巻頭インタビュー 「いつでも・どこでも・スピーディ」に、人に優しい暮らし・サービスへ(特集:人に優しいデジタル社会を目指して)

NEW地方自治

2021.10.14

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2021年10月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

「いつでも・どこでも・スピーディ」に、人に優しい暮らし・サービスへ
(特集:人に優しいデジタル社会を目指して)

大阪府豊中市長 長内繁樹 

月刊「J-LIS」2021年10月号

 大阪府北部に位置する人口40万人の中核市・豊中市は、情報セキュリティ対策に力を入れ、業務効率化と行政サービスの向上を図るために電子化・ICT化を推進しています。2020年には「デジタル・ガバメント宣言」を発出し、市民の利便性・快適性を高めるため、すべての行政手続きのオンライン化を目標に掲げました。また同時に、「誰ひとり取り残されることのない社会」の実現も打ち出しています。

 そこで、長内繁樹市長に、「デジタル・ガバメント」の取り組みのねらいと進め方、デジタル・デバイド対策などについてお伺いしました。

電子化推進度ランキングで全国市区町村1位

──豊中市は「日経グローカル」(日本経済新聞社)が2020年に発表した「電子化推進度ランキング」で、全国市区町村総合第1位に輝きました。電子化の推進では、これまでどのようなことに取り組まれてきたのでしょうか。

長内市長 1962年に現在の市役所庁舎が完成し、早々に電子計算機を置いて業務の電算化に取り組んだと聞いています。本格的な電子化・情報化は、平成に入ってから、1994年に「地域情報化計画」を策定し、地図情報のデジタル化に取り組んだことから始まりました。市内の道路や家屋等の地図情報をデータベース化し、庁内で共有するとともに、市民に提供しました。デジタル地図情報は様々な分野で活用されており、最近ではデジタルハザードマップを作成して公開しています。

 また、1989年に個人情報保護条例を制定して以降、電子化の推進にあたっては、大量の個人情報や行政情報などのセキュリティ対策を市の組織全体のガバナンスとして取り組んでいます。2006年には情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格「ISO/IEC27001」を取得しており、情報セキュリティ統括責任者を定め、情報セキュリティポリシーの下でデジタル情報の活用やICT化を推進して市民サービスの向上を図ってきました。

──その情報セキュリティ体制が高く評価されて、ランキング1位に輝きました。

長内市長 電子化推進度は5部門で構成されていますが、情報セキュリティ対策が1位で、行政サービスの向上・高度化は4位、電子自治体の推進体制は5位でした。情報セキュリティ対策への評価によって5部門全体のランクが押し上がったようで、電子化推進度ランキング総合1位は正直、驚きました。喜びというよりも、長年の取り組みで構築した情報セキュリティ基盤でしっかり行政サービスを向上させなさい、盤でしっかり行政サービスを向上させなさい、と叱咤激励された気がしました。ですから、行政サービスの向上・高度化などでも1位をめざしたいと自らを奮い立たせています。

「デジタル・ガバメント宣言」を発出

──2020年8月に「“Re とよなか” とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発出されました。発出の背景とねらいを教えてください。

長内市長 私自身、以前、市役所で高齢福祉分野などを担当しており、様々な申請や手続きのたびに市民の皆さんに市役所の窓口へ来ていただくのは大変だという問題意識を持っていました。電子申請の仕組み自体はかなり以前からでき上がっていたものの、活用がなかなか進みませんでした。マイナンバーカードによる住民票の写しなど各種証明書のコンビニ交付やマイナポータルでの電子申請、インターネットでの窓口来庁時間指定の予約、また、一部の手続きでオンライン申請を行っていましたが、十分ではありませんでした。

 そのような中、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、緊急事態宣言が発出されて外出自粛が求められました。にもかかわらず、証明書が必要な場合は、市役所へ出向かなければなりません。そこで、市役所へ出向かなくても手続きが行えるようにすべきとの思いから、「デジタル・ガバメント宣言」を発出しました。

