政策トレンドをよむ 第18回 「育成就労」導入とその影響

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2024.10.04

目次

    ※2024年8月時点の内容です。
    政策トレンドをよむ 第18回
    「育成就労」導入とその影響

    EY新日本有限責任監査法人FAAS事業部
    入山 泰郎
    『月刊 地方財務』2024年9月号

     2024年6月、外国人労働者を受け入れる在留資格「育成就労」を設けることなどを定めた改正出入国管理法等が国会で可決・成立した。同法は2027年までに施行される予定である。

     育成就労は現行の「技能実習」に代えて導入されるものである。技能実習制度は技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とし、母国での経済発展を担う人材づくりを制度上の建前としている。実際に母国に帰る人材の比率が高く、2018年に「技能実習1号」で新規入国した人材(約14万人)のうち、2024年2月14日現在にすでに帰国した比率は62.3%である(1)。これが育成就労においては、特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保することを目的とすることに変わる。

    〔注〕
    (1)第6回外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会(厚生労働省)「参考資料3 育成就労制度の創設等に係る法案について」

     このように、人材確保を明確に目的と打ち出すこととなった制度変更の背景には、第一に、様々な業種において深刻化する人材不足がある。JICAなどがまとめた推計によると、政府が目指す経済成長を達成するには2040年に外国人材が688万人必要だが、外国人材の供給は591万にとどまり、97万人が不足する見通しである(2)

    〔注〕
    (2)「外国人材、40年に97万人不足」(日本経済新聞、2024年7月4日)

     第二に、国際的な人材争奪戦の激化がある。韓国、台湾といった我が国の近隣諸国・地域においても低・中熟練労働者の受入れを促進する制度変更が進んでおり、また長らく続いたデフレ経済や近年の円安の影響もあって賃金面でも我が国の就労先としての魅力は低下している。

     こうしたことから育成就労制度は滞在3年間の後に、別の在留資格である「特定技能」に移行することが想定された制度設計となった。具体的には、育成就労の受入れ対象分野は特定技能と一致させ、キャリアアップとともに長期滞在する道筋が明確になった。また、技能実習では原則として別の企業への転籍は認められなかったが、育成就労においては同一企業での就労が1~2年を超えている場合は一定の要件下で転籍が認められることとなった。

     地域の産業・経済や社会への影響が大きいのは、この転籍制限の緩和だろう。現行の特定技能においても転籍は認められているが、地方圏の自治体関係者からは、転籍可能であることにより地域外、特に東京圏へ人材が流出することが懸念されているという声をよく聞く。育成就労においても同様の懸念が生じることになるであろう。

     しかし、これは日本人でも同じことである。外国人材も給与を含む処遇や、生活環境が良好でないと感じられれば、現状と異なる選択肢を考えるのは当然である。しかも、外国人材は母国語のSNSなどを通じて他の企業・地域の給料や生活環境などについて頻繁に情報交換を行っている。日本人と同様、外国人についても、企業や地域で適切に受け入れるための環境づくりのための不断の努力が各企業・地域に求められることになる。

     それでは自治体は何をすべきなのか。第一に、企業の取組を後押しすることである。各企業においては、個々の人材が適正なスキルや経験を身に付けられるようにするとともに、それを適正に評価して賃金を含めた処遇に反映させる必要がある。そのためには外国人材の力も取り入れて持続的に企業価値を向上させていくことが必要となる。

     そうした企業を支援する取組として、例えば群馬県は2021年に「多文化共創カンパニー認証制度」を導入している。外国人材を雇用し、「仲間」として迎え入れ、ともに活力を創り出すための特に優れた取組を行う事業者を認証するとともに、その優れた取組を積極的に発信することにより、県内事業者による外国人材の受入れ・共生・活躍につながる取組を促進している(3)

    〔注〕
    (3)内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局(調査実施事業者:EY新日本有限責任監査法人)「地方創生に資する地方公共団体の外国人材受入関連施策等について」(2023年1月)

     第二に、各地域で働き、生活することの魅力を高めることである。育成就労として、そしてその後の特定技能として、今後はより長期的に外国人材が働くことが可能になる。地域としても、長期の在留を前提として外国人材を受け入れることになる。より地域社会に溶け込めるよう、外国人材、そして地域住民にもサポートが必要である。

     例えば、大阪府泉佐野市は、一般社団法人泉佐野市外国就労者サポートセンター(iFOS)を2022年に設立し、外国人労働者の職業生活、日常・社会生活、日本語学習に対する支援や、職場内における労働環境の整備に向けた支援、多文化共生社会の実現に向けた地域との交流支援等の事業を委託している(4)

    〔注〕
    (4)内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局(調査実施事業者:EY新日本有限責任監査法人)「地方創生に資する地方公共団体の外国人材受入関連施策等について」(2024年3月)

     こうした取組を通じて、企業として、地域として、日本人にも外国人にも魅力ある職場・地域づくりを進めていくことが今後ますます期待される。

     

     

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    持続可能な社会のための科学技術・イノベーション | EY Japan
    多様な人材の活躍推進(DEI、外国人材の受け入れ・共生、新たな学び方・働き方) | EY Japan

     

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