議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第57回 議員のなり手不足対策の方向性はどうあるべきか?
地方自治
2021.10.14
本記事は、月刊『ガバナンス』2020年12月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
9月30日に総務省から「地方議会・議員のあり方に関する研究会報告書」が公表された。これは、只野雅人・一橋大学大学院法学研究科教授が座長となって、昨年6月から地方議会に関する様々な課題について議論されたものであり、特に議員のなり手不足対策については重点的に言及している。
現場の意見を報告書に反映することも目的の一つとして、昨年11月には総務省主催で「地方議会活性化シンポジウム2019」が開催された。筆者もパネリストとして参加し、「多様ななり手をどう確保するか」とのテーマに関して、「多くの場合、サラリーマンが立候補するには、職を辞することが前提となるため、労働法制上の環境整備が不可欠」との意見を述べた。
報告書では、議員のなり手不足問題に関して、請負禁止の緩和、立候補環境の整備などについては、第32次地方制度調査会でさらに検討して当面の対応が答申され、法改正へ向けた方向性が示された。一方、議会の位置付けや議員の職務の法制化など、議事機関としての本質的課題については、次期地方制度調査会における継続審議となった。
■議員の職務等の法制化の意義
確かに議会の法的根拠は、憲法93条で「法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する」とされ、それを受けて地方自治法(以下、「地自法」)89条でも「普通地方公共団体に議会を置く」と規定されるのみである。議会がどのような権能を有する機関として組織されたものなのかは、法の実務規定や会議規則を読み込まなければ理解不能で、市民視点からは不親切極まりないと言えよう。
議員に関する規定に至っては、公選職であるということだけは憲法93条の規定から理解できるが、議員の果たすべき職責については、地自法を見ても明らかでない。
地自法は、行政組織、職、財務等に関しては規律密度が極めて高く、地方の自治権担保のための法というよりも、国による自治体管理のための法の色彩が濃い。一方、議会に関しては前述のように規律密度が低く、各々の議会で基本理念等を共通認識する必要性があることも、議会基本条例の制定数が自治基本条例を上回る理由の一つだろう。
そのような法的根拠の抜本的な見直しも重要な視点であり、報告書の文中にも「議員の職務等の明確化が住民の理解を深め、新たな人材の議会への参画を促進する」との意見があるが、なり手不足対策としての即効性までは期待できないだろう。
■抜本的解決の方向性
なり手不足問題の抜本的解決のために最初に取り組むべきは、議会制度を自治体規模や地域特性によって多様化することではないだろうか。執行機関の権限は規模別に区分されているが、議会は議員定数127の東京都議会から議員定数5の沖縄県北大東村議会まで全国単一制度であり、諸外国との比較でも制度設計自体に雑な感がある。
合議制機関としては市民意見の反映が肝要であるが、そのための最適手法は規模のほか、地理的条件、住民気質などの地域特性に大きな影響を受けるため、当該自治体に最適な地方議会制度が必要と感じる。
同様に議員のなり手不足も、小規模議会に偏在する課題であり、地方議会制度のあるべき論に遡って議論を始めなければ、抜本的解決は望めないのではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
第58回「地方と中央の思いがすれ違うのは何故か?」は2021年11月11日(木)公開予定です。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。