──コロナ禍で、デジタル化を加速させなければならないと考えられたんですね。

長内市長 電子化・ICT化によって業務の効率化や行政サービスの向上に努めてきましたが、新型コロナウイルス感染拡大下においては従来の手法では対処しきれないため、デジタル技術をフル活用して大きく変革すべきだと考えました。

 すなわち、行政の業務効率化に重点を置いて取り組んできた電子化・ICT化によって得られたメリット、例えば、事務負担軽減によって生み出された財源やマンパワーは、行政内部のためだけでなく、しっかり市民に還元しなければならないと再認識しました。また、これまでは市民に来庁していただくことを前提に市民サービスの向上に努め、総合窓口化・ワンストップサービス化を図ってきました。もちろんそれは大切なことですが、そもそも来庁しなくても各種手続きが行えるようになれば、市民の利便性・快適性は高まります。つまり、来庁しなくてもいい市役所をめざすべきだ、と発想を転換したのです。

デジタルで価値創造と変革を図る

──「デジタル・ガバメント宣言」の概要とポイントを教えてください。

長内市長 まず、デジタル技術を活用し、暮らしや社会経済活動をより良いものに変えていくことが基礎自治体の使命であることを明言しました。その上で、デジタル技術によって、様々な主体がつながり合い、市民の暮らしや地域経済を支え、まちの発展につなげる取り組みを推進することとしました。そして、デジタルによって新たな価値創造と変革をめざすことを掲げています。

 その実現に向けて、①暮らし・サービスを変える、②学び・教育を変える、③仕事・働き方を変える、の“3つの変える”を取り組みの柱として打ち出しました。

──この3つの柱はどのように進めていくのでしょうか。

長内市長 暮らし・サービスにおいては、デジタル技術で暮らしや社会経済活動をより便利なものに変える第一歩として、市民や事業者の皆さんが来庁しなくても様々な手続きが可能になる「オンラインサービスの拡充」を最重点課題とし、スピード感を持って進めます。

 学び・教育では、新たな学びの実現をめざします。新型コロナウイルスの感染拡大によって学校教育に大きな影響が出ましたが、一方でオンライン授業など新たな学びの形が生まれ、学習の可能性が広がりました。それを好機ととらえ、デジタル技術による教育環境を整備し、場所にとらわれない、一人ひとりに最もふさわしい創造性を育む新たな学びを創出します。

 仕事・働き方では、テレワーク・リモートワークによって従来の仕事の進め方・働き方が見直されるようになりました。市民サービス業務に対する市職員の意識改革も進んでいるので、デジタル技術を駆使して職員の働き方を改革したいと思います。

 また、この“3つの変える”を推進するために、①オンライン、②利用者起点、③外部リソース、という3つの視点を示しました。

 まず、市役所での手続きや相談業務はオンライン化対応を原則とします。会議にもできる限りオンラインを導入し、リモートで意思疎通を図って合意形成につなげる。オンラインであれば遠方からも参加でき、1か所に集まる必要がないので日程調整が容易になるという利点があります。2番目の利用者起点は極めて大事な視点です。役所の仕事は普遍性・公平性の下で独善的になりがちなので、サービスを利用する市民の立場に立ってデジタル化を進めなければなりません。また、市だけでは知り得ない情報や行政の視点では思いつかない発想がたくさんあるので、民間や市民団体など多様な主体との連携や外部資源の活用を図っていく必要があります。昨年から今年にかけて、様々な連携協定が生まれており、公民学で連携・協力してコロナ禍の危機を乗り越えたいと思います。

約910件の行政手続きをオンライン化

──「デジタル・ガバメント宣言」の翌月には「とよなかデジタル・ガバメント戦略」(図)を策定しています。スピーディに策定できた秘訣は何でしょうか。

長内市長 「デジタル・ガバメント宣言」発出後、一気呵成に進める必要がありましたが、私が指示しなくても職員がそのことを感じ取り、ボトムアップで様々なプランが出てきて戦略がまとまりました。情報政策や職員の働き方などを管理している総務部、政策企画や経営計画などを担っている都市経営部、財政部門の財務部が中心的な役割を担いましたが、全職場に関わる取り組みなので全庁を挙げて策定しました。

