地域の助け合いが自分と家族の命を守る第一歩!~「地区防災計画」の作り方~

葛西 優香

地域の助け合いが自分と家族の命を守る第一歩!~「地区防災計画」の作り方~ 第12回 防災士を主体とした地区防災計画作成の取組み

NEW地方自治

2024.10.24

東日本大震災・原子力災害 伝承館 常任研究員・株式会社 いのちとぶんか社 取締役
葛西 優香


 2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震が発生し、翌日朝には、原子力災害の影響で福島県双葉郡浪江町の住民は一斉避難となった。避難所を経由し、それぞれの親戚や友人の家などを辿り、同じ町の中に住んでいた住民は離れ離れの生活を行うこととなった。2017年3月31日に、避難指示が一部地域で解除され、町に「戻る」「戻らない」「通う」という多様な選択をして、浪江町住民は生活している。筆者は現在、その浪江町に移住し生活している。今回は、この地域で生まれている住民主体の地区防災計画作成過程を防災士の関わり方を示しながら書きたいと思う。

1.居住している住民を知るところから始めよう!

 一度、町を離れて生活した住民は、避難先での生活が定着し、戻る選択をしていない住民もいる。また、町に戻りたいが職場や教育環境などが整わず、戻ることができない状況も発生している。本稿で着目する浪江町樋渡・牛渡行政区は約200世帯の住民が生活していた。しかし、震災後、各世帯の住民が戻っているのか、否か、誰も把握できない状態になっていた。さらに、地域内には震災後に移住した住民も加わり、暮らしが営まれている。そこで、まずは、「現在居住している住民を知るところから始めよう!」と、防災士である筆者含めその他防災士取得者の住民、行政区長が立ち上がった。一軒一軒訪問し、「現在、住んでいるのか」「何人で住んでいるのか」「自宅はあるが普段はあまり家にはおらず、避難先と二拠点で生活していて浪江町に通っているのか」など、世帯ごとの状況を把握した。個人情報の取得となるため、災害時に助け合うために行政区内の住民に情報は共有される可能性があるということを伝え、了承を得ながら、話を伺った。その時、不信感を示す住民もいた。新しく住み始め顔も知らない住民が急に訪れるからだ。不信感を取り除くために行政区長にもらった署名を手元に各家を回るようにした。インターフォンを押しても出て来ない家もあった。しかし、それだけのことでめげていては災害時も乗り越えることはできない。動き出した住民で言葉を掛け合いながら、名簿作成を続け、地域内の現居住者を概ね把握することができた。

2.「助け合える」関係づくり

 次に取り組んだことは、芋煮会の実施である。名簿を作成したらすぐに人を集めて防災計画作成に取り組める状態にはなり得なかった。顔を合わせて、少しずつ「知り合い」になることから始めた。震災前から定期的に行われていたと行政区長から教えていただき地元の住民に作り方を教えてもらいながら、美味しい芋煮を囲って集まった。助け合える関係を築くには、教え、教えてもらうという関係性を日頃から形成しておき、お互い様の助け合いが習慣となって、自然と地域内の人間関係に組み込まれることがいざという時の助け合いにつながる。


定期的に開かれていた芋煮会で活躍していた婦人部の皆さま。手際がいい!

3.「その場で」伝える重要性

 集まりの中で、今後防災計画を作成することを伝え、次回の開催日程もその場で伝えた。重要なのは、人が集まっている場所で「次の集まりの日」を提示することだ。改めて各住戸に呼びかけをするとなると、またさらに手間と時間がかかってしまう。「その場で」伝えることを意識した。


集い、対話を続けることで、かつての仲間との関係性を確認し合う。

4.地区防災計画を更新し続けるために

 ほかにも盆踊りやバーベキューなど定期的な集まりを通じて、関係性を深めたうえで、福島県庁危機管理課が推進している地区防災計画作成の手順に習って、県とも協働体制を築きながら、地区防災計画作成に臨んだ。DIG(災害図上)訓練を通じて、地域の危険箇所を地図上に記入し、居住地ごとにふさわしい避難所を改めて確認した。震災後に移住した住民は地元住民から過去の水害履歴などを教えてもらい、自分たちの行動指針を整理した。さらに地域内で一人暮らしをしているご高齢の住民をどのようにサポートするか、個別避難計画作成につながる話し合いも行われた。その際に、災害時のサポート体制として役場、社会福祉協議会など住民同士以外のサポート体制も整備されているが、周辺に住んでいる住民が知らないことが発覚した。その体制が整っていることを把握していなければ、災害時に先にサポート体制が動き、避難が完了しているにも関わらず、後から助けに行った人が「〇〇さんがいない!」と正しい状況が把握できない状態となってしまう。全ては一度、話し合って現状の体制を確認し合うことから始まる。また、地区防災計画は作成して終わりではなく、継続的に更新し、常に現状にふさわしい内容で作成を続けることが必要である。

5.防災士の役割とは?

 この時、防災士の役割は、決して知識をひけらかすことではなく、知っていることを語りつくすような役割でもない。率先して動き、周りの方々の意見が出るような場づくりを行い、次の更新の際の日程を決め、定期的に集まることができる機会を生み出すことが大きな役割である。そして作成の際に、わからないことや判断に困った時にさっと手を差し伸べられるように常に最新の防災情報を把握しておくことが重要だ。樋渡・牛渡行政区での活動が知られ、他行政区でも防災士取得者が現れ、地区防災計画作成が動き出している浪江町。各地域に合った計画を作成し、元々住んでいる人、新しく住み始めた人が助け合える環境づくりが促進されようとしている町の動きにこれからも注目してほしい。

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