徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第13話 青い鳥

地方自治

2019.07.04

徴収の智慧

第13話 青い鳥

『月刊 税』2015年7月号

滞納整理の地域差

 地方税の滞納整理では地域による差が著しいように思う。それはすなわち、滞納処分への取組みの差として顕著に表れている。そしてその背景には、おおまかに言えば、都市と地方の差であったり、地方団体の規模による差であったり、首長や上司の滞納整理に臨む姿勢の違いであったり、地縁によるしがらみなどがありそうである。

 こうした地域による滞納整理の実情の違いの中で、しばしば耳にするのは、「研修で教わるのは滞納処分の方法ばかりで、顔見知り行政が幅を利かせているわが町(村)ではとても実務に活かせない。」とか「滞納処分は、悪質な滞納者に対してするものだから、むしろ研修では滞納者を説得する技術なり極意なりを教えてもらいたい。」などといった声である。このような本音とも諦めとも受け取れるような現場の声を聞くたびに慨嘆せざるを得ないのだが、これが紛れもない地方税の滞納整理の現実(の一部?)なのであろう。第一線で滞納整理を担当している職員にしてみれば、その地方団体なり職場なりを支配している雰囲気や地縁によるしがらみなどに抗(あらが)うことはできないのであろう。

もめごとを嫌う傾向

 このような環境の中では、滞納処分を執行することによって波風を立たせること自体が、地域の平穏や濃密な人間関係を破壊する要因だとして敬遠されるのだと思う。一部の地方団体にはこのような事情が存在しているからこそ「粘り強い説得の方法」とか「滞納者の氏名公表」などといった、滞納処分以外の方法による滞納整理が模索されているのではないか。つまり、強制力を伴わない方法により穏便に滞納の解消という目的を達する途が求められているのであり、それがその地域固有の事情として現に存在しているのである。地方税の滞納整理では、程度の差はもちろんあるが、まだまだこのような実情が大なり小なり存在しているから、「滞納者を説得して分納に持ち込む」のが滞納整理の主要な事務となってしまっているのではないだろうか。

税務行政のメルクマール

 人口の集積度や人の移動の頻度が、都市部とその他の地域とではおのずと異なっているから、この両者を同列には論じられないという言い分については、心情的に理解できないこともないが、ことは滞納整理という税務事務に関することであり、都会だとか地方だとかに関係なく、何よりも公平でなくてはならないのである。いずこに住んでいようが、税務行政のメルクマールは公平であるということに尽きる。税務行政において、個々の納税義務者の事情を尊重し、優先していたら、間違いなく税務行政は停滞し、税収の確保はままならなくなること必定であり、そうなれば財政の破綻をきたすこととなって、そのつけは他ならぬ納税者である住民が負担するはめになるのである。税務行政の公平性と効率性が求められる所以である。

ないものねだりの滞納整理

 以上のような地域の事情が、一部の地方団体における滞納整理の進捗を阻む要因として立ちはだかっているからこそ、そこに「粘り強い説得の方法」とか「滞納者の氏名公表」などといった、滞納処分以外の方法による滞納整理を求める声があるのだろう。しかし、これは幸せを求めて旅に出るチルチルとミチルで有名な「青い鳥」(ベルギーの詩人であり劇作家でもあるモーリス・メーテルリンクの戯曲(童話劇)の話にも似て、あるはずもないものを希求する願望のようなもので、凡そ現実的ではない。

 滞納整理に求められているのは、先に述べた公平性のほか、確実性であり効率性である。つまり、催告を繰り返すなど同じ事務を反復して前に進まなかったり、捜索までしておきながら分納を認めてしまったりするなど後戻りしてしまうようなことがあってはならないということである。最近、テレビのワイドニュースなどでもしばしば取り上げられている「税金Gメンの活躍」なるタイトルの番組を見ていると、残念ながら、こうした「おかしな実務」が平然と罷り通っている例が珍しくないことを危うく思うのは私だけであろうか。

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鷲巣研二

鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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