 スピーディに対応できたのは、職員自身が市民サービス向上の意識を日常的に持っていたこと、また、コロナ禍で危機意識を高めていたことがあったのだと思います。市民サービスや業務のあり方、自らの働き方を改革しようという強い意欲の表れであり、職員の底力を感じました。


図 「とよなかデジタル・ガバメント戦略」概要

──「デジタル・ガバメント戦略」のポイントや重点的に取り組みたいことは何でしょうか。

長内市長 第一に、市民の皆さんが来庁しなくても、より簡単に様々な手続きを行えるようにすることです。2022年度末までに、法令などでオンライン化の対象外とされている手続きを除いて、すべての行政手続きをオンライン化することを目標に掲げました。

 その工程表を作成するために行政手続きの棚卸を行ったところ、約940の手続きがあり、そのうち法令等によりオンライン化の対象外となる約30の手続きを除いた約910件をオンライン化の対象としました。その中には、面談が必要、添付書類に原本を求めているなど、現状のままでは対応困難な手続きもありますが、課題整理や事務フローの見直しなど手法等を検討してオンライン化を図っていきます。一方で来庁者には、キャッシュレス決済の拡大や必要な手続きを案内するシステムの運用などによって、非接触でスピーディな窓口サービスを提供します。

 デジタルを活用した仕事・働き方の見直しでは、庁内ネットワーク等のインフラ設備を増強し、Web会議やテレワーク、AIなどの先端技術の活用をさらに進めます。

──どのような体制で進めていますか。

長内市長 「デジタル・ガバメント戦略」を策定した翌10月には、情報セキュリティや電算、デジタルを担当していた情報政策課を廃止しデジタル戦略課を新たに設置しました。プロジェクトチームなども立ち上げており、それに伴い、組織変更や人事異動も適宜、行ってきました。職員は大変な思いをしているかもしれませんが、コロナ禍による緊急事態においては機動的に対応しなければなりません。そのことを職員は十分理解しており、しっかり動いていると思います。

市民の情報リテラシーの向上を図る

──手続きのオンライン化にあたって、オンラインを利用できない市民に対しては、どのような対応をお考えですか。

長内市長 「デジタル・ガバメント戦略」ではデジタル・ガバメント実現の基本的な方向性として、「誰ひとり取り残されることのない社会を実現する取り組み」を掲げています。

 また、「デジタル・ガバメント宣言」と同時に「豊中市安心つながり宣言」を発出しました。その宣言では、SDGsの理念の下、どのような環境においても社会的孤立をなくし、新たなつながりをつくり、必要な人に必要な支援を届けることを打ち出しています。

 デジタル・デバイド対策としては、2003年に阪急豊中駅舎内に「エキスタとよなか」を開設しました。市民がパソコン等の情報機器やインターネットを利用しながら、市民相互の働きかけで情報リテラシーを向上させるための推進拠点です。エキスタでは、パソコン初心者対象の無料パソコン相談を実施するとともに、市民パソコン講習を定期的に開催しています。その講師などを担っているのは、市民ボランティアの地域ITリーダーです。地域ITリーダーには年配の市民も多く参加しており、パソコンの操作などで困っている高齢の市民からは、年代や価値観が近いと何に困っているのかを理解してもらえ、聞きやすいと好評です。

 また、公民館や介護予防センターなどで、スマートフォンの未経験者を対象にした操作方法や活用法などの講座も活発に行っており、市民の情報リテラシーの向上に向けて地道な取り組みを進めているところです。


