徴収の智慧 第12話 悉無律思考(しつむりつしこう)

NEW地方自治

2019.07.04

徴収の智慧

第12話 悉無律思考(しつむりつしこう)

『月刊 税』2015年6月号

悉無律思考とは

 悉無律思考は「しつむりつしこう」と読み、その意味は、全か無かであるとか、白か黒かなどのように物事を二者択一の関係に単純化してしまう考え方のことである。対象を、いわゆるオール・オア・ナッシング(all or nothing )として対立関係に整理する思考方法で、単純であるがゆえに分かり易いという側面はあるものの、人間の思考や行為、またその評価というものは、必ずしもその全てがこうした単純化された図式に当てはめることができないので、この思考法に依る場合は、それが妥当する対象を適切に選択する必要があるだろう。さもなくば、説得力のある妥当な結論を導くことができない恐れがある。

 例えば、学校の音楽の授業で先生から「君は歌がうまいから歌手になれる可能性がある」と言われたとしよう。この場合、その先生が言った言葉の意味は、その生徒がクラスの中で最も上手だからかもしれないし、あるいは学年又は全校生徒の中で最も上手だからかもしれない。いずれにしろ、その先生の経験値(経験に基づく評価基準)に照らしてその生徒が上手いということなのだが、「歌手になれる」とも「歌手にはなれない」とも明言せずに、可能性という曖昧な表現としたのは、そのように明言できるだけの判断材料を持ち合わせていなかったからにほかならない。つまり、ここでの先生の評価は相対的なものであり、なおかつ主観的なものであるからこそ、先生は「なれる」又は「なれない」という二者択一的な判断(悉無律思考)を避けて、敢えて「なれる可能性がある」という曖昧な言い方をしたのである。

悉無律思考と滞納整理

 前出の例では、悉無律思考の馴染まない場合について述べたが、これとは対照的に滞納整理という事務は、むしろ悉無律思考に馴染むのではないかと思う。というのも、徴税吏員には、財産調査のための調査権限と強制徴収のための処分権限という強力な権限が付与されているが、これらの強力な権限の根拠は法律にあって、滞納整理は、調査により明らかとなった滞納者に係る事実の、(法律の定める)要件への該当・非該当(悉無律)を判断して進めるものだからである。

 ひとつ例を挙げてみよう。滞納整理の実務において、給与の差押えをした場合、国税徴収法で定めている差押禁止額を控除した残りの(いわゆる取立可能)金額を、滞納者からの違法又は不当な圧力や執拗な抗議によって、徴税吏員の勝手な判断で減額してしまうようなことはないだろうか。徴税吏員自身が、このような法律に基づかない(イレギュラーな)手法によって、「徴税吏員の胸先三寸でどうにでもなるのだ」と言わんばかりの滞納整理をすることなど到底許されるものではないし、これでは滞納者にも筋の通った説明ができない。いったんこうしたイレギュラーな処理に手を染めてしまえば、その滞納者は「味をしめて」しまい、今後も「以前はやってくれたではないか」として再度同様の取扱いを求めて来るであろうし、担当者が交代したときには、「前の担当者はやってくれた」などということになって、後任者が困惑することになり、正常な滞納整理に支障が出てくることになる。かかる場合は、法律の定める要件に該当している以上、徴税吏員には取立額を減額する裁量などないのである。すなわち、悉無律に反するグレーゾーン(中間的な判断)など認められないということである。

要件事実の法該当性

 また、差押えの法定要件は「滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき」(市町村民税の場合)というものであり、法的にはそれ以上でもそれ以下でもない。すなわち、如上のように滞納整理の根底には、滞納者につき法所定の要件を満たしているか、それとも満たしていないかという要件事実の法該当性という「悉無律思考」と相通ずるものがあるのである。換言すれば、滞納整理には、滞納者に係る事実が、事前に示された基準や要件(法令)に当てはまるかどうかという悉無律的な構造が妥当すると言えるのではないだろうか。

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