を図るため、支援のための施策を推進し、もって人権が尊重され、女性が安心して、かつ、自立して暮らせる社会の実現に寄与することを目的として、婦人保護事業で行われている支援の実態を踏まえ、困難な問題を抱える女性への支援に関する必要な事項を定める法案が参議院の議員立法として提出され、成立した。

困難女性支援法

●基本理念等
 基本理念として、困難な問題を抱える女性が、それぞれの意思が尊重されながら、最適な支援を受けられるようにすることにより、その福祉が増進されるよう、多様な支援を包括的に提供する体制を整備すること、関係機関と民間の団体の協働により、早期から切れ目なく支援が実施されるようにすること、人権の擁護を図るとともに、男女平等の実現に資することを旨とすることを定めた。

 また、国や地方公共団体は、基本理念にのっとり、困難な問題を抱える女性への支援のために必要な施策を講ずる責務を有し、施策を講ずるに当たっては、関係地方公共団体相互間や、支援機関と関係機関との緊密な連携が図られるよう配慮しなければならないこと、厚生労働大臣は、困難な問題を抱える女性への支援のための施策に関する基本方針を定め、地方公共団体は、基本方針に即して、施策の実施に関する基本的な計画を定めることとした。

●女性相談支援センターの設置等
 売春防止法における婦人相談所、婦人相談員、婦人保護施設の名称を改めた上で、女性相談支援センターの設置、女性相談支援員の配置、女性自立支援施設の設置について規定し、女性相談支援センターは困難な問題を抱える女性の立場に立った相談、一時保護等を行うこと、女性相談支援員は困難な問題を抱える女性の発見に努め、その立場に立って相談に応じ、専門的技術に基づいて必要な援助を行うこと、都道府県は、困難な問題を抱える女性の意向を踏まえながら、女性自立支援施設に入所させて、保護を行うとともに、自立の促進のために生活を支援し、あわせて退所した者について援助を行うこと等を定めた。

 また、地方公共団体は、困難な問題を抱える女性への支援に関する活動を行う民間の団体と協働して、その自主性を尊重しつつ、困難な問題を抱える女性の意向に留意しながら、発見、相談その他の支援に関する業務を行うこととした。この場合における民間の団体の活動に要する費用への補助についても規定した。

 さらに、地方公共団体は、困難な問題を抱える女性への支援を適切かつ円滑に行うため、関係機関等により構成される支援調整会議を組織するよう努めるものとし、支援調整会議は、必要な情報の交換や支援の内容に関する協議を行うものとした。

●売春防止法の改正等
 この法律の施行に伴い、売春防止法のうち、補導処分について定める3章と保護更生について定める4章を削り、婦人補導院は廃止することとした。

●施行期日
 この法律は、一部を除き、2024年4月1日から施行される。

国会論議

 国会では、婦人保護施設の利用者の生活費が少ないことや婦人相談員の待遇改善についての対応について質問があり、政府から、2022年度予算では、婦人保護施設入所者の生活水準の向上を図るための一般生活費の基準単価の改善や、婦人相談員の適切な処遇の確保に向けた婦人相談員手当における経験年数に応じた加算の設定と期末手当の支給に必要な経費を盛り込んでおり、現状を把握しながら支援体制づくりに努めたいとの説明がされた。

 

 

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