▲阪急電鉄「豊中」駅舎内にある「エキスタとよなか」

──市民の情報リテラシーは高まっていますか。

長内市長 スマートフォンの全国の普及率は75%といわれており、かなり浸透してきています。普及率が低いとみられている高齢者世帯でも、コロナ禍で孫に会えなくなったため、スマートフォンのテレビ電話でコミュニケーションを図る市民も増えているようです。また、コロナ禍でキャッシュレス決済がかなり進み、スマートフォンを使ったキャッシュレス決済サービスを利用するとキャッシュバックしますと商店街で広めてもらったところ、高齢者の利用が増えたといいます。キャッシュバック付きのキャッシュレス決済は、デジタルツールを活用する契機にもなったわけです。

 ですから、一つのきっかけ、あるいはインセンティブがあれば、デジタル機器は浸透し、デジタル化・オンライン化を推進することの障壁は低くなると考えています。

──それでも利用できない市民に対して、打つ手は何でしょうか。

長内市長 デジタル機器をうまく使いこなせない市民へは、引き続き、デジタル・デバイドを解消する機会をしっかり設けていきます。

 また、デジタル機器自体を持っていない市民に対しては、職員が電話や対面などで対応していきます。デジタル・ガバメントは、すべてをデジタルやオンラインで解決しようという取り組みではありません。デジタル化・オンライン化で職員の事務負担が軽減されたのであれば、そこで生まれた時間や労力はオンラインでアクセスできない市民への対面サービスの充実に投じていく、あるいは職員が地域に出向いて支援していくことが大事です。それこそが、市役所本来のあり方、市職員の姿だと思います。

 また、スマートフォンを使いこなし、ネットを見ている市民であっても、市役所の情報を見ているのは、子育てや介護している家族がいるなど特定の世帯に限られているケースも少なくありません。

──その対応において、職員に求められることは何でしょうか。

長内市長 市民が求める情報と市が提供する情報がマッチするよう、しっかりニーズをつかんで発信すること。また、相談でもオンラインを活用しますが、オンラインや電話、来庁して相談してくれる市民だけでなく、声を発しない市民にも目を向け、耳を傾けていく必要があります。ネット上の情報だけでなく、地域に足を運んでしっかり生の情報を得て、必要な対応や支援につなげていかなければなりません。つまり、各職場において人間力を発揮することが、何よりも大事だと考えています。

市民サービスを進化させる

──「デジタル・ガバメント戦略」では、マイナンバーカード取得の一層の促進を打ち出されています。取り組み状況はいかがですか。

長内市長 専門の窓口を設け、スマートフォンでのオンラインや郵送による交付申請も進めています。ただ、取得のメリットを理解してもらわなければ普及は難しいので、来庁者へ積極的にアプローチして、マイナンバーカード取得の啓発を図っていきたいと考えています。「デジタル・ガバメント戦略」では、2022年度の取得率60%を目標にしています。

──取り組みの手応えと今後の展望をお願いします。

長内市長 「デジタル・ガバメント宣言」を発出したことによって、コロナ禍の危機的状況の中で市民サービスを向上させるにはどうしたらいいのか、自分たちの仕事をどう見直したらいいのかを職員自ら考えるようになりました。それが大きな成果の一つだと感じています。また、市民の利用者起点でサービスを改善することに対しては、便利になるのであればどんどん進めてほしいといった市民の声を耳にしています。

 「デジタル・ガバメント宣言」は大上段に構えたものではなく、市民にとって利便性・快適性の高い市役所をめざそうという思いで始まった取り組みです。その際、“市民に来ていただく市役所”といった従来の観念に縛られず、“スマートフォンに搭載され、どこからでもアクセスできる市役所”という新たな視点と発想を持ち、行かなくてもいい手続きを広げれば市民のメリットは高まると考えました。

 未来の市役所像を想像するのはなかなか難しいのですが、市民に今後も住み続けてもらい、市外の人にとって住みたいまちになっていくため、これからも市民サービスを進化させ、それがしっかり見える基礎自治体をめざしていきたいと思います。

 

Profile
大阪府豊中市長
長内 繁樹 おさない・しげき
1958年生まれ。関西学院大学経済学部卒業後、1983年に豊中市に入庁。健康福祉部長、副市長等を歴任して退職。2018年5月に市長就任(現在1期目)。大阪府市長会副会長も務める